第十五話 おっぱい、ばいんばいんさせてた。死ねばいいのにって思った
あれから獣人族からの襲撃が本当に止まった。ヴイさんがなんとか説得してくれたみたいだ。ということはつまり、今回の依頼の完了を意味している。ようはこの帝国学園から去るのだ。
「せんせ~!!」
感極まって抱きついてこようとしてくるクソガキを投げ飛ばした。最後までブレないその姿勢にはある意味尊敬すらしてしまう。いや、しないか。
「うひょひょーーーー!!」
「吸排拳壱式『排勁』!」
スケベジジイも最後のチャンスだと、特攻を繰り返している。今日だけで何回返り討ちにしたことか……。
スケベコンビをいなしていると、いつの間にかクリサンちゃんとセアムちゃんが背後から近付いてきた。結局最後まで背後取られちゃった。
「センセ~がいなくなると思うと寂しくなっちゃうわん……」
「アチシも……」
いつもは元気なこの二人も、今日ばかりは随分と落ち込んでしまっているようだ。僕はそれが嬉しくもあり、そしてお別れするのを惜しくも思ってしまう。出来ることならこの二人をきっちり育てたい。正式な教師ではないけど、ふとそんな衝動にかられてしまいそうになる。だけど、それは出来ないんだ。
「そんな顔をするものじゃありませんのよ。クリサンちゃんもセアムちゃんも笑顔でさよならしましょ?」
こうやって悲しんでくれてるって事はこの子達の教師になれたって事だよね、サラさん?
無事、みんなとお別れを済ませ、マイホーム(宿)に戻る事が出来た。帝国学園の寮も中々よかったけど、やっぱ仲間と一緒にいるのが一番だよね。
「ヴァン子先生? 学園生活はどうだったよ?」
「ヴァン子先生言うな!! けど、生徒達はみんないい子で素直に話を聞いてくれてよかったよ」
「わたしは事務のお仕事をさせてもらってましたが、そちらでもヴァンさんの噂は流れてましたよ?」
「え? どんな噂……?」
初耳なんだけど!? 何でそんなにアイさんがもじもじしてるの!?
「えっと、生徒を端から吹っ飛ばしたとか、皇帝陛下の相談役をスケベジジイと呼び、第四皇子をクソガキと呼んで説教(物理的に)くれてたとか。あとですね、悩殺水着で……」
「え?」
「えっと、悩殺水着で毎日のように泳ぎ回ってて凄かったって……。男性の方々が特に騒いでましたよ」
「はぇ?」
「リスも見たよ。おっぱい、ばいんばいんさせてた。死ねばいいのにって思った」
リスさんが怖い。てかあのクソガキ、第四皇子だったの!?
「そ、そんな噂が流れてたんですね? あの水着はですね、僕のこの手袋が変化してくれて、水着になったんですよ! 実はこの手袋ってサラさんが作ってくれたやつなんです。あ、コートもそうなのですけどね、コートは余計な事言うと締め付けられ――!? あっと、とにかく、この手袋が凄いって事なんです!」
堪忍してくだせぇ、サラさん!
「は、はぁ。それは凄い手袋なんですね。まぁとにかくヴァンさんの噂は凄かったのですよ」
「そ、そうなんですね。ちなみにケルヒには一回会ったからいいですけど、アイさんとリスさんは学園生活、どうでした?」
「わたしですか? わたしは割と平凡でしたよ。わたしの場合は立場もありますし、生徒達とはあまり触れ合う機会が少なかったかもしれません。ちょっとしつこい教師もいましたが、リスもいましたし。気が付いたらヴァンさんが解決してくれてたってところですね」
「リスも暇だったからその教師で遊んでた」
教師で遊んでた!?
