第十九話 師よ、我は強くなれたであろうか?

 ここはどこだろう?


 真っ暗な空間。僕はそこで一人、ポツンと佇んでいた。


「ヴァン君、調子はどう?」


 後ろを振り向くとそこにはサラさんの姿があった。まだそんなに離れてから時間は経ってない筈なのに、凄く懐かしく感じた。


「サラさん! 僕は元気だよ。ねぇそれよりさ、聞いてよ。僕ね、友達がいっぱい出来たんだよ! 勇気を出して頑張ったんだから」


「そっかそっか。それは偉いね」


 僕はサラさんにいつも限界を超えるまで頑張った事を自慢しているんだ。


「僕ね、悪い奴をやっつけたんだ! おりゃああって!!」


「そりゃ凄いね。流石、私の自慢のヴァン君です」


「師よ、我は強くなれたであろうか?」


 意識が混ざる。表の僕と裏の我と……。


「ヴァン君は強くなってるよ! けどね、まだまだ強くなれる筈だよ。私はそう信じてる。もうお別れの時間だね。ほら、せっかく出来た仲間達がヴァン君を待ってるよ?」


「え? もうお別れなの? 嫌だよ。……師と共にいる事は出来ないのか?」


 どこからか聴こえてくるを呼ぶ声。あ、まだサラさんと話したい事がたくさんあるのに……。


「大丈夫だよ。必ずまた会える。その時にはもっと強くなってカッコいいところを見せてね。待ってるから」


「サラ……さ……ん」









「お、やっと起きたか!」


「お寝坊さん」


「もう、そんな事言わないの。ヴァン様、お身体の調子はいかがですか?」


 目を開けると目の前には三人の顔。それぞれが心配そうにこちらを見ている。


「ん? なんだ、ヴァン。泣いてんのか?」


 え? 顔に手を当てると確かに濡れていた。あれ、さっきまで懐かしい夢を見ていたような気がしたんだけど、なぜか思い出せない……。


「大丈夫だよ。それよりここは?」


 なんか見覚えがあるんだけど……?


「もう忘れたのか? 騎士団本部の医務室だよ。ほら、前も倒れて運ばれたじゃねぇか」


 あぁ……。確かに前もお世話になってるね。だから見覚えがあったのか。また運ばれちゃったんだ。ん? そんな事より、


「魔物の異常発生はどうなったの!? ガビは!? 最後にルロさんも来て、魔物がいっぱい出てきたよね!?」


「焦るな、焦るな。まず、魔物の異常発生は、ガビがいなくなった事で落ち着いたぜ。『飛翔部隊』と冒険者が処理してくれたから大丈夫だ。隊長さんがヴァンの事、心配してくれてたぞ? 毎日、見舞いに来てくれてたからな」


 毎日……?


「え、あれから何日経ってるの!?」


「三日だ。魔物の異常発生は二日目に終わった。多少の被害はあったらしいが予想より魔物が少なくなったおかげで、早急に終われてよかったってブルーレッドさんも喜んでたぜ」


 多少の被害……。仕方ない事かもしれないけど、やっぱ悲しいな。それでも僕の周りの人は守れた事は嬉しい。それだけは、喜んでおこう。


「あ、陛下への報告も済んでいます。そして、これはお願いになるのですがよろしいでしょうか?」


 お願い? 改まった様子でどうしたんだろう……。


「お二人には、わたし達と一緒に帝国まで着いてきて、わたし達のお手伝いをしてほしいのです」


「帝国まで? なぜ僕達なのですか?」


 正直、僕達より強い冒険者なんていくらでもいるだろう。アイさんは一国の姫様だし、そういう人達に護衛してもらった方がいいと思うんだけど……。


「陛下と相談した事なのですが、今回の魔物の異常発生においての活躍。わたし達の身分を隠しておきたい事。そして、これが一番なのですが、お二人がわたし達にとって、一番信用出来る事です。ちなみにですが、これは冒険者ギルドを通しての依頼です。依頼主は、我が国であるトゥーシバ国。この任務が全て終わった際には、トゥーシバ国において、それなりの報酬をお渡しする事を姫巫女の名において約束いたします」


