第四章 帝国学園編

第一話 妙にニタニタしてるのが気になる。こういう顔してる人ってロクでもない事を言ってくるのが相場だ。バナナ投げるぞ、こんにゃろう!

「『水縄』」


「『吸引』!!」


 奇しくもあの時と同じ状況だけど、今回はもう引っかからないぜ、とっつあん!


 国営乗合便に乗って数日。なんと今回一緒になった護衛騎士様があのゴリラ騎士様だった。思わぬ再会を果たし、お互いに握手。せっかくだからと模擬戦をさせてもらっていた。相変わらず、こちらをじわりじわりと追い詰めてくるような戦法に苦戦はしているけど、あの時のように一方的にやられているだけではなくなった。視界が広がるだけでこんなに違うんだ。それでも僕よりは格上。胸を借りるつもりで頑張ろう!









 結局、一勝も出来なかった……。やはりゴリラ騎士様の壁は厚いなぁ。これでも強くなったと思ったんだけど。ケルヒも同様で結局二人揃って完敗だった。これが実力の差ってやつだね。もっと修行しないと……! 思案顔でいるとゴリラ騎士様が他の護衛騎士様と一緒にやってきた。


「いやはや、見違えるように強くなったね。こりゃ私もうかうかしてられない。……負けた部下達をもっと鍛えないとな」


「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」


 思わずケルヒと苦笑いしてしまった。そう、確かにゴリラ騎士様には負けたが、その他の護衛騎士様を相手した時には、殆ど僕達の勝ちで終わったからだ。負けた騎士様達は不満そうな顔をしてるけど、次は負けないぞっと強い決意を感じる顔になっていた。その後も護衛騎士様とゴリラ騎士様の訓練云々の交渉は続いていく。聞いているだけで吐きそうな内容だった。まぁ、サラさんの訓練に比べたらまだ遊びみたいなもんだけどね。いや、ホントに……。普通に吐いてたし、死にそうになっても止めてくれなかった。生きてるだけマシってもんだよ。


 一通り部下の騎士様達をからかいきったのか、ゴリラ騎士様がこちらにやってきた。妙にニタニタしてるのが気になる。こういう顔してる人ってロクでもない事を言ってくるのが相場だ。バナナ投げるぞ、こんにゃろう!


「そういえばそちらにいらっしゃるお嬢さん達は君達のいい人なのかな? 若いっていいね」


「ち、違いますよっ。訳があって一緒に旅をしてるだけです! そ、そう! 仲間です!! ね、ねぇ??」


 何いきなり仰天発言してくれてんだ、このゴリラ!? 本当にロクでもない事だったよ! 同意を求めようとアイさんとリスさんの方を振り向くと、ちょっとご機嫌ナナメな感じがするアイさんの姿と、それを見て呆れているリスさん。ケルヒの方を見るとそっぽ向かれた。最近、こういう時、ケルヒってすぐ逃げるんだけど、ひどくない?? 朝起こす時に今度はどんな悪戯してやろうかな……。


「そうですね、ヴァンとは旅の仲間です。お友達です。それ以上でもそれ以下でもありません」


「バカ」


 思わず、ケルヒが吹き出す。どこで選択肢をミスったんだ? ここにいる人には秘密だけどアイさんってお姫様だよ? 僕ってそこらにいる冒険者で、身分差もあるし、いくらなんでも恋愛対象になる訳なんて……。あ、ちなみに様からさんになったのは旅の仲間として、いつまでも他人行儀はやめようって話になったからだった。


「ハッハッハッ! まさに青春とはこの事だね。それじゃあそろそろ出発するから鎧車に乗ってくれ」


 搔き乱すだけ掻き乱してさっさと行ってしまった。残された僕達の空気が重い。この空気どうしてくれるんだよぉ! ゴリラめ、あとで覚えてろよ!!








