第十三話 さぁ、反撃開始だ!
さっきまでヴイさんの前にいた筈なのに……。とりあえず、そのままアベさんから距離を取ってヴイさんのところへと向かう。どの程度の状況なのか、まだ戦闘の継続は可能なのか、確認しなければならない。
「ヴイさん、ヴイさん大丈夫ですか?まだ戦えますか?」
「ガウ。何されたか、わからなかった。あいつ、強い」
ヴイさんが精神的にショックを受けているようだ。大きなダメージは無さそうだけど、少し時間をあげた方がよさそうだ。
「ヴイさんは少し休んでください。僕がその間、相手をしてきますから。余裕が出てきたら助けに来て下さい」
「ガウ。義兄上、助かる。少ししたら、そっち、行く」
「いえ、それではいってきます!」
「吸排拳弐式『排迅』!」
アベさんの戦い方はわからないけど、僕が出来るのは基本的に接近戦だ。まずは自分の得意な間合いで勝負に出る。理想はヴイさんが来る前に短期決着。それが無理なら時間を稼いでヴイさんの回復を待つ事だ。
「おぉ、速いじゃねぇか」
あっという間に目の前まで来たにも関わらず、慌てた様子を微塵も感じさせない。けど、その余裕そうな態度もここまでだ。
「吸排拳壱式『排勁』!!」
最早、定番となりつつあるパターンだけど、それだけこのセットは強い。油断してたのか、これなら確実に当たる。
「ひゅー! 危なかったぜ。そんなの当たったら俺でも一撃だな」
「なっ!?」
当たる寸前でなぜか僕の真後ろへと移動しているアベさん。今のタイミングなら当たった筈だったのに……。僕の目でも捉えられない程、速い速度で避けた? それとも『恩恵』を使ったのか? さっきまでの戦いの様子が見られなかったのが痛い。
「それじゃ今度はこっちから行く――――ぞっ!」
今度は僕の横からパンチを繰り出してきた。避けられないと判断した僕は、防御を固める。素早い動き? から出されたとは思えない程、体重の乗った一撃。やはり、何かカラクリがあるんだ。ただ、速いだけじゃこんなに威力は出せない。
「疑え、そして迷え。その間に俺が立てなくなるまで攻めてやるからな」
舌なめずりしたその姿はまさに狩人。くそ、僕はその獲物か。
そこからは一方的な展開だった。どこから攻撃が来るかわからない為、反撃が全く出来ず、それどころか、避ける事すら出来ないので防御に徹する事しか出来なかった。
短期決着どころじゃない。このカラクリがわからないとヴイさんが回復するまでに僕が倒されてしまう。
今わかってる事は、気が付いたらアベさんの位置がわからなくなってしまう。速度の割に威力の高い攻撃。ただ、防御を固めてさえいれば、致命傷にはならない。ヴイさんの方が僕より体格がいいからダメージも少なかったのか? それにしてはアベさんの攻撃に対する若干の怯えがあった気がする。あの程度の攻撃で、ヴイさんが怯えるかな? うーん、僕になくて、ヴイさんが感じるナニか……。今は判断出来ないな。
いっその事、逃げ回るか? けど、そんな事をしてしまったらヴイさんの方に行ってしまうかもしれない。その場合、ヴイさんが回復するどころじゃなくなってしまう。
このままじゃアベさんの思うつぼだ。ここは思い切って被弾覚悟でカウンターか? ただ、直撃だった場合に僕は耐えられるのか? ダメだ。そんなネガティブに考えたら。耐えられるのか、じゃない。耐えるんだ。僕なら耐えられる。
余計な感覚は必要ない。僕は目を閉じる。
「おいおい、もう諦めたのかよ?」
そんな挑発になんて乗る必要はない。僕の出来る事をするんだ。
来たっ!!
「おっと! あぶねぇな」
当たらなかった。けどこれなら……。
「恐ろしい事考えるんだな。普通、こんな事思い浮かんだってやらないぜ? まぁこれなら何発かやってたら俺に攻撃が届くだろうよ? ……ただよ、耐えられんのか??」
腹部に強烈な痛みがはしる。僕の攻撃は当たらなかった。けどアベさんの攻撃は確実に僕に当たってるんだ。いい誤算があったとしたら、恐らく僕の攻撃を避ける為に逃げ腰になった分、威力が逃げた事だろう。それでこれだけのダメージを負ってしまうんだ。流石に折れてはいない。けど、今も痛みが続く程度にはダメージを負っている。果たして何発耐えられるのだろうか?
いや、耐えられるのだろうか? じゃない。耐えるんだ。さっき覚悟を決めたんじゃなかったのか? これが一番確実にアベさんに翻弄されずにダメージを与えるのに一番近い形なんだ。歯を食いしばれ。
「アベさん、何発でも打ち込んできていいですよ。それともあれですか? こんな無防備なのに怖くて攻撃できませんか?」
アベさんの気配が変わった。よし、僕の挑発に食いついてきたみたいだ。このままヴイさんの方に行ったらどうしようかと内心焦ってたんだ。この様子ならこのまま僕に突っ込んできてくれる。
「いい度胸だ。その勝負、乗ってやる」
よし、ここからはどっちが根性があるかで勝負だ!
何発攻撃を受けたのだろうか……? もう身体中で痛くないところを探す方が難しい位に全身にダメージを受けている。だが、それはアベさんも一緒だ。流石のアベさんもノーダメージとはいかない。僕程ではないけど、確実にダメージを与える事が出来た筈だ。いや、むしろ僕よりダメージが大きい筈だ。それくらいの気持ちでやらないと勝てない。
「ちっ、しぶてぇな。けどそろそろ限界だろ? もう倒れちまえよ」
「いやいや、アベさんだって倒れていいんですよ?」
はっきりいってそろそろ僕も限界に近い。攻撃を受ける瞬間に魔力を高める事で何とか耐えられているけど、どんどん蓄積されてしまっている。体格はアベさんの方がいい。体力的にも僕の方が負けてるだろう。このままだジリ貧だ。だけど、今はこれでいいんだ……。
「ガウ。義兄上、待たせた。俺、戦える」
この為に僕は時間を稼いでいたんだから。
「ありがとう、一緒に戦おう」
予想外の表情をするかと思ったけど、案外冷静なアベさん。二対一になるんだよ? 何でこんなに余裕なんだろうか? なんとも不気味だ。
「ふ、そんなの読めてなかったと思うか? 万全な状態の一人で全然歯が立たなかったのにボロボロなのが二人で俺に勝てると思ってるのか? もう遅いんだよ」
それだけでこんなに余裕が出てくるのだろうか? まだ手札が残ってるのか? いや、弱気になったらダメだ。
「そんな事はないよ。僕達は一人じゃ、アベさんには勝てないかもしれない。けど、二人でならアベさんにだって勝てるんだ!!」
「ハハ、ならそれを証明してみろ」
いわれなくてもわかってるさ。さぁ、反撃開始だ!
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