第十九話 戦いが終わるとなんか毎回、このパターンな気がする。
「もう一人の僕?」
気が付いたら真っ暗な空間にポツンと立っていて、それが夢の中だって事にはすぐに気が付いた。そして、目の前にいるのはもう一人の僕。
「今回も本当にありがとう。助かったよ」
「かまわん。我にも必要な事だったのだからな」
「まぁそりゃそうだけどさ。それでもありがとう」
「そんな事より、今の状況がわかってるのだな?」
もう一人の僕が心配そうにこちらを見ている。けど、そんな顔しなくてもいいんだよ。わかってるから……。
「愚問であったな。許せ」
もう一人の僕の謝罪を無言で頷く事で流した。もう一人の僕の気持ちもわかるからだ。
「これからどうなると思う?」
「まぁ順調に混ざっておるからな。最終的にどうなるかまでは我もわからん」
「だよね。まぁどうなるかわからないけど、それでもなるようになっていくだけだもんね」
「その通りだ。だが、思い通りにならぬよう、我も考えておこう」
そこについては僕も考えていかなきゃダメだな。ん?
「……さぁ、仲間達がお持ちかねのようだぞ。勝利を味わってこい」
真っ暗な空間の一部から光が漏れだした。どうやら時間のようだ。
「それじゃあまたね」
「あぁ、またな」
仲間達の声が聴こえてくる。今そっちに行くよ。
「あ、やっと起きましたね」
「寝ぼすけだな」
「おはー」
「ガウ。義兄上! おはよう」
それぞれが心配そうにこちらを見ている。戦いが終わるとなんか毎回、このパターンな気がする。まぁ今回も限界まで頑張ったもんな。クリサンちゃんにセアムちゃん、強かった……。よく勝てたと思う。
「おはよう。いつも心配ばっかかけてごめんね」
「気にすんなよ!」
ケルヒの返事に合わせて、みんなが笑顔で頷く。最高の笑顔で返事をしてくれると気持ちが安らぐ。本当に最高の仲間達だ。
「ありがとう。……それであの後はどうなったの?」
僕の記憶が残っているのはあの二人に勝ったところまでだ。その先がどうなったのかはわからない。
「あぁ、それだがな、本当なら表彰式があって、そこでヴァンとヴイが表彰される予定だったんだが、二人ともぶっ倒れちまっただろ? あの双子も気絶しちまってたし、とりあえず解散になった。後日、表彰式をするみたいだぜ? 流石にあれだけの国民に見られてたら皇帝陛下だって何も手出しできないだろ? 結構渋い表情してたぜ」
まぁ、まさか負けるとは思ってなかったよね。歴代で負けなしだったって話だし。僕の『掃除機魔法』と相性がよかったのが大きかった。あの二人の『魔法』をまともに受けてたらそれだけで終わっていたと思う。
「そっか。そうだね、これで獣人族を奴隷から解放出来るのか。けど、このままあっさり解放してくれるかな?」
「……わかりません。この帝国内において皇帝陛下は絶対のようですし。ただ、この『双闘大会』で優勝したチームの願いが叶えられるのは帝国民のみなさんもご存じで表彰式後、発表もされるそうなので、いくら皇帝陛下とはいえ、無下には出来ないとわたしは思います」
「ガウ。俺達、勝った。獣人族、解放する!!」
「これが最後の正念場だね。ちなみに表彰式はいつなんだろ?」
「明日」
「あ、明日!? 僕、結構寝てた?」
「あぁ、三日は寝てたかな。こうなるとヴァンはテコでも動かないからな。ヒヤヒヤしたぜ」
本当に危なかった。これで寝過ごしたら笑えない。ヴイさんだけじゃ相手にしてくれたかわからないし。ギリギリだけど、起きることが出来てよかったよ。
「そしたら明日の表彰式の時に、お願いすればいいのかな?」
「おそらくそうだろうぜ」
「そしたら明日、僕とヴイさんで覚悟を決めてくるよ」
「ガウ。義兄上、頼む。俺も、頑張る!」
「そしたら明日の準備」
「え? リスさん、明日の準備って?」
「バカ。ヴァンはともかく、ヴイはそれ用の正装が必要」
「「あっ」」
前回は僕達だけだったから問題なかったけど、今回はヴイさんも主役の一人だもんね。
ま、まだ間に合うのかな? おそらく購入じゃ間に合わないだろうから、借りる事のなるんだろうけど、大丈夫かな……?
とにかく間に合うように帝国内を片っ端から探してみよう!!
そして次の日になった。日が傾く寸前まで探し回った結果、レンタル品を買い取る形でなんとか用意する事が出来た。これは意地悪をされた訳じゃなく、その服装だと尻尾が出せない為、その部分を切らなければいけなくなってしまった。ただ、それだとお店側も困るから、選んだ服を買い取る形で何とか収める事が出来た。
本来であればサイズを測ってもらって、そこからちょうどいい服を作ってもらわなければいけなかったんだけど、今回は時間がなかったし、仕方ないよね。
とまぁ現実逃避をしつつ、城の中に入った。今回の案内人はなんとクリサンちゃんとセアムちゃんだった。気まずい空気になるかと思いきや、僕が教師だったのもあり、柔らかい雰囲気で相手をしてくれた。試合に負けたのは悔しかったけど、同時に全力でやって負けた事が嬉しかったらしい。
そして、思ってた通りだったんだけど、やはり二人は味方だった。母親の気持ちは理解してても、今の獣人族の奴隷化を止めたいと思っていたらしい。そもそも二人は叔母が獣人族が殺された事も事実なのか疑問視していて、叔母が殺された後、アイさんのように神様から夢を通して、抽象的ではあったけど、違う可能性を含めた調査をするように忠告を受けていたらしい。それを母親にも伝えたらしいけど、母親の気持ちを変える事が出来なかった。どうにかしようと思ってはいたけど、現状、変える事が出来ない、そんな状況で現れたのが僕との事だ。
そこからは何とか僕を『双闘大会』誘い込み、勝利してもらおうと思ったらしい。ちなみに、二人は本当に全力でやり、全力で負けたとの事だ。わざと負けると母親にバレるのもあるが、皇族として、戦士として全力でやるのは責務だからだそうだ。ってのは建前で、何より、負けるのが嫌いだからってのが本音だったみたい。それに現状を変えるには力が必要だ。それも自分達よりも。そう思い、僕達を信じつつ、本気で戦ったらしい。
ここまで信じてもらえたのは嬉しかったけど、あの『魔法』は今考えても反則だと思う。というより、あと少しで死ぬところだった。まともに受けてたら跡形もない結果になってたと思う。そのへんはどうお考えだったのだろうか?
「センセ~なら余裕だと思ったわん♪」
「そうよそうよ♪」
「か、簡単に言ってくれるね……。死ぬかと思ったんだけど」
そんな感じで、二人の本音を聞きつつ、先日も来た、謁見の間の目の前までやってきた。
向こうからはただならぬ気配を感じる。先日の怒っていた時の比じゃない、さらに濃密な魔力を感じつつ、一歩を踏み出す。それと同時に扉は開かれ、全ての家臣がひれ伏す、そんな異常な光景が広がっていた。だが、僕はもう負けない。今度こそ、今度こそ、こんな歪な状態を終わらせる為に、僕は頑張るんだ。
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