第十四話 そう思わせた方が都合がいいのか!? 悪いのか!?
体内の隅々に自らの魔力を行き渡らせる。ここからが本番だ。
「先程までと一緒だと思うなよ? 我は表ほど、甘くないぞ」
「吸排拳弐式『
もはや、小手調べなど、せん。一気に勝負を決める。我は縦横無尽に近づいては離れ、を繰り返して攻撃を続ける。心友とやった『神木の
これが、吸排拳弐式『
こやつが我と同程度の力量なのは、先程の戦いからもわかっておる。しかもまだ奥の手を見せておらん。本来であればその奥の手を見たかった。だが、これは試合ではない。戦場だ。悪いが退場してもらおう。
「吸排拳壱式『
「ガハッ!!」
隙をついて脇腹を抉る。直撃を受けた
「……ガウ。お前、今、本当、姿か?」
おかしな事を言う。本当の姿?
「ふふふ、我はどちらも本当よ。表は裏であり、裏は表だ。
まぁ理解せよ、とは言えんがな。我がその立場であれば理解出来ん。だが、これは偶然ではない。師匠に用意された必然なのだ。まぁ表は知らないだろうがな。まだ偶然、我が生まれたと思っているであろうよ。
まぁその話は後にしてだな。まずはこやつにとどめを刺さねばならぬ。とどめを刺すために
「ははは! ははははははっ!! ガウ。お前、面白い。色々、顔、俺も、持ってる」
今までで、一番好戦的な笑みを浮かべている。
「ガウ。俺、全て、捨てる。そして、戦う!」
そこには戦士としての一種の覚悟が見えた。先程までの雰囲気にはない、本能からくる、こちらも命を賭けないといけない覚悟だ。
「ワカ、ソレ、ダメ!! オサ、キョカ、ナイ!!」
今まで黙っていた獣人どもが急に騒ぎ出した。それだけ危険な代物なんだろうか? だが、関係ない。我は全力で戦うのみだ。
「ガウ。俺、戦士。長、関係ない。俺、戦う!!」
くっ! 近づく事が出来ない!!
「ガウ。見よ! 『獣装変化』!!」
「ガウ。正義の牙が全ての悪を砕く。獣人族、牙狼の戦士、ヴイだ」
謎のポージングでかっこよくきめてくる。先程までと違い、流暢な喋り方。知能も上がっているのか? そして全身から溢れてきている魔力。これが正真正銘の本気というやつか。面白い!
「お前こそ面白い技を使うではないか! 纏っている魔力も、体格も、風格も、まるで全て別人のようではないか!」
「ガウ。各部族で一番強い者しか使えない『獣装変化』だ」
本当はこうなる前にとどめを刺す予定だったが仕方ない。お互いの準備が出来たところで構えをとる。様子見などはせん。一気に────!?
「ガウ。よく避けたな」
危なかったぞ。一瞬で終わるところだった。目の前にいきなり飛んできたかと思ったら、気がついた時には目の前には
だが────
「吸排拳弐式『
「ガウ!?」
「我を舐めるなよ」
「ガウ。やっぱお前、強いな!!」
お互いの魔力が高まっていく。さぁ、これが最終ラウンドだ。
先手を取ろうと飛び出そうとした時、
そこからは足を止めての殴り合い。被弾もお互いに増え、満身創痍となっていく。我の拳がクリーンヒットした時、
「ガウ。俺もお前もいっぱいいっぱいだ。これで最後にしよう」
「ふ、ちょうど我もそう思っておったところだ。我の最大の技で仕留める」
「吸排拳参式『
「ガウ。『牙破山』!!」
螺旋を描く我の魔力に対し、爪から振り下ろされたその技は、全てを切り裂くようにこちらに向かってくる。そして魔力と魔力がぶつかりあった!!
威力はやはりほぼ互角。ただ、
「ガウ! 俺の勝ちだ!!」
そしてその時が来る。ついに我の吸排拳参式『
「『
我は全てを吸い尽くす!!
