第十一話 そこにあったのは黒いレースのブラだった、って懐かしいなおい!!

 その後、ぼんやりとしている内に、今日の講義が終わってしまった。双子の皇子や、スケベジジイ、他の生徒達にも何か話しかけられたような気がしたけど、何を話したか正直覚えていない。まさかヴイさんからいきなり求婚されるなんて……。いや、それだけこの女装が完璧だったって事なんだけど、これってこのままでいいのか? いやいや、まずいでしょ。ど、どないしよ……。


 いつ来たのかわからないが、気がついたら、学園内にある公園で一人でいた。しかもうんうん唸って。けど、これ唸るよね!? どうしようもないよね!? あぁどうしよ……。さっきからどうしよばっかいってる。


 すると急に僕の肩を叩かれた。振り向いてみると……。


「そんなに唸ってどうしたんだよ?」


「ほぇ?」


 そこにいたのは作業服を着たケルヒだった。な、なんか久しぶりに見た気がする!!


「ケルヒ! ケルヒじゃないか!!」


「な、何を当たり前な事言ってんだよ? それにしても化けたもんだな。何度見ても、女と間違っちまうぜ?」


「ま、まぁ今のところバレる様子もないしねって、ちょっと聞いて! ヤバイ事になってるんだけど!!」


「お、おう」


 そこからは狼牙族のヴイさんの事を話した。あ、勿論、スケベジジイにも最低限の説明はしたよ? 依頼主だからね。そして笑い転げるケルヒ。め、目立つからやめて! ただでさえ、イケメンなのに、あとで変な噂とか立っちゃうから……!!


「わりぃわりぃ。それにしてもこの短期間で何でこんなに問題起こせるんだ? しかも結婚とか。それでヴァン子ちゃんとしてはどうするつもりなんだ?」


「ど、どうするも何も断るしかないじゃん! むしろどう転がったら了承する事になるんだよ!?」


「おい、ヴァン子。いくら周囲に人がいないからって口調を戻せ。どこで見られてるかわからないんだぞ?」


「一応周囲の気配も確認したから大丈夫なはずだよ。けど、ここで元の言葉遣いばっかになるとボロが出そうだから女言葉に戻さないとですわね」


「ブフー!!」


「もう、全く失礼しちゃいますわ! レディーに対してする反応じゃありませんことよ?」


「いや、だってよ? ですわねっておかしいだろ。笑っちゃうのを我慢する俺の身にもなってくれよ!」


 知らんがな!! 僕の方が辛いんじゃ!! そこからはお互いに文句を言い合って、そのついでに近況報告をしあってから解散した。ケルヒの情報から、アイさんとリスさんも無事、帝国学園内での活動が出来ているらしい。僕はどうしても双子の皇子が学園にいると近くにいないといけないから、他と連絡が取りにくくなってしまう。その分、ケルヒが用務員として、学園内を巡回しつつ、こうやって情報交換をしてくれるってわけだ。それにしてもアイさんとリスさんも無事に帝国学園に潜入出来ててよかった。


 そもそもこの依頼っていつまで護衛すればいいのかはっきりしてないので、終了時期がわからない。報酬はスケベジジイだけじゃなく、帝国からも出るのでかなり美味しいのと、優先的に謁見する権利を得られるので、やらない理由はなかったんだけど。はやく獣人が双子の皇子を狙うのを諦めるか、なんらかの形で和解してくれる事を切に願っている。


 今、僕が解決すべき問題は、双子の皇子の護衛の終了。そしてヴイさん含む、獣人との和解だ。どちらもおそらく僕が直接解決出来る問題ではないけど、何かプラスになる事は出来ないか模索中である。ただ模索する中でも、最低限、護衛はきっちりしないといけないし、獣人が被害者だからと、同情的になって油断してはいけない。今日、実際に学園内まで侵入されてしまったのだから。今回の目的がはっきりしなかったからあれだけど、もし、あそこで僕が気づかないで、深くまで侵入され、武力行使に移されていたら、どれだけの被害が出ていたかわからない。今回いた獣人の実力はこの学園の生徒達で対処出来るレベルじゃなかった。特にあのヴイさんは僕でも勝てるかわからない。


