第十七話 フハハ! お互いノッてきたな? よし、続けようじゃないか!

 異なる色に輝く瞳がこちらに向けられている。ここにきて初めてみたな。まぁ『双魔魔法』の情報は結局得られなかったから仕方あるまい。それにしても二人合わせると『四属性魔法』の魔法が使えるのか……。


 ここで疑問になってくるのが、この『双魔魔法』がたったそれだけの能力なのか? って事だ。大抵の攻撃を防ぐアイに何でも飛ばす事が出来る天使ルロに比べるとお粗末じゃないか? この二人が使ってくるとなると厄介だが、それはこの二人が使うから厄介なだけであって、極論をいえば、この二人ならただの『火魔法』であっても脅威といえよう。


「あらん♪ センセ~? どうしたのかしら?」


「ふ、我が誰かはバレておるわな。表ならともかく、我はそんな事では揺らがんぞ」


「へぇ~、それは残念だわん。それじゃあ、久しぶりにノッテきた事だし、覚悟しなさい?」


「それはこっちの台詞だ!」


 お互いに距離を詰める。スピードはこちらの方がはやい。先手は我がいただくぞ!


 先程とは違い、手数で勝負をしていく。吸排拳壱式『排勁神ヲモ滅ス一撃』もそうだが、基本的にこれらの技はどうあがいても溜めが長い。これは実力に差がある場合や、勝負を付けるときにはいいかもしれんが、今回のように実力が均衡していると、不用意な一撃が勝負を決める事になりかねん。


「アチシも仲間に入れて♪」


 くっ! 妹もこちらに参戦か。好敵手ヴイが申し訳なさそうな目でこちらを見ているが、こればかりは仕方あるまい。昨日のように相手も望んでおれば抑えられるであろうが、この二人が相手ではそれも厳しいだろう。いや、好敵手ヴイは昨日もある意味きつそうにしておったか? まぁ相手が相手だったから仕方ないのかもしれんが、好敵手ヴイは元々好戦的な性格であろう。抑えさせるより暴れさせて、我がフォローする方が有利になりそうだな。


 一旦距離をとって、好敵手ヴイに指示を出す。


好敵手ヴイ! 我が合わせる、お前は自由に動け!!」


「ガウ! 俺、行く! 義兄上、頼む!!」


 勢いよく、双子へと飛び込んでいく好敵手ヴイ。双子の対応を見ながらその後ろを走っていく。少なからず姉は我よりスピードは下。そして好敵手ヴイは我よりスピードがある。翻弄するにはもってこいの筈だ。そして妹も姉と同じ体格だ。それ程、姉とスピードに差はないだろう。パワーはどうあがいても勝てん。その分をスピードでもって主導権を握るのだ。


「これはちょっと厄介ね……」


「アチシもこのタイプは苦手だわん」


 厄介といってる割にはうまく避けてやがる……。お互いがどう動けばいいかわかっている分、連携がいい。それに比べ、我らは臨時だからな。訓練はしてきたが、双子に比べたら厳しいのは仕方あるまい。それでも我らは負けられぬ。


 好敵手ヴイが姉に向かって攻撃を加えに行ったら妹を抑え、時には共に姉に攻撃を加えて援護する。嫌な予感がする『魔法』は使わせん。堅実に、確実にダメージを重ねるのだ。幸いにもまだこちらに被弾はない。それに比べ、向こうは避けきれない攻撃を防いでいる事で着実にダメージを与えられている筈だ。


 ここまでは順調だ。否、順調すぎる。お互いにまだ様子見とはいえ、ここまで主導権を握らせてもいいものなのか?


 姉が『火魔法』を周囲に放った事でお互いに距離を取ったその時、二人の雰囲気が急激に変わった。まさかここで何かしてくるのか?


「ふふん、とっても楽しいわん♪ こんなに心躍るのはいつぶりかしらん?」


「ホントねん♪ しかも相手がいい漢♡ これがデートだったら最高なのにねん♪」


「そうねん♪ けど、試合だから仕方ないわねん。そろそろ本気でやらないとママに怒られるわ」


「そうねん♪ アチシ、ママンに怒られるの苦手よん。センセ~、ごめんね?」


 魔力が一気に高まった。そして二人は背を向け合って繋いだ手を前に出した。


 しまった! 油断としてたつもりはなかったが雑念が入った隙を突かれたか!!


