閑話一 このままじゃ、僕、お嫁さんになっちゃう?

ヒラヒラとしたスカートから見えるスラっとした脚が眩しい。サラサラしている長髪が太陽の光に反射して輝いている。そして、道を歩けば、その美しい容姿に皆が振り返ってしまうだろう。


 うん、まぁ僕なんだけどね。あ、ちなみに自画自賛じゃないよ? ヴイさんがそう褒めてくれただけ。これって喜ぶべきなの? 悲しむべきなの?


「ガウ。今日、楽しみ、だった! ヴァン子、俺、活躍、観てたか?」


 めっちゃウキウキしてますやん。ヴイさん、僕は観てたどころか隣で一緒に戦ってましたよ。


「はい。ちょっと諸事情がありまして、途中からになってしまいましたが、とてもかっこよかったですよ?」


 はい、必殺サラさんスマイル! これでどんな男だってイチコロだぜ。ってヴイさん落としてどうすんねん。って、もう落ちてたわ。


「ガウ! そうか! 俺、かっこよかったか!」


 ヴイさん純粋でメッチャいい人だなぁ。っと今日は何でこんな状況になっているのかというと、先日にしてた『勝ったらプロポーズをされる宣言』が執行される為にデートしているのである。


 断る選択肢も一応あったんだけど、ヴイさんの真剣な表情と周りのみんなの圧力に負けてしまってデートを断り切れなかったんだ。っていうより、そろそろ正体を明かさないと……。


「それでは、今日はどちらに連れてってくださるんです?」


 とりあえずいきなりプロポーズって事はないだろうし、何かしてからプロポーズの流れになるのかな?


「ガウ。まず、あっち、行く!!」


 ガシっと手を握ってくるとちょっと強引気味な感じで僕を先導していく。優勝した事で、すっかり有名人になってしまったヴイさんは、周囲の人々の注目を集めてしまっていた。ざわざわと騒がしくなっている周囲なんて気にしないで、どんどん突き進んでいく。


 うん、完全に僕しか見えてないんだな。その気持ちはとても嬉しいんだけど、決して報われる事はない。だって僕、男の子だし……。


 流されるがままに連れていかれたのは雑貨屋さんだった。そう、僕がアイさんに髪留めをプレゼントした店だ。偶然だろうか?


「ガウ。ここ、いい物、いっぱいらしい! アイ、俺、教えてくれた! ヴァン子、プレゼント、する!!」


「あ、ありがとうございます」


 やはり犯人はアイさんだったようだ。これだけ広い帝国内で同じ店に入るなんて、こんな偶然流石にないもんね。


「ガウ。ヴァン子、似合う、用意する!」


 店に入った途端、店の中を物色し始めるヴイさん。必死なのはわかりますが、置いてけぼりです。


 べ、別に寂しくなんてないんだからねっ。はぁ、何言ってるんだろ。


 せっかくなので僕も店の中を歩いてみた。この店の品揃えは中々だ。日用雑貨から、アイさんにプレゼントしたような装飾品もある。この中からヴイさんが何を選ぶのか、ちょっと気になるところだ。今も店の中をウロウロと探し回っている。周囲のお客さんもその様子が気になっているのか視線が凄い。


「ガウ。ヴァン子! これ、どうだ!!」


 右往左往して選んだ結果がこれ。白い水晶の中にこれは毛? が入ったイヤリングだった。


「こちらは?」


「ガウ。俺、魔力、入れた! 俺、毛、入れた! お揃い!!」


 既にヴイさんの左耳には白い水晶が光ったイヤリングが着けられていた。うん、よく似合う。


 それにしても、水晶の中にヴイさんの魔力と毛? を込めたって事かな? 魔力はわかるけど、毛ってなんでだろ? けど、水晶の中で魔力が渦巻いているのかヴイさんの毛と一緒にユラユラしている。


「ガウ。これ、好きな奴に贈るやつ! 俺の魔力、身体の一部、贈る!」


 すっごい直球! 周囲にいたお客さんも思わず拍手していた。ヴイさんみたいなイケメンがこれだけ直球でくると男でもドキっとするもんだね。ヴイさんからは下心も見えないし、素直な好意が眩しい。そして自分の行っている嘘に、凹まされてしまう。


「ありがとうございます」


 こんなプレゼント断れる訳ないじゃんか。けど、このままじゃ、僕、お嫁さんになっちゃう?


