閑話二 いっそここでおっぱいポロリしちゃうか……?

「ガウ。さっき、義兄上、同じ魔法、使った! ヴァン子、なぜ、男装する!!」


 真剣な表情で僕に問いかけてくるヴイさん。まさかの勘違いに、困惑してしまう僕。あれか、最初に出会ったのがヴァン子でその後に出会ったのがヴァンだし、ルンパパッドは女性陣からも完璧だってお墨付きだから偽物に見えなかったのだろう。それに好きになった人が男性だったとか、衝撃的すぎる(事実だけど)。


 いっそここでおっぱいポロリしちゃうか……?


 いや、ダメだ。そんな事したら社会的に僕が死んじゃう。みんなの前で女装してまーす! とか出来る筈がない。なんか噂によると僕が泳いでるのって一部では風物詩みたいになってるらしいし、それが実は男でしたー! とか帝国内をこれからとても歩けない。


 一応、ダイスン獣国に行くからその間にそんな噂終わりそうな気もするけど、帝国内には清掃の常連客もそれなりにいるし、いつの間にか僕に女装癖があるとか思われたらお仕事行けなくなっちゃう。


 ちなみにダイスン獣国には次の碧の月になったら出発する事になった。理由はこれから寒くなってくるからだ。もうすぐ黒の月、一番寒い時期になってしまう。寒いってだけでリスクだし、そんな状況で皇族が謝罪する為とはいえ、使者として行ける筈がなかった。それはヴイさんも了承してくれているし、それぞれの準備も含め、暖かくなる碧の月になったら出発する形で決定したんだ。


 とまぁ現実逃避はここまでにして、どうしよう……。


「ガウ。ヴァン子、あれか? 女、好きか?」


 あるぇ? なんか方向性がおかしなことになってる気がする。


「ち、違いますわよ。いや、違わなくもないのですわよ」


 自分で何をいってるかわからない。


「ガウ。やっぱ、女好き。ヴァン、なる。女、寄ってくる」


 これはまずい! どこか、軌道修正しないと!!


「ヴイさん、それは違いますわ。これには深い訳がありますの」


「ガウ。深い訳、何?」


 さぁ、どうする?


「えっと、ですね。わたくし、ギルドに登録してるでしょう? ヴァンはわたくしがギルドで仕事する時に舐められないようにやってる恰好ですわ」


 どうよ!? 我ながら咄嗟に考えたにしてはうまいと思うんだけど??


「ガウ。ヴァン子、いい女。ギルド、絡まれる、困る。男、絡まれない。なるほどだ!」


 よし、これでとりあえず、男装してるって事で落ち着いた。いや、落ち着いちゃ駄目なんだけど! 今日、これからプロポーズされるのに、実は男だったっていえなくなったじゃん!!


「そ、そうなのですわよ。オ、オホホホホホホホ」


 最終手段を失ってしまった……。ま、まだ時間がある筈だ。いや、さっきプロポーズされる寸前だったじゃん! もう時間がないよ!?


「ガウ。それで、俺、ヴァン子、言いたい事、ある」


「は、はい」


「ガウ。俺、大会、優勝した。それ、ヴァン子、お前のおかげだった。改めて、礼を言いたい」


「既にお礼は聞きましてよ?」


「ガウ。けど、それ、ヴァンだった。ヴァン子、違う。だから、今、お礼、する」


 今日は、ずっと真剣なヴイさんを見てきたけど、今の姿が一番かっこいい。これで僕が本当に女の子であったらどんなに良かっただろうか……。


「そうですわね。わたくし、ヴイさんと一緒に戦えて、楽しかったですわ」


「ガウ。俺も楽しかった」


「はい」


 暫くの沈黙が続く。ヴイさんも決心を固めているのだろう。これだけ真剣になってくれているんだ。うん、僕も真剣に応えなきゃ。


「ガウ。俺、ヴァン子、好きだ。一目惚れしている。結婚してほしい」


「ヴイさん……」


 僕は、バカだ。どこまでも中途半端で、それがヴイさんを苦しめている。ここまで来てもまだ、どこか自分自身の保身を考えている。男だからとかそんなの関係なく、僕はヴイさんの気持ちに応える事が出来ないんだ。期待させてはいけない。


