第十一話 まずは小手調べだな。ガッカリさせるなよ
次の日の二回戦も苦戦する事なく、勝ち進む事が出来た。ここまでは順調だけど、厳しくなってくるのは明日のアベさん率いる、『蒼菊』チームからだ。アベさんもそのパートナーさんもほとんど実力を見せる事なく、勝ち進んでしまった。出来るだけ情報が欲しかったんだけど、こればっかりは仕方ない。まぁ僕達の実力も知られてはいないから条件は一緒だし、どんな相手だろうと全力で相手をするまでだ。
そして試合当日、ベスト四まで勝ち残った四組が試合前に観客の前に揃った。今日の試合前に何か話があるらしい。あまり余計な事をいわれてヴイさんの邪魔をしないで欲しいところだけど、皇帝陛下の命令に逆らう事は現状、難しいよね。
大きな歓声と共に迎えられる四組。一部罵声のようなものも混ざっているけど、僕達はもう気にしないって決めた。ここで文句をいっても変わらない。勝って黙らせるんだ。
正面の特等席に座っていた皇帝陛下が立ち上がり、手を上げるとみんなが静まる。それに満足しているのか笑顔を見せると、特別大きな声ではないのに、妙に相手に届かせる声で声を掛けてきた。
「帝国民のみなよ、今日もこうして集まってくれた事、大儀である。そして歴戦の強者どもよ、今日まで良き試合を見せてくれた事、妾は嬉しく思う。残り試合は二試合じゃ。若干獣が交じっておるが、妾は誰が勝つかはわかっておる。さっさと決めよ。妾を失望させるな。以上じゃ」
はぁ……。やっぱり余計な事をいってきた。それも露骨に。まぁわかってた事なんだけど、やっぱり気持ち的にきついな。僕であれだけきついって事はヴイさんはもっと嫌な気分になっているだろう。そんなヴイさんはただ皇帝陛下を見つめるだけで今回は何も行動に移そうとしなかった。けど、僕にはわかる。ヴイさんは物凄く怒っている。けど、我慢してくれているんだ。その分を試合にぶつけてぎゃふんといわせてやるのが僕の仕事だね。皇帝陛下がどんな気持ちで今の発言をしたのかはいまだにわからないけど、これで気持ちが沈むと思ったら大間違いだ。逆に気持ちに火をつけた事を後悔させてやる。
皇帝陛下の挨拶も終わり、一度、控室に戻る。ふと、隣を見てみると、双子が一緒に控室に戻っていく姿が見えた。その姿はどこか沈んでいて、皇帝陛下に激励されたとはとても思えなかった。プレッシャーを感じているのかそれとも……。
憶測で決めつけちゃダメだな。明日の対戦相手になるかもしれないんだ。雑念は捨てて試合に臨まないとだね。
若干の休憩時間を挟んで、とうとう試合の時間となった。相手はアベさんだ。まさかギルドマスターがこういった試合に出てくるのは本当に予想外だった。今日までの試合はあきらかに余裕をもって勝ち進んでいるし、実力も未知数。ただ、今までと同じように戦っていい相手ではないのは確かだ。
「帝国民のみなさま! これより、準決勝を始めます! まず登場したのは、犠牲者になった人数は数知れず、みなさまご存じの『蒼菊』の隊長兼、ギルドマスターであるアベティブ率いるチーム『蒼菊』です!」
「お前ら、よくここまで勝ち残ったな。帝国内の思惑もあってお前らも色々あるだろうけどよ、今だけは楽しい試合にしようぜ」
目の前にいるアベさんはいつも通りだ。いつもの上下が一緒になっている青い服を着てファスナーを上下にしている。おそらくファスナーをいじるの癖なんだろう。どういう意味があるかはわからないけど。
「おー--っと! 続きまして、初出場、実績、実力は未知数、今大会のダークホース! 『
「僕はアベさんがこういう試合に出たのが意外でした。正直、普通に楽しめるかって言われると難しいですが、僕達なりに頑張らせていただきます」
「ガウ、負けない。」
「まぁ、俺にも事情があるって事だ。無駄話はここまでにしていっちょヤるか。それじゃあとことんよろこばしてやるからな。覚悟しろよ」
「両チームの準備が整ったところで試合を開始したいと思います! それでは、ファイ!!!!」
大きな歓声と共に試合が開始された。まずはお互いに構えをとる。お互いに得物はなし。一応ルール上は殺傷能力のない物であれば使用可能だ。ちなみに昨日の試合相手は普通に剣を使用していた。まぁ僕の『掃除機魔法』で吸って終わりだったんだけど。僕の魔法の前では武器なんてあってないようなもんだ。むしろ隙きが出来るので持っていた方がいい位だけど、残念ながらアベさんは僕達と同じ素手だった。
「まずは小手調べだな。ガッカリさせるなよ」
何の予備動作もなしでいきなりアベさんが僕の方に飛び掛かってきた。不意を突かれた形になり、一歩動作が遅れてしまう。それを補うようにヴイさんが一歩前に出て、アベさんの攻撃を防御し、反撃をしていた。
その反撃を難なく躱し、一度お互いに距離を取った。挨拶代わりの一撃といったところだろうか。大胆不敵で余裕があるのが見て取れた。
「やっぱそっちの漢、ヴイと言ったか。いいな、お前。もっともっとヤろうぜ。おい、そっちは任せたぜ」
「はい。けど、そっちのいい漢をボクにも後でいいからくださいよ」
アベさんのパートナーも前に出てくると僕の前に立った。アベさんは標的をヴイさんにしたようだ。本当は連携して戦いたいところだが、目の前の相手が許しくくれそうにない。
「俺の食い残しでよければな。さぁ楽しもうぜ!」
この展開は予想してなかった。けど、ここで僕がこの人をさっさと倒せれば二対一で一気に有利になる。この人には悪いけど、さっさと勝負をつけよう。
「それじゃあよろしく頼――――」
卑怯といわれたっていい。僕達は勝たなければいけないんだ。
「吸排拳弐式『
一気に懐に飛び込む。そこから!
「吸排拳壱式『
タイミングは完璧だ。もう避けるには間に合わない筈!
僕の拳が後少しで届こうかというところで、そっと手を前に出され、その手が僕の拳と重なった。僕はそれを気にせず、そのまま振り抜く。すると全ての衝撃を逃がされ、『排勁』の威力が殺されてしまった。
「こりゃ凄い威力だね。アベさん以外で初めて手が痺れたよ」
何てことはないかのように振る舞っているが、僕にはとても衝撃的だった。まさか、避けられる事はあったとしても正面から抑えられるなんて誰が予想出来ただろう。
「これはお返しだよ」
ヌルヌルっと滑るように手刀を僕に向けてきた。スピードはそんなに速くない。これなら避けられる。長期戦はよくない。ギリギリで避けてそのまま反撃だ。半身を引いて手刀を避ける。よし、避けきった! 今度こそ――――!?
避けた筈の手刀が肩に刺さった。そして遅れてやってきた痛み。おかしい、確実に避けた筈だったのに……。
「不思議そうな顔をしてるね。うんうん、みんなそんな表情をするんだよ。楽しいね」
追撃すればまだダメージを与えられたのに一歩引いた。くそ、舐められてるな。それにしても何で今の攻撃が当たったんだ? 魔法か? 何か技術でもあるのか?
何をされたかさっぱりわからないけど、これだけはわかる。この人は強い。出来るだけ早くヴイさんのヘルプに行きたいけど、まずは目の前の強敵を倒す事だけを考えなければ。中途半端な気持ちじゃ負ける事だってあり得る、目の前の相手はそんな相手なんだから。
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