 実は、僕と獣人は相性が悪い。今までの相手だったら僕の『掃除機魔法』で『魔法』を無効化出来る事が多い為、ある程度の格上でも互角以上に戦えた部分があったが、獣人は『魔法』を使ってこない。僕と同じ、体術がメインになっている。そしてその身体能力は、おそらく僕より上。僕も魔力を利用して身体能力は上げるけど、それ以上に予測不能な動きに翻弄され、おそらく相手のペースにされてしまうだろう。


 うーん、普通の『魔法』を使えれば、有利な展開に出来るのかもしれなんだけどなぁ。『特異魔法』だと、どうしても相性の問題を解決するのに、独自の方法を考えないといけない。騎士達との戦いで対人も結構自信ついてきたのにちょっと揺らいできちゃったな。


 あぁごちゃごちゃしてきた! こんな時は訓練あるのみだな! どこか川でも探して泳いでくるか。













 そして問題になったのが、服装。何とかそれなりの流れのある川を見つけたんだけど、今の僕ってパンツ一丁じゃまずいじゃん? ルンパの擬態は完璧なので、脱いでもバレる事はないんだけど、上半身がぽろろんしちゃうのは人として終わっちゃう。川を目の前にウロウロして困っているとサラさんがプレゼントしてくれた指貫グローブがスルスルっと解けて、糸に変わり、そのまま胸のあたりを包みだした。ま、まさか、サラさんの『操糸魔法』ってここまで影響するの? 監視されてるの? しかも僕の心が読まれてるの?


 サラさんの恐ろしさを実感しながら胸元を確認。そこにあったのは黒いレースのブラだった、って懐かしいなおい!! 僕だって読み返さないとすっかり忘れてたネタだぞ。流石にこれじゃ泳げない。な、なんとかしてください! サラ様!!


 すると渋々? といった感じで形状が変化して、水着に変化してくれた。元々の色が黒だったので真っ黒なビキニに変化した。そして上半身はいいとしても、僕のしもしもは半分ずつに分かれ、とんでもない事に。こればかりはどうしようもないので、濡れてもいいようなショートパンツを履いて、漸く準備万端!! それにしてもこの変形? 機能ってすごいな。他にも何か役に立ちそうだから色々考えてみよっと。


 てな訳で問題も解決したのでじゃぽーーーーん! いやぁ、久々の川! 流れも丁度よく、魚がギリギリ溺れるか溺れないか位の急流。これくらいじゃないと、今の僕じゃ訓練にならないからなぁ。けど、こんな川が流れてて、もし生徒達が落ちたら危ないんじゃないだろうか。まぁそこは僕がどうにか出来る問題じゃないから今はとにかく訓練だ。


 気持ちよく泳いでいると、急に泳ぎにくくなってきた。ま、まさか、糸が泳ぐのを邪魔してる……だと!? なんか久々にサラさんと訓練してる気がしてきてオラ、ワクワクしてきたぞ!


 そこから色々な縛られ方をしながら夕方まで泳いで心も身体もスッキリ。川から出た時の視線がなんか物凄かったけど、それが気にならないほど、頭も心も満ち足りていた。あれ、僕って何でこんなに悩んでたんだっけ?


 水着(縛られた)のまま、学園内をウロウロしてると不穏な気配を察知。後ろ? いや、上か!


「甘いですわあああああああ!!」


「ぷげらっ!」


 スケベジジイの顎に右拳がクリーンヒット! 何か掴めた気がする!!


「お主が悪いんじゃよ! お主が!」


 スケベジジイは何を言ってるんだ? その後も、スケベジジイとクソガキの猛攻を何度か撃退して、自分の部屋に戻った。翌日、気持ちが落ち着いた頃に、僕が水着姿でしかも縛られた状態で歩き回った事に気づき、悶絶。上司様に叱られてしまい、二度としないと誓った。まぁ結局は誘惑に負けて、合間をみて泳ぐ事だけはやってしまったんだけどね。その度に怒られたんだけど、この訓練って一度やるとやめられないんだよね。むしろ身体が思い出してしまうとやめられなくなるみたいだ。


 そこから得た結論。今度から生徒も巻き込んで講義としてやっちゃえばいいんだ!! スケベジジイをそそのかして実技に取り入れよう。水着のまま突撃してスケベジジイを懐柔。生徒達は、地獄の実技が誕生した事に阿鼻叫喚するのだった。

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