「ヴイさん、お気持ち、凄く嬉しいですわ。ですが、わたくしでは、その気持ちに応える事は出来ませんの」


 ショックを受けた表情をしているヴイさん。こんな表情、出来るならさせたくなかったな。


「……ガウ。なぜだ?」


 なんとか絞り出したであろう台詞。僕の胸まで苦しくなってくる。だけど、ここで中途半端はいけない。


「わたくし、『好き』という感情がまだはっきりわかりませんの」


「ガウ。わからない……??」


「そうですのよ。実はわたくし、母を幼い頃に亡くしてまして。父にいたっては誰だかわかりませんわ。母からは愛されていた、という実感はございましたが、『夫婦』というものがわかりません。大切に思っている方はヴイさんを含め、たくさんいらっしゃいますが、それがどう大切なのかがわからないのですわ」


 僕は、お母さんを亡くしてからサラさんと領主様に育てられた。二人は僕に対して愛をもって接してくれていたと思う。けど、それは親子愛なのかそうなのかわからない。そもそも、愛が僕にはわからない。


 よく話を聞くのが、ずっと一緒にいたい人。それだったら僕にだってそれこそたくさんいる。けど、それってそういう事じゃないんだろ?


 このヴァン子の姿になってから気付いたけど、男性からの視線が多い。それは、ヴァン子を抱きたい、って感情であれば、それはただの性欲になるんだと思う。けど、好き同士であれば、性欲が湧く事だってあるだろう。魅力的といえば、これまで出会った女性は魅力的だったし、仲間であるアイさん、リスさんもとても素晴らしい女性だと思っている。だけど、それが『好き』とどう違っているのかわからないんだ。


 なんとなくだけど、アイさんが僕に対する態度が他の人とは違うのは気付いている。僕は長い間、外に出る事は出来なかったけど、これまでの経験からなんとなく、そう感じとる位は出来た。それは今、ヴイさんが僕に向けてくれている感情と似ているようにも感じる。だけど、それに確証がある訳じゃないし、きっと今の僕ではそれに応える事は出来ないと思うんだ。


 僕の言葉に俯いてしまったヴイさん。困らせてしまったかな。だけど、はっきりいえば、僕はアイさんもヴイさんも好きだ。勿論、ケルヒやリスさんも……。どこか微妙に違う感情があるかと聞かれたら『無い』とは言い切れないけど、『ある』とも言い切れない。こんな時に人生経験が少ないが悔やまれてしまう。


 ヴイさんの頭の中の整理が終わったのか、暫くするとこちらへ顔を向けてきた。


「ガウ。わかった。俺、ヴァン子の好き、見つけてやる。それ、わかったら、結婚、しろ!」


 真っすぐ僕を見つめる瞳は、絶対的な決意を感じさせた。


「……わかりましたわ。ヴイさんのお気持ち、心の中で受け止めさせてくださいませ


 お互いに笑いあうとそのまま今日はお別れをした。結果的には、しっかり終わらせられた訳じゃなかったけど、これでよかったのかもしれない。


 最初、「好きじゃないから付き合えない」というべきか迷った。だけど、ヴイさんの気持ちを受けて、僕の率直な気持ちを伝えてみたくなったんだ。実はさ、街を歩いている時、男女で手を繋いで笑いあってる人を見て、自分のこの状態が漠然と怖くなった事が何回もあった。


 ヴァンでもヴァン子でも異性からソレっぽい視線を感じた事は何回かあるけど、それに応えたいって思った事はまだ一回もない。それが普通なのか、それとも僕が異常なのか……。勿論、ドキドキした事が無い訳じゃないよ。ルロさん、アイさんと一緒に買い物した時はドキドキしたし、今日のヴイさんとの話もドキドキした。ケルヒと初めて話をしてた時も凄くドキドキしたな。今もすぐに思い出せる、そんな懐かしい思い出だ。


 まぁとにかく、ヴイさんにしっかり自分の気持ちを伝えられたのは良かった? と自分では思っている。今回の僕の応え方が正しかったかは正直わからないけど、僕は僕なりにこれからも応えていきたいと思う。


 『好き』って何か知りたいし……ね?


――――――――――――


 第五章まで読んでいただき、ありがとうございます! これにて第五章は終幕し、舞台は第六章へと移っていきます。


 新キャラいねーじゃん! アイって飯マズヒロインだけどそんなとこも好き! って思ったそこのあなた、いや、思わなくても応援してもいいですよ? って思っていただけた方、評価☆、フォローをよろしくお願いします。それを励みに頑張ります!


 それでは引き続き、『掃除機魔法が全てを吸い尽くす!!』をよろしくお願いします。

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