「えっと、報酬はいいんだけど、僕達で……いいの?」


「ヴァン様とケルヒ様がいいのです。他の方ではいけません!」


「いけません」


 ここまでいわれて無理だなんていえないよね。ケルヒの方を見るととっくに決心出来てるみたいで、力強く頷いてくれた。


「アイさん、リスさん。これからもよろしくお願いします」


 アイさんが満面の笑みを浮かべてくれた。アイさんが喜んでくれると僕の方まで嬉しくなってくる。


「ありがとうございます!! これからもよろしくお願いしますね」


「よろしくな!!」


「よろしくー」


 魔物の異常発生の問題が終わったらさよならだと思ってたのに、まだまだ一緒にいられるんだね。もうすっかり仲間になってたから、実は少し寂しく思ってたんだ。王国から離れるのはちょっと不安だけど、それ以上に新しい旅立ちへワクワクしてきた。









 そして、出発の当日。あれから暫く休んで、身体はすっかり元気。ルンパが体内に仕舞っておいた魔物の素材も売ってお金にしたし、出発の準備万端だ。


 すっかり綺麗になった城壁の周辺を流れる川を眺めつつ、見送りに来てくれたのはルロさんと眼鏡美人職員さん、そしてブルーレッドさんだ。


「ヴァン君、お別れなのかぁ。寂しくなるなぁ。あたしも一緒に行っちゃダメ??」


「駄目です。どこかで陛下が見ている気がするので、そういう発言は間違ってもやめてください。怖いので」


「本気で言ってるのにぃ! ヴァン君って意外と意地悪だよね」


 意地悪も何もそんな事したら首を飛ばされちゃいますって。本当にこの前ので懲りましたから!


「まぁ、あたしは『飛翔部隊』の隊長だからね。離れられないのはわかってるんだけど、せっかくだから言ってみたかったの! 帝国行ってもあたしの事……忘れないでね」


 アイさんの方を気にしながらいってくる。アイさんの顔に何か付いてるのかな? アイさんの方へ振り向いてみると、満面の笑みを見せてくれていた。背筋がゾクッとしたので前を向く。


「も、もちろん忘れません。そちらのお二人もお世話になりました」


「こちらこそありがとうございました。あなた達のような優秀な冒険者を失うのは大きな損失になってしまいますが、こればかりは仕方ありませんね。また王国に戻ってくるのを楽しみにしてます」


 ケルヒ! 挨拶しないと!!


「お、俺もま、ま、また会えるのをた、楽しみにしておりますぅぅ」


 ダメだこりゃ。そして最後はブルーレッドさん。


「本当にあなた達には助けられましたわ。南のギルドだけじゃなくて東のギルドでもあなた達の帰りを待ってますからね。まだまだ綺麗にしていただきたい場所はたくさんありますから」


 そういえば、東のギルドの周辺も清掃するようになって、治安がよくなったらしいよ。綺麗になると心も綺麗になるのかな? なら僕の心はいつもピッカピカだよね!!


「「「「「「え?」」」」」」


 みんなひどい!!


 そのまま少し雑談したあと、無事お別れを済ませ、国営乗合便へと向かう僕達。これで暫くは、王国ともお別れかぁ。感慨深くなっていると、遠くからこちらに向かって走ってくる人影が見えてきた。


 あれ? ミスド様? 慌てて走ってきたけど、何でこんなところに……。遅れて追いついたミスド様の取り巻きが不穏な気配を漂わせている。え? もしかしてバレた?


「おい! お前、確かヴァンっていうんだよな!? 俺様はミスドってんだ。あのよ、えっと、あの、助けてくれてありがとな!! それにしてもあんな魔物倒しちまうなんて凄かったぜ! それじゃあな!!」


 そして走り去っていくミスド様。みんなポカーンとしている間にいなくなってしまった。そしてそれをまた慌てて追いかけていく取り巻き達。


 あの時、いたのは知ってたけど、まさか見られてたなんて。そして名前まで完全に覚えられてる。これって大丈夫なのかな? うーん、まぁいっか。


 気を取り直して、国営乗合便へと向かう僕達。最後にちょっとしたハプニングはあったけど、これも僕達らしくていいかな!! え? 僕達らしいじゃなくてヴァンらしい? そ、そんな事ないよ!? これからの冒険も大変かもしれないけど、みんなで頑張ろうね!


―――――――――――――――――ー


 第三章まで読んでいただき、ありがとうございました! これにて第三章は終幕し、第四章に舞台は移ります。


 おい、何で今回は閑話ねーんだよ! 新しいヒロイン可愛いじゃんか! ヴァンのやる気が大好き! もし、少しでも応援してやってもいいよ? って思っていただけましたら、☆評価、フォローをよろしくお願いします! 励みにさせていただきます。


 それでは引き続き、『掃除機魔法が全てを吸い尽くす!!』をよろしくお願いします!

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