閑話 それぞれの学園生活

 『ケルヒの場合』


「お兄さーん! こっちの片付けもお願いねー!!」


「はいはーい!!」


「そっち終わったらこっちもお願いねー!! いやぁ、掃除は上手でしかもイケメン! おばちゃんがあと十歳若かったらねぇ……」


 これも全部ヴァンのせいだ。掃除の仕方が身体に染みついてやがる。何度も何度も何度も何度も、そう、何度も清掃依頼を受けたせいで、かなり効率的になってしまっているらしい。おかげ様でおばちゃん達に毎日こき使われている。今も俺一人で掃除してて、おばちゃん達はお茶を飲んでいる。お茶を飲んでるのはおかしいだろ!


「最近の若者はってうちの旦那は言うけど、こんなに一生懸命働く子もいるんだからそう悪いもんじゃないわねぇ」


 旦那! 働いてないのおたくの奥さんだから!! 若者頑張ってるから!!


 ていうか、今回の依頼ってヴァン以外、あんまりいらないんじゃね? 何でこんなとこに来てまで掃除してんだろ? せめてヴァンみたいに俺も教師とか、どうにかならなかったのか。まぁアイとリスは立場ってもんがあるから仕方ないけどさ、俺ってヴァンと同じで立場とか何もないじゃん? まぁ、ヴァンみたいに女装は勘弁してほしいけどさ、こう、『謎の天才剣士現る!!』みたいな? ヴァンの奴は俺の事を主人公みたいだ、イケメンが! とか色々いってくるけど、俺からいわせてもらえば、ヴァンの方が目立ってるから!! あの妙な色気というかなんというか、長髪なのもあるんだろうけど、男なのに変な色気があるんだよなぁ……。


 おっと、手が止まってる。はやく綺麗にしないとって、違う! いや、違わないけど!! もう完全に毒されてるわ。


 こうやって仕事をこなしてると、ヴァンの噂がよく耳に入ってくる。やれ、皇子をぶっ飛ばしただの、帝国の相談役、あのスケベジジイじゃ仕方ねぇか。けど、一応偉い人らしいからな。その人と仲良くなってて、対等に話してるとか。まぁとにかく、ヴァンが活躍してるのはよく耳にする。しかも生徒からの人望も厚いらしいしな。実は天職なのか? まぁヴァンがその気ならそれでも構わないが……そうなると寂しいな。


 それにしてもこの帝国に来てからヴァンが上の空になっている事が多い。おそらく獣人族が関係してるんだと思うが、少々思いつめすぎだ。できればヴァンから相談されるのが一番なんだが、学園内でもし会えたら話を聞いてみるか。


 このままじゃ腕が鈍りそうだなぁ。掃除はうまくなってるけど……。そんな事を思いながら今日も刀じゃなく、掃除道具を持って掃除をする俺である。はぁ……。















 『アイの場合』


「う~~~~~ん」


 凝り固まった背筋を伸ばす。この学園に来てから事務処理ばっかです。幸いにも巫女として様々な教育を受けさせていただいてたので、苦労はしてますが、何とかやっていけてます。それにしてもこの学園の職員さんは優秀な方ばかりですね。仕事に無駄がなく、効率的です。リスったら事務仕事が嫌で逃げたけど、今頃どうしてるのかしら? 一応、何か他の仕事をするとはいってましたけど……。


「やぁやぁ、相変わらず美しいね。今夜のディナーを一緒にどうだい?」


 はぁ、また来ました。ここの臨時事務員として働かせていただいてからすぐにナンパ? っていうのかしら、食事のお誘いをしてくるんのですが、正直、困ってます。なんだか相手の方はちょっとお偉いさんらしいですし、わたしも依頼任務中ですので、トラブルは避けたいところなのです。何度も断ってますし、穏便になんとかしたいのですが。


「すみません。今日もちょっと外せない用事がありますので」


 とりあえずいつも通りに断るしかないですよね。むしろこんな誘い方で女性がほいほい行くと思ってるのですか?


