第十八話 これからお前達に最後の講義をしてやろうじゃないか! 我らが負けを教えてやろう
地面には点々と焦げた跡が残っている。我の『
悠然と立っている二人とは対照的に消耗してしまった我ら。お互いにダメージがある筈なのだがな、これも我の気持ちが弱いからだ。今も体内で荒れ狂う二人の魔力に不快感が増してくる。
だが、同時にこれはチャンスだ。この魔力を圧縮し、お返ししてやるとしよう。
自らの魔力を極限まで高める。これまで、数多の修練をこなしてきたのだ。たかがこの程度の魔力にやられるような我ではない!
「
「ガウ! 任せろ!!」
「あらん、まだやる気なのねん♪」
「当然だ!! 『
「あらん? これはアタシ達の魔力かしらん? ふんっ!!」
「なっ!? 殴って消しただと……、化け物だな。こうなってしまったら構わん。
一瞬止まりそうになった
「センセ~だって十分化け物よん♪ アタシ達って自分の魔力とは特別に相性がいいの。じゃなきゃ流石に無理だわん♪」
自分達の魔力との相性か。考えた事もなかったな。そもそも、自分の魔力が返ってくる状況なんてほぼ無いだろう。これにはさすがの我も驚きだ。だが、そんな程度で怯んだとしても意味がない。結局は最初の戦法である『魔法』を使わせないのが、現状では一番有効的な戦法なのだから。
あまりくっつきすぎず、だが、離れすぎず。じれったくは感じるが『魔法』を打たれてしまったら我はともかく
とにかくこちらが
とにかく死角を狙って連打を繰り返す。こうなってしまえば、我らの方が有利だ。だが、決め手がないのも事実。ここからどう展開を変えていくのか、それをこの戦闘中に考えねばならん。
状況を整理するならば、まず、姉が『火』と『風』、妹が『水』と『地』の『魔法』が使える。単独で『魔法』がそれぞれ使え、更に『双魔魔法』ならば、相反する属性の『魔法』であろうと合わせる事が出来る。スピードでは我らの方が上。パワーでは勝てない。数発であれば『双魔魔法』は吸える。排出したとしてもそれでダメージはほとんど与えられない。
何だ、この化け物どもは……。歴代で大会で負けた事がないというわけだな。我らの事も化け物だといってたが、どう考えたって化け物具合で勝てる気はせんな。
「凄いわん、センセ~♪ 今までアタシ達とこんなに戦えた人なんていなかったわよん♪」
「そうよ、そうよ。アチシ達、今とっても楽しいわん♪」
……これだけの実力だ。今まで、満足のいく戦いをした事が無かったのかもしれんな。ふ、ここは教師としても負けられんな。
「フッ、井の中の蛙とはまさにお前たちの事だ。世の中は広い。こんなところで満足している場合ではないのだぞ」
「あらん? それはそうだけど、センセ~に何が出来るのかしらん?」
「これからお前達に最後の講義をしてやろうじゃないか! 我らが負けを教えてやろう」
いい表情をしているじゃないか。我も師匠に教わっていたとき、こんな表情をしていたのだろうか? まぁそんな事を今考えても意味のない事だったな。それでは最後の講義を始めるとしようじゃないか!
そんな残念そうな表情をするでないわ。ここにきて普通の攻撃をすると思ってたのか?
「ぐぅっっっ!!」
姉の両手のガードを吹き飛ばした我の拳は鎧にヒビを入れて直接ダメージを与える事に成功した。そのダメージに思わず膝をついている。
「姉さま!! こ、これはどういう事かしらん??」
予想外な姉の姿を見せて動揺を隠せない妹。強敵と戦った事がない経験不足からくる精神的な弱さが浮き彫りになった。
「これか? ただ我の『吸引』する魔力を拳に纏わせただけだ。そして拳が当たったと同時に相手の魔力を『吸引』し、我の魔力に塗り替える。先程、お前達が我の魔力を塗りつぶそうとした事のお返しをしたまでよ。そうよな、この技にもし名を授けるとしたら吸排拳肆式『
流れを変えられないなら変えられる技を開発すればいい。その程度の事も出来ないのであればこやつらの教師になんぞなれんからな。
今大会で初めて膝をついている姿に会場はどよめいていた。無理もなかろう。この帝国において、この二人がダメージを負っている姿なんぞ、想像できまい。
「ふふ、ホントにセンセ~って素敵だわん♪ ほら、セアムちゃん、そんな顔しないの。やっと楽しくなってきたところじゃない」
「で、でも姉さま……?」
「心配しないの。これ位は大丈夫よん♪」
よろけながらも立ち上がる姉に、戦意を取り戻す妹。そうだ、これだけで終わる二人ではないだろう? そして我もこの程度で終わらせる男ではないわ。
「吸排拳肆式『
「ガウ!? 義兄上、これ、凄い!!」
「
「ガウ! 義兄上、俺、大丈夫。俺達、勝つ!!」
魔力を拳に限界まで高める。
「ふふ、流石センセ~よ。ありがとう。アタシ達が思ってた通りの人でホントに良かった」
「ホントねん♪ さぁお姉さま、アチシ達の本気も見せて差し上げましょう?」
「そうねん♪ それじゃあセンセ~? 勝つのはアタシ達だからよろしくねん♪」
二人の魔力が高まっていくのを感じる。あまりの魔力の高さに空気が震えていくようだ。お互い、あとの事など考えない。これで終わらせるのだ。
そして再び、二人は背を向け合って繋いだ手を前に出した。
「「『
唱えると同時に我らを囲みだす竜巻。それはみるみるうちに大きくなっていき、十メートルあろうかという巨大竜巻が完成した。そしてその竜巻の中で次々と発生している岩石。そのサイズは一メートルはあるかと思われる。それが数えきれない程、竜巻の中で漂っている。
「
「ガウ。義兄上、とっくに覚悟、出来てる!!」
「愚問だったな。それでは行くぞ!!」
我らが気合いを入れるのと同時に突然降ってくる岩石。それも三百六十度、おかまいなしに降ってきた。お互いに背を向けてその岩石を叩き割っていく。風を纏った岩石は本来であれば触れただけでその身体を切り裂いていただろう。だが、我の魔力がそれを『吸引』し、我の魔力に塗り替えていく。だが、このままでは先に我の魔力が尽きてしまう。その前に勝負を決める!
「
「ガウ!!」
我の魔力から更に
「ガウ! 『牙破山』!!」
我と
「よくやった
「ガウ。ガウ!!」
そのまま素早く二人の前へと躍り出た。思ったより、落ち着いている二人に最後の一撃をくらわせる!
「吸排拳壱式『
「ガウ。『牙狼拳』!!」
「「センセ~、ありがとう」」
二人の最後の言葉と同時に突き刺さる拳。極限まで高まった魔力に二人は壁まで吹き飛んでいった。大きな衝撃音と共にそのまま倒れる二人。
「『朱菊』、う、動きません! しょ、勝者! 『
実況の言葉と共に、それまで静まっていたのが嘘のような、これまでで一番の歓声が上がった。
「ヴァーーーーーーン!!」
「ヴァンさー------ん!!」
泣きながら喜んでくれる仲間達。そうか、勝てたのだな。
「
「ガウ。違う、義兄上のおかげ!!」
「「…………」」
「ぷっ、ははははははは!!」
「ガウ!!」
満面の笑みを浮かべた我らは、お互いに意識する事なく、ハイタッチをして抱き合った。そこで限界がきたのか、そのまま二人揃って意識を失うのだった。
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