 そこからの道中は、平和なものだった。時折現れる魔物は、護衛騎士様だけで対処出来るレベルだったし、むしろ数が少なくなっていて、余裕を持って対処出来ていた。この現象は、王国のギルドでも同様で、討伐の仕事が減っていて困っている位だった。これは僕の予想なんだけど、ガビが魔物を集めていた影響で、一時的に魔物が減ってしまっているんじゃないか、と思っている。あれだけの魔物を集めていて、それが殆ど討伐されたんだから、その分、減るのは当然の事である。


 そして問題のガビだけど、あれで終わりじゃなさそうだ。炭みたいになってもまだまだ余裕のあったあの様子。確かに最後には消えたけど、あれで倒したと考えるのは楽観的すぎる。また会おうっていってたしね。僕とケルヒの名前は覚えられてしまったから、またどこかで再戦する事になるのだろうか? もしそうだとしたら、次は確実に負ける。今回はたまたま勝てたけど、あのままルロさんが来てなくて、戦う事になっていたらどうなっていたかわからない。正直四人とも限界に近かった。しかも、あの時戦ったガビは、なんらかの方法で魔物の寄せ集めただけの身体であって、本体じゃないんじゃないか? っていうのが大多数の考えだった。そしておそらく本体はもっと強い……。考えただけで背筋がゾクッとしてきた。出来る事ならもう戦いたくないけど、そんな都合の良い話はない。次戦った時に、負けないように頑張らないと。


 戦う事ばかり考えていても気が滅入ってしまうので、暇になったその間、せっかくだからと四人で今までの身の上話をした。これまではどうしても生活するのに必死だったり、アイさんとリスさんは自分達の使命を果たす事が優先だった。それが今回、第一歩として王国で達成出来た事で、今更だけど、自分達の事を話す余裕が出来たんだ。それが中々盛り上がって、最後は、僕達が出会ったきっかけの、特に神父様の頭を叩いたところあたりでアイさんが思わず吹いてしまったところで僕の羞恥心は限界に達してしまった。僕が外に逃げてしまい、そこで話は終わり。あれは本当に恥ずかしかった……。


 逆に、アイさんとリスさんからは、トゥーシバ国の事を話しもらえた。トゥーシバ国は鎖国している国なので、僕達とは違った文化が広がっていた。そもそも僕達が使っている、『魔法』がないんだ。トゥーシバ国では、僕達のように全員が『恩恵』を授かるのではなく、代表の家がいくつかあって、代々引き継がれていく『継承』が行われている事で僕達でいう『魔法』を得る事が出来るらしい。なので、誰でも使える訳ではなく、代表の家で継承者だけが使える、特別なものになっているらしい。その中でもアイさんが使えるのが『守護術』。もう名前の通り、守る事に長けている術だ。リスさんの方は、『銀闘術ぎんとうじゅつ』といって、水銀を変幻自在に操って、先日のようなトンファーや、普段使っている弓矢に変化させて戦う事が出来るらしい。扱える武器の数は本人も知らないらしいが、かつては千を超える武器を扱えた人もいたらしく、リスさんはいくつ使えるか聞いたけど、乙女の秘密だって教えてもらえなかった。


 そんなこんなでお互いの話をしつつ、着実に帝国へ向かっていくのだった。







 楽しかった旅もあと少し。目の前には王国に勝るとも劣らず、巨大な防壁が僕達を歓迎してくれた。むしろ王国より、無骨で頑丈そうな印象を受けた位だった。


 これが帝国……。雰囲気は王国より重い。こんなところで上手く、話を通す事が出来るかな? いくら王様の手紙があるっていっても不安になってくる。やるのはアイさんとリスさんなんだろうけど、ここまで一緒にやってれば、他人事って訳にもいかないし、僕達の今後にも関わる事だからね。


 まぁどちらにせよ、まずは帝国を知らないとね。中に入ったらまずはギルドに行ってみよう。期待と不安が入り交じる中、遂に帝国の中に入っていくのだった。

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