「もう、そんな照れなくてもいいのに」


 肩に手を添えようとしてくる。触られたくないので避けようとしたその時、事務室のドアが開いた。


「アイ~」


 ガラガラ~と自分の家に入るかのように入室してくるリスに、思わず苦笑いするのを抑えられない。けど、タイミングはばっちしでした。おそらくどこかでわたしの事を見ていたんだと思います。それがリスの役目ですから……。本当は普通にお友達でいたいのですが。ですが、この願いが叶わないのはわかってます。一歩も踏み出せないわたしって本当に弱いですね。


 それはそうと、せっかくのチャンスを不意にするわけにはいきません。


「リス、どうしたのですか?」


 固まってた隙にリスの方へと近づきます。離れてから後ろから舌打ちをする音が聴こえてきますね。ちょっと自分の納得のいかない状況になったからって不機嫌さを隠せないなんて最低だと思います!


「あっちでアイを呼んでたよ」


「ありがとう。いってきますね」


 これが嘘なのはわかってます。ただ逃がしてくれようとしただけですよね? いつも助けられてばっかなわたしですが、いつか、本当に困った時はわたしがリスを助けるますから。その時はわたしに任せてくださいね。
















 『リスの場合』


 アイが事務室から出たのを確認して、前方の男の方を見る。この程度の男がアイに手を出そうなんて百年はやい。さて、この男をどうやって懲らしめてやろうか。


「君、まさかの嫉妬かい? 可愛いところ、あるね。正直好みじゃないけど、顔もまぁまぁだからディナーに行ってあげない事もないよ?」


 どう解釈すればこんな事がいえるのだろうか。依頼中じゃなかったら埋めてると思う。


「そしたらここで食べよ」


「なんだ、なんだ? 積極的な子だな。いいよ。じゃあ今夜、よろしくね♪」


 よし、あっさり約束出来た。あとは……。


 この後の計画を練りながら事務室を後にするのだった。






 




 そして約束の時間。よしよし、あの男、しっかり来てる。リスの事を好みじゃないとかいってたけど、かなり気合い入ってる。けど、残念。今日のお相手は……。


「おう、待たせたな」


「なっ、なっ!?」


 そう、本日のゲストはギルドマスター、アベさんである。いい男がいるといったらホイホイ着いてきた。ギルドマスターなのにフットワークが軽い。


「確かにいい男だ。こりゃ最高の食事が出来そうだぜ」


「き、君は誰だ!! 私が待っているのは君じゃない!! 人違いじゃないか!?」


「いーや、俺で間違いないぜ? さぁ先に前菜をいただくとしよう」


「そ、そんな馬鹿な。わ、私は帰る。どきたまえ!!」


 危険を察知したのか立ち去ろうとするが、それをアベさんが許す筈がない。おそらく、威圧だけで席から立てないようにしてしまった。あの男だって、性格はアレだけど、学園の教師。実力は相当の筈なのに、アベさんの前じゃ『俎板まないたこい』だね。


 動けなくなったあの男は、大人しくアベさんとディナーを楽しんで? いる。そして食事が終わると、このまま二人でギルド内の闇へと消えていった。ここまで順調にいくと思わなかったけど、まぁいっか? ちょっと可哀そうな気もするけど、アイに手を出そうとするのが悪いよ。


 リスは、あの時からアイをどんな手を使ってでも絶対に守るって決めたんだ。それがたとえ、アイが望んでいない関係だったとしても……。


「リスは負けない。それが誰であろうと……!」


 アイがきっと心配して待ってる。はやく寮へと戻ろうっと。








 余談だけど、あれ以来、あの男がリスどころかアイにも声を掛けてくる事は無くなった。雰囲気も変わり、いつも内股になっている。一体あの闇の中でナニが行われたんだろう……。知らない方が幸せなのかな?


――――――――――――――――――


 第四章まで読んでいただき、ありがとうございました! これにて第四章は終幕し、第五章に舞台は移ります。


 新キャラ濃いのばっかじゃんか! こういうの好き! 個性の強いキャラをもっと増やして! そう思った読者様! ☆評価、フォローを是非、是非よろしくお願いします! 励みにさせていただきます。


 それでは引き続き、『掃除機魔法が全てを吸い尽くす!!』をよろしくお願いします!!

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