「俺は、掃除とかばっかだったな。誰かさんのせいで掃除がうまいって言われてあっちこっち片付けさせられてたわ」
「それはこれまでの成果だね!」
「おかげで無駄に忙しかったからな!!」
みんなもそれぞれ頑張ってたって事なんだね。今回は報酬もいいし、しかもこれから皇帝陛下との謁見も待っている。勝負の時は近い。
あっという間に皇帝陛下と謁見する日になった。あれから数日経って、アベさんから連絡がくると、あれよあれよと準備を進め、気が付いたらその日になっていた。僕とケルヒは王国で王様に会ったときの服装に着替え、アイさんとリスさんはトゥーシバ国の服装が正装だからそのままだ。
珍しく、ちゃんとした服装のスケベジジイに連れられて、城の中を進んでいくと、目の前に大きな扉が待ち構えていた。その間、あのスケベジジイが黙る位、終始無言で、皇帝陛下が相当おっかないのがよくわかる。足は震えるけど、それでも負けられないんだ。
扉が開くと、玉座まで真っすぐ広がる真っ赤なカーペットは、まるで雲のようにふわふわしていて、王国の時と遜色ない、むしろこちらの方が上等な品かもしれない。周囲は、日の光を精一杯取り入れるように巨大な硝子の窓が広がり、細かい装飾が僕みたいな素人でも高級品なのだと教えてくれる。
二つある玉座に座るのは片方だけ、確か双子のうち、片方は亡くなられたんだっけか。という事はこの目の前にいる女性が皇帝陛下なのかな。
なんというか、威圧感が半端ない。威風堂々とするその姿は、まさに女帝。自然体でありながら、にじみ出る覇気。こんな人に逆らえる人は果たしているのだろうか? あ、これからの僕だ。
そんなこんなで、アイさんの話が始まる。話は前回とほぼ、変わらないので、まだ暇な僕は、不愉快にさせない程度に周囲を見回す。よく見たら、クリサンちゃんとセアムちゃんもいるじゃん。あ、そりゃそうか。この二人が『双魔魔法』を使うんだから。むしろこの話の関係者だ。それにしても僕の方をガン見してるんだけど。まさかバレてないよね? あんなに感動的なお別れしたのに、こんなとこで男として再会とかちょっときついんだけど……。
そんな事を考えている間に話はまとまり、とりあえず王国と同様、協力関係を築く事が出来たみたいだ。まぁ、実際に王国では襲撃があったのだから他人事ではすませないし、当然といえば当然か。ってこのままじゃ話が終わっちゃう! けど、どう話を切り出せばいいんだ?
「これにて本日の話は終わりとする。最後に、誰か意見のある者はおるか?」
お、ちょうど皇帝陛下の隣にいる偉い人っぽい人が全体に聞いてくれている。これはチャンスだ!
「はい! あ、僕は、こちらのアイさんとリスさん、そして隣にいるケルヒと、今回の旅に同行しているヴァンと申します。ひとつよろしいでしょうか?」
「無礼者が! お主ごときが何を意見しようと───」
「よい。そなたがヴァンとやらか。話は聞いておる。ほれ、申してみるがよい」
大して興味も無さそうな表情で意見をいう許可がおりた。けど、偉い人が注意しようとするところを止める位だし、実際はそこまで無関心ではなさそうだ。よし!
「まずですが、私は冒険者です。言葉遣いに不快な事があるかもしれませんが、お許しください」
「あぁ、そういうのはよい。ここでは何より、実力が優先される場じゃ」
「はい。それでは僭越ながら……。皇帝陛下は獣人族が攫われて、奴隷化しているのはご存じですよね?」
予想外の質問だったのか、眉をひそめている。そして先程より、高まっていく魔力。緊迫した空気が辺りを包み込んでいく。周囲のみんなは驚きのあまり、唖然としている人が多い。この事は仲間達にも秘密にしていたので、ケルヒ達も当然驚いている。身勝手な事をしてごめん。だけど僕も譲れないんだ。獣人族の為にも、そして僕自身の為にも……。皇帝陛下の放つ圧力に負けないよう、一層強く手に握りしめ、皇帝陛下の返事を待つのだった。
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