「ガウウウウウウウ!?」
「これで本当に最後だ!! 精霊合体奥義・派生技『
これは、ガビとの一戦で覚えた技の派生技だ。あの時と違って、相手の技を単純に我の魔力と混ぜる事で倍にして返しているだけだ。もはや今の我にとって、どんなに強大な魔力であろうとも脅威になる事はない。
ポカーンと口をあけたままの
「これでどちらが勝ったかわかったであろう? これ以上は無駄だ」
我の勝利宣言に悔しそうな表情を見せる。自分でも負けたということがわかったのだろう。
「ガウ。俺の『牙破山』を破った地点で負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。獣人族は強き者に従う」
強き者に従う……か。ここから先は我がいうべきではないな。後は任せたぞ。
ありがとう。後は任せて。
「えっと、まずですが、あの親子を無傷で解放してください。そして帝国内で、襲撃するのを一旦やめてください」
この発言に周囲の獣人達が騒ぎ出す。それも当然の事だと思う。ここで更に一戦をする余裕はないけど、それも覚悟の上だ。一触即発かと思ったその時――――
「ガウ。黙れ!」
獣人族がその戦意に圧倒されて静まってしまった。
「ガウ。強き者に従うとは確かに言った。そこの親子は解放しよう。だが、襲撃をやめるのは不可能だ。俺だけではなく、獣人全体で決めた事だからな」
正直断られる事はわかっていた。ヴイさんが獣人族のトップであれば止められた可能性もあったけど、牙狼族で一番強くてもトップというわけではない。だけど、あれだけ特別な力があるんだ。ある程度の発言力はある筈……。
「無理を承知で頼んでいる事はわかっています。僕は今、とある依頼を受けて活動しています。そして、それが完了したら皇帝陛下と会える機会があるので、その時に獣人族の奴隷解放をお願いしてみるつもりです。だけど、今の依頼を終わらせるには獣人族の襲撃を止めてくれなければ無理なんです。なので一時的でいいんです。襲撃を止められませんか? 無条件でとは言いません。もし、説得が無理だった時……。僕は獣人族側として、微力ではありますが、獣人族の奴隷解放を手伝うつもりです」
これが僕が出来る覚悟だった。ケルヒ、アイさん、リスさん。ごめんね。もし獣人族の手伝いをする事になった時、一緒にいられなくなる。けど、今のこの歪んだ関係をそのまま見過ごす事が出来ないんだ。それに全く勝算がないわけじゃない。クリサンちゃんとセアムちゃんの様子からも獣人の解放論が全くないわけじゃないんだ。ただ、皇帝陛下が認めてくれないだけで。まぁそれをどうにかするのが難しいんだろうけど……。
暫く、沈黙が続いた。顎に手を添えて深く考えていた。どれほど、時間が経っただろうか、ヴイさんが目を合わせて返答してくれる。
「ガウ。お前のそれだけの覚悟、しかと受け取った。牙狼族のヴイが一時的であるなら、襲撃を止める事を約束しよう。だが、長い時間止める事は出来ない。それは覚えておいてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
そこからは大体の期限、結果を伝える手段等を相談しあった。そしてこれからの事を決め終わったのでずっと怯えたままの親子のところへ向かう。放置したままだったので申し訳ないと思うけど、こればっかりは仕方ないので我慢してもらうしかなかった。
「ガウ。最後に聞きたい! お前の名はなんだ!?」
あ、そういえばこっちから名乗ってなかったなぁ。
「ヴァンです」
「ガウ。その名といい、匂いといい、もしかして……」
名乗ったあとにしまったと思った。流石にバレたか!?
「ガウ。義兄上か!! だから俺の名を知ってたのだな!! 納得だ!」
違う!! けど、そう思わせた方が都合がいいのか!? 悪いのか!?
結局それ以上いい言い訳が思いつかなかったのでヴァン子の兄という事にした。ていうか義兄上ってまだヴァン子は返事してないんだけど?
そのあとちょっとしたゴタゴタはあったけど、なんとか話を付けることが出来たので、親子と共に倉庫をあとにする。表の広い通りまで出ると、その親子ともお別れをした。倉庫での話し合いは親子の危険も考えて、聴こえないようにしたので、巻き込まれる等の心配はないと思う。
それにしてもとんでもない事になってしまった。我ながら無鉄砲だったと思う。けど、大切な人を守る為にはこれしかない。これで本当に獣人達に襲われなくなれば無事、依頼も達成だ。そしたら皇帝陛下に会える。この時が最大のチャンスだ。どんな方法でもいい。何とか頑張ってみよう。
依頼が終わればこの生活も終わりか。そう考えると帝国学園での生活も終わりが近いって事になるんだな。そう感慨深く思いながら、帝国学園へと戻っていくのだった。
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