第二話 よかったのか? ノコノコ来ちまって……。俺はノンケだって構わないんだぜ?
目の前に広がるのは、レンガ調に統一された街並み。無骨なイメージを持つこの町並みを歩いている人々も気の所為か、気が強そうな人ばかりに見えてくるから不思議だね。ギルドの場所をゴリラ騎士様に聞いたので、まずはギルドを目指してみる事にした。生活の起点となるであろうギルドを知るのは最も重要な事だからだ。
「なんか王国より雰囲気悪いですね?」
「悪いというか重い?」
「うーん、なんていうか気が立ってる?」
「巡回している警備の奴らの雰囲気がわりぃな」
ケルヒのいう通り、街の巡回をしている警備の人達の雰囲気が殺気立っている。治安がどうのっていう感じじゃなくて、何かに警戒している感じ?
とにかく今の僕達には情報がない。ギルドに向かってみて確認してみよう。
うん、やっぱりここもレンガ調に統一されてて、がっしりとしてるな。僕が本気で殴っても壊せるかどうか……。
「おい、何考えてんだ」
「え? 殴らないよ?」
「いや! その顔は絶対やる顔だった!」
「いやいや! そんな──」「うるさい、行くよ」
「「はい」」
リスさんの冷たい視線を浴びながらギルドの中へと入っていく。入り口は王都のギルドと一緒で三ヶ所。冒険者用と依頼者用、そして商業者用だ。今回は冒険者用の扉を入る事にした。
中に入ると大勢の人がごった返していた。王都のギルドよりやけに賑やかだなぁ。なんでだろう? 周囲を見回してみると酒場が一緒に併設されていて、昼間にも関わらず、そこで幾人も人達がお酒を飲んで騒いでいた。あぁだから賑やかなのか、けどお酒とか入ると喧嘩とか始まらないのかな?
そんな事を思っていると早速大きな音が響き渡る。奥の方でテーブルがひっくり返り、料理が床に散らばっていた。そして、そこに集まる人だかり。僕達は気になる気持ちを無視して、受付に向かう事にした。だって嫌な予感がするんだもん。背後で喧嘩が始まった事を確認してから受付の空いているところへ声をかけた。
「すみません。本日より、王都のギルドからこちらへしばらくお世話になる、ヴァンと申します。こちらの三人が僕の仲間です。今日は挨拶だけですが、近い内にまた来ますのでその時はよろしくお願いします」
「おう、丁寧にありがとな、坊主! うるせぇところだけど、旦那が来ればすぐに静かになるからよ。ただそっちのイケメンのお兄ちゃんは気をつけな。旦那は見境ねぇからな」
「へ? 俺??」
何の事かわからないけど、どうやらケルヒは気をつけた方がいいらしい。
その後、僕達の得意分野、ようは掃除なんだけど。あと、等級も申告した。ちなみに今の等級は七級だ。この前の魔物の異常発生が終わったところで七級になれた。これで漸く一人前になれた感じだね。ただ、そうなるとギルド寮が使えなくなるので新しい拠点が必要になる。
暮らすのにオススメの場所も確認しておかないと……。っとギルド職員さんに確認しようとした時、奥の扉が大きな音と共に開かれた。扉の上に書かれた文字は『ハッテン場』。意味はわからないけど、なぜか僕の本能が危険だっていっている。絶対近寄らないようにしよう。
そしてそこから出てきたのはガッチリとしたガタイの男性で、上下が一緒になっている青い服を着ていた。真ん中にあるファスナーを上下しながら周囲を見回している。舌なめずりしながら何かを探している姿はまるで獲物を見つけている猛獣。さっきまで騒いでいたのが嘘のようにギルド内が静まり返っている。ガタイのいい男性ほど大人しくなっていて、逆に女性は全く気にしていないようだ。
すると、受付にいた僕と目があう。背筋がゾクッとして思わず目をそらしてしまった。そらした先にいたのはケルヒ。そんなケルヒは固まってしまっていた。恐る恐る先程の男性の方を見るとケルヒを見ながら、こちらに近づいていた。まさに蛇に睨まれた蛙。危険なのはわかっている筈なのに、僕達は一歩も動けないでいた。
「うまそ、いや、活きの良さそうな奴らが来たじゃねぇか。俺はここのギルドマスター、アベティブだ。アベと呼んでくれ。お前ら、名前は?」
「アイです」
「リス」
「ケ、ケルヒだ」
「ヴァ――」「ケルヒか! いい名前だ!! この後暇か? どうだ、ギルド内を案内してヤるから来ないか?」
僕、まだ名前いい切ってないんだけど……。それにしてもケルヒにベタベタしている。普通、こういう時って女性にいかないのかな? いや、女性にいっても困るんだけど。
困惑状態で周囲を見回すと、あからさまにほっとしている男性陣。このギルドマスター、何かあるのかな?
「あ、あの、ぜ、是非お願いするっす」
「そりゃ、嬉しいねぇ。それじゃとりあえずこっちに行こうか」
向かう先は先程出てきたばかりの『ハッテン場』。危険な匂いがぷんぷんする場所だ。これはこのまま向かってしまっても大丈夫なのだろうか?
先に歩き始めてしまったギルドマスターのアベさんに戸惑いながらも付いていく。『ハッテン場』に近づくにつれ、危険な気配は濃厚なものになっていく。魔物の異常発生の時だってこんなに危険を感じなかったんだけど!?
「よかったのか? ノコノコ来ちまって……。俺はノンケだって構わないんだぜ?」
ふと、呟くアベ。今からでも遅くない!! やはり、この『ハッテン場』に近づくのは危険だ。危険が危ない!!
「あ、あの! え、えっと、他の場所でお話出来ませんか?」
あぁ、声が裏返しになっちゃった。
「あん? 誰だお前。……あぁケルヒの仲間か。ケルヒだけ来れば問題ない。お前らはここで待ってろ」
まさかのケルヒだけ!? なんて失礼な人だ! ここは一発、ぎゃふんといわせてやろうか……!!
「す、すみません! 俺は仲間が大事なんで、今日は仲間も一緒に話をするのはダメか? です」
剣呑な雰囲気になりかけた時にケルヒが間に入ってくれた。暫く静寂に包まれたが、観念したのか、アベさんがため息を吐きながら応えた。
「俺とした事が気がはやかったか。いいぜ。あっちで話をしよう。楽しみはこれからだからな」
最後の言葉が不穏だけど、とりあえずは危機を脱したと思う。ケルヒはこれからも危機が続きそうだけど。今もケルヒが助けてほしそうにこちらを見ている。どうしようかな? ルロさんの時とか上手く逃げて助けてくれなかったし。
暫く考え、僕とアイさんとリスさんには被害はなさそうだし、このままケルヒに頑張ってもらう事にした。とりあえず結果が出たところで『ハッテン場』とは違う、普通の応接室らしき場所へ移動する。
あれ? そもそも何でアベさんと一緒にいくんだ? 疑問に思いつつも、みんなで応接室に入っていくのだった。
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