「ガウ! じゃあ、次!!」


 既に会計を済ませていたのか、イヤリングを僕の右耳に着けると、外へと出た。いきなりプレゼントスタートの全速力なところもヴイさんの性格を知っている僕から見ると、ほほえましく思ってしまうから不思議だ。


 そして次に辿り着いたのが、屋台だった。まぁ、今までの状況から考えても店で食べる機会なんて、僕達が泊まっていた宿くらいだろう。皇帝陛下から先日、奴隷解放宣言はされた為、獣人の奴隷が帝国内からいなくなった。今は一か所にまとめられ、後日、ダイスン獣国に送還されるらしい。


 逆らう人もいるかと思っていたけど、皇帝陛下が絶対の国において、逆らう事は本来であれば処刑らしいので、手放さざるを得ないのだろう。一応代わりの補填もされるようなので、正当に購入した人も損をした訳ではないようなので一安心だった。


 それにしても僕はあと一歩で処刑だったんだね。まぁ絶対権力者に逆らう事をいったんだから当然か……。ただ、あの時は、皇帝陛下から発言する許可を得る事が出来たから捕縛される事も無かったんだろう、ってスケベジジイがいってた。そういえば、スケベジジイはどうしてるのだろうか? あれからほとんど顔を見なかったんだけど、元気にしてるのだろうか。


「ひょっほおおおおう!!」


 うん、元気そうだ。


「ガウ。ヴァン子、こっち、来る! ジジイ、ヤバい奴!!」


 凄まじい速度でこちらに近づいてくるスケベオーラ。これは控えめにいってヤバい。


「合法じゃ、合法じゃ!!」


「ガウ!!」


 そこからは一進一退の攻防戦。瞬間移動? をする事でスケベジジイはヴイさんの背後を取るけど、野生の勘が働くのか、移動した瞬間にはヴイさんの拳がスケベジジイに放たれる。それを避ける為に再び移動し、距離を取る。僕の背後に回ろうとするとするも、既に読まれていて、一歩も近づけていない。ただし、どちらも一撃も与える事は出来ていない。身体能力的に、ヴイさんが若干有利なところか?


「ほう、流石は今年の優勝者じゃ。動きが違うのぉ。じゃがな、漢にはやらねばならぬこともあるのじゃ!!」


「『吸引』」


「なぬ!?」


 これだけ僕の目の前でこんなに『』を放っていてバレないと思っていたのだろうか? おそらくだが、スケベジジイが使っているのは僕と同じ『特異魔法』だろう。それも移動特化したような。だから、僕はその元になる魔力を吸い取った。この前の戦いで、より、必要な物のみを吸う事が出来るようになったんだ。


 こうなればヴイさんに敵う筈もなく、スケベジジイは一目散に退散していった。これで懲りてくれたら大変嬉しく思う。まぁ無理だろうけど。


「ガウ。ヴァン子、ありがとう」


「いえ、あれはスケベジジイが悪いのですよ。気にしないで食事を続けましょう?」


「ガウ!」


 食事を終え、今後の事や、他愛もない会話をしている内に、気が付いたら辺りは暗くなってきてしまった。


 そして本日、最後に来た場所は隅っこにあるような人気のない公園。小さいながらもしっかり手入れのされていて、とても花が綺麗な公園だ。


「ガウ、今日、一日、楽しかった」


「わたくしもですわ」


 ヴァン子としてだけど、今日は本当に楽しかった。こんな僕の事を好きになってくれて、本当に嬉しく思った。だけど、それもこれで終わりだ。


 真剣な表情でこちらを見てくるヴイさん。きっとこの後――。


「ガウ。ヴァン子」


「はい」


 このまま告白するんだろう。


「ガウ。俺、気付いてしまった」


「え?」


 気付いた……?


「ガウ。俺、義兄上、魔力、纏った。だからわかる。ヴァン子、義兄上、魔力、同じ


 まさか僕がバラす前にバレてしまってたのか……。


「ガウ。ヴァン子! なぜ、してる!?」


「ええええええええええええええええええええ!!」


「ガウ。さっき、義兄上、同じ魔法、使った! ヴァン子、なぜ、男装する!!」


「まさかのそっちかぁ……」


 まさか、ヴァンが女装してるんじゃなくて、ヴァン子が男装してると思うだなんて、予想外だ。なんて説明しよう。最後の最後に、まさかの展開だ。ヴイさんにどう説明しようか……。僕は頭を抱える事になってしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る