第四話 これだけ頑張っても一番評価してもらえたのがルンパによる床掃除だった ※掃除回

 晴れ渡る空。日差しに反して、段々と朝が肌寒くなってきた。そういえば月もすっかり白くなってたもんなぁ。むしろ黒くなり始めてたか。そしたらきっと今より寒くなる。どの季節もまだ外に出てからは初めてで、それは僕がまだ、領主様のところから一年も経ってない事を意味している。これまでが濃い毎日を過ごしたせいでもう何年も経ってる感じだよ。


 最初はケルヒと二人だったのに、気がついたらルンパにアイさんとリスさん、賑やかになったもんだ。あ、コロも仲間はずれにしたら可愛そうだよね。今いる仲間を大事にしないと。


 そんな今日は、帝国に来てからの初仕事。ギルドマスターのアベさんに帝国の為にも、なんていわれたけど、帝国の為なんかじゃないもんね。僕達が生きていく為であって、帝国の為になんて働いてあげないよっ!


 まぁそんな初仕事は王国でもそうだった、ギルドの掃除。今回は主に外壁。ようはレンガの掃除だ。王国ではあまり馴染みのないレンガ。一応王城はレンガ(あれは石積みっていうべきかもだけど)で出来てたけど、一般家庭はそこまで普及してなかった。ところが、こちらの帝国では殆どの家の外壁はレンガで出来ている。そこには一応理由があって、近くの鉱山で固めると石より軽く、そして硬くなる粘土が発掘されるかららしい。王城を囲む外壁も帝国から輸入されたレンガを使用していて、下手すると、『土魔法』で作った壁より硬い事もあるので帝国では重宝されてるんだって。


 とまぁ、そんな事もあって、帝国では外壁がレンガだらけである。ようは、ここでギルドの外壁をピッカピカにすれば自然と仕事が増えるって寸法よ。ふへへ、お主もワルよのぉ。なんとか住む場所も見つけられたし、次は仕事。皇帝陛下に伝えて、はい、次って手もあるけど、上手く行かなかった時に一文無しでは困るので、先にある程度仕事をこなしておきたいのである。


 それに獣人の問題もある。獣人の奴隷問題もどうにかして解決したいけど、説得するにもどうしたらいいのやら。感情論でいったとして一国の為政者には通用しないだろう。論理的にも納得させなければいけない。それも絶賛考え中なのである。


 では早速、レンガ掃除を始めよう!


 まずは、壁に付いている埃や、土を『掃除機魔法』で簡単に吸い込む。まぁここは無理に『掃除機魔法』を使う必要はないんだけど、結局落とした土やゴミを掃除しなければならなくなるので、吸えるならそれが一番楽になるのでオススメ。そして使うならできれば柔らかいブラシのついたノズルで。そして、もし『掃除機魔法』を使わないでブラシなどで汚れを落とす時の注意。金属製のブラシは絶対使わない事。金属製のブラシで一気にゴシゴシしてしまうとレンガをどんどん傷つけてしまい、時間が経つとそこから腐食してしまったり、劣化の原因になってしまうからだ。基本的には布を使ったブラシで払い落とす程度で十分なので、その後にきっちり綺麗にすればいい。


 そして次はいつものこちら。『水龍刀』!!


「コロ……。ごめんな、俺じゃヴァンを止められねぇんだ」


「コロ〜〜」


 心外である。昨日はあれほど、あれほど、そう、あれほど、『水龍刀』の有用性を説いた事か。まだわかってもらえないらしい。これは今夜も説得しないと。青ざめた顔したってもう遅い!