「「『水炎降雨恋する流星雨』!!」」


 双子が唱えた瞬間、厚い雲が上空に突如現れた。今にも雨が降りそうなそんな様子に嫌な予感が一層高まる。


好敵手ヴイ! はやく我の元に来るのだ!!」


「ガウ!!」


 くっ、これは間違いなくヤバい。好敵手ヴイが近づいてくると、一滴の雨粒が地面に落ちてきた。その一滴はどこからどう見てもただの。だが、地面に落ちたその瞬間、ただの雨の一粒だったそれは、全てを燃やし尽くさんばかりの炎へと変貌した。その威力は、先程放った『火魔法』が灯火のように見える程だ。


「な、なんだというのだこれは……」


 まさか、これから振ってくる雨の一粒一粒がこうなるのか?? 


 ゾクっと背筋が寒くなる。これは生半可な防御ではそれごと、燃やし尽くされてしまう!


 そして上空から一気に降り注ぐ雨、否、水炎。このままではいかん!!


「『強吸引光ヲモ飲ミ尽クス深淵』!!」


 これはただの『吸引光ヲモ飲ミ尽クス闇』では吸い尽くせん。それ程、濃密でかつ、広範囲な『魔法』だ。やっとの思いで全てを吸い込んだ。だが、その威力に体内の魔力までもがかき乱される。そんな事、今まで一度もなかったというのに。


「あらん♪ さすがアタシ達のセンセ~ねん♪ これを防いだのはセンセ~が初めてよん♪」


「ホントホント~♪ 嬉しくなっちゃうわん♪ 今までだったら魔物だろうと何だろうと一撃だったのにねん♪」


「……であろうな。此度の『魔法』、本来であれば集団戦で本領を発揮する『魔法』であろう? あれだけの雨だ、一度発動したら並大抵の事では防ぐ事は出来ん。……これは予測であるが、この『魔法』が相手では、『水魔法』を使って消火させようとしたとしても、逆に燃え広がるのだろう?」


 今も、我の体内で荒ぶる双子の魔力は、我の魔力すら塗り替えよう、そんなのようなものを感じさせる。もし、この概念のようなものに負けた場合、我の汗ですら炎に変わってしまう、そんな可能性があるだろう。


「正解よん♪ もし間違って『水魔法』なんて使ったらその『水魔法』を塗り替えて辺り一面が火の海ね」


「そうそう。たった一発でそこまで見抜くなんてやっぱりセンセ~はアチシ達が思ってた通り、只者じゃなかったわん♪」


 何より恐ろしいのは、本来であれば相反する属性の『魔法』を合わせている事だ。『水』と『火』を同時に使えば本来であればどちらかが消滅する。それを二人の『双魔魔法』を使う事で完全に融合させているのだ。


「ガウ。義兄上、助かった」


 流石の好敵手ヴイも冷や汗をかいておる。あれは姫レベルの防御能力か、それ以上の『魔法』でかき消すしかない。我の『掃除機魔法』とは相性が悪くないのが幸いといったところか?


 それにしても、たった一発で形勢が逆転してしまったな。苦しい闘いになるのはわかってたんだが、予想よりもずっと厳しい事になりそうだ。やはり嫌な予感がしたのは正しかった。そして更に恐ろしいのは、おそらく二人の『双魔魔法』はこれだけじゃなかろう。まだ使ったのは『火』と『水』だけだ。二人の瞳にはまだ『地』と『風』の魔力が宿っておる。つまりはまだ最低でも一つはパターンがある事を指している。


 皇帝が信頼しておる訳だ。普通であればもはや絶望的な状況といっても過言ではない。だが、我がこの程度の絶望で終わる訳がなかろう。むしろやっと楽しくなってきたところだ。


好敵手ヴイよ、この程度で怖気づいてはおるまいな?」


「ガウ! 当たり前だ。義兄上、いつでも、行ける!!」


「あらん、嬉しいじゃない♪」


「もっと殺り合いましょう♪」


 フハハ! お互いノッてきたな? よし、続けようじゃないか!

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