 渋々ながら『水龍刀』になってくれた。刃は白く、蒼い刀身。波のような刃文。鍔には蒼い龍が描かれている。うむ、まさに掃除をする刀にふさわしい。


「いつもより刀がくすんでみえるんだが」


「気の所為、気の所為」


「後で手入れしてやるから我慢してなぁ……」


 あ、ちなみに今日は、僕、ケルヒ、コロ、ルンパで仕事をしている。アイさんとリスさんには帝国で必要になるであろう、生活用品と、皇帝陛下の人となりの情報収集をしてもらっている。僕とケルヒは買い物ならともかく、情報収集はあまり上手ではない。あの二人なら美人だし、アイさんは特に愛想もいいから上手く聞き出してくれるだろう。リスさんは毒舌がちょいちょい怖い。


 とまぁそんなこんなで、レンガ全体を高圧洗浄。もし、無かったら吹きかけるように水をかけるだけでも問題ない。レンガが乾いていると、レンガを綺麗にする為の洗剤がレンガに染み込んでしまい、結果的に劣化しやすくなるからだ。それを防ぐため、あらかじめ水を浸透させ、洗剤を染み込ませないようにする。


 そこまで済んだらここからが本番。


 食器を洗う洗剤に、塩を混ぜ、ペースト上にする。割合は一対一。それを布に含ませ、そのまま円を描くように塗り拡げていく。汚れがひどいところは厚めに、そんなでもないところでは薄めに塗っていくと均等に汚れを落とせるようになる。ここで注意してほしいのが洗剤を他の洗剤と混ぜない事。これはなぜかわからないけど、危険なガス? が発生するらしく、それを嗅ぐと最悪死んでしまう事もあるとか……。サラさんから教わった事なので、実際にやった訳ではないけど、わざわざ試す必要もない事だし、洗剤は一種類。これは守ろう。


 そして暫く放置し、もう一度『水龍刀』の高圧洗浄をかけて、綺麗に落とす。コツは上から下へ。洗い残しが心配であればぬるま湯を浸した布で最後、洗い落とす。洗剤が残ってしまうとそこから腐食してしまうのでしっかり落とし切るのが大事。


 そして今回は白くなってないのでやる必要がなかったけど、レンガが白くなってる場合、こちらは酢を使ってみましょう。あれだね、タイルの掃除の時と同じで、『サンセイ』が白い汚れを落としてくれるらしいのでオススメ。







 なんという事でしょう。あんなにくすんでた(失礼極まりない)レンガが新品のようにピカピカ。道行く人々がその様子を見て、驚いています。これは思った以上に宣伝効果がありそうだ。これだけ目立つ建物だし、一部しか終わってないのが余計に綺麗にしているのを際立たせている。これで全部終われば、目立つ事間違いなしだ! へへへ、最後まで付き合ってもらうからね、ケルヒ?


「うええええええぇぇぇぇぇぇ……」


 そんなに喜ばなくてもいいんだよ?


「何でそう思えるんだよ、おい」


 ちなみに、これだけ頑張っても、一番評価してもらえたのがルンパによる床掃除だった。分裂して床を這い回るだけ。それだけで床が新品のようにピカピカ。僕達は結構な重労働だけど、単純に動き回るだけが一番いいなんて……。


 まぁただ、ルンパは賢いので、自分でどんどん効率的に動き、殆ど同じミスをしない。最初は端っこのゴミを残してしまったり、床にあった書類を間違って飲み込んでしまった事があった。それが最近じゃ、端から端まで水の精霊を使って汚れを浮かせながら吸い取り、今ではすっかり、床掃除に関しては僕よりうまくなっている。何より、ルンパのいいところは、僕達が他の仕事をしてる最中にピカピカにしてくれる事だ。ちなみに、賃貸している宿の床掃除も、現在進行系でこちらと並行しながらやっている万能掃除マンである。僕の存在意義が、と思う部分もあるけど、正直こればっかりは敵わないので仕方ない。僕は分裂出来ないし、ルンパは可愛いからそれでいいのである。


 結局、今日だけで外壁の掃除は終わらなかったけど、評判は上々。王国から来た冒険者にあいつは『掃除人スイーパー』だと、はやくもバラされ、噂を拡散される始末。まぁ仕事が増えるのはいいことだから、問題はないんだけど、ケルヒが魔物の討伐に出れなくなると、拗ねるんだよなぁ……。


 まぁこの問題は後回しにして、今日もたくさん働いたし、宿に戻ってゆっくり休んで明日また頑張ろうっと!!


「なぁ、明日は魔物の討伐に……」


「明日も掃除頑張ろうね!!」


「えぇ……」


 帝国中のレンガをピカピカにしてやるぜ!!

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