第十八話 たとえ、実力差があったとしても、この場で限界を超えればよいのだ! 我を舐めるな。この程度の苦戦などで諦めるはずがなかろう!!

 ギルドマスターは死んでなさそうだが、動く気配がない。ひょっとすると気絶してるかもしれんな。あれだけの実力者を疲労があるとはいえ、一発……。しかもガビとやらはまだまだ余力があるのに対して、こちらは既に満身創痍。


「さぁ、今渡せばそちらにこれ以上危害を加えるつもりはない。だが、抵抗するのであればわかっているな?」


 諦める……? 我が?


「心友よ、まだいけるか?」


 相手に聞こえないように相談する。


「きついが、そんな事言ってられないよな。あの魔族に渡したら、何をされるのかわかりゃしねぇ。裏ヴァンこそ厳しいんだろ? 俺に任せて寝ててもいいんだぜ?」


「戯言を言うな。寝てる位なら死を選ぶわ。姫、弓っ子。ここが正念場だ。こいつを……倒すぞ!!」


 二人が頷くのと同時に飛び出す。ガビに返事など、する暇ないわ!!


「吸排拳弐式『排迅マダ見タ事ノ無イ世界ヘ』!!」


「コロ、いくぞ! 精霊刀『火凰双刀かおうそうとう』!!」


 最大戦力で一気に叩く!!


「それが答えか。残念だ」


 こちらはどんどん近づいているのにガビは悠長にしている。まずはその余裕そうにしているその面を殴る!


「吸排拳壱式『排勁神ヲモ滅ス一撃』!」


 この距離ではもう避けようもなかろう! くらえ!!


 後少しで、当たるというところで右手を前に出した。


「その技はもう見たぞ。『出ろ』」


 すると目の前にマルマジロが出てきた。我の吸排拳壱式『排勁神ヲモ滅ス一撃』がガビではなく、マルマジロに当たってしまった。何だ、この術は!?


「驚いている暇はないぞ?」


 この隙を逃す筈のないガビが我に迫る。くそ、このままじゃ……。ガビの拳が目の前まで迫ってきた。


「『守護陣』」


 我の顔面スレスレで透明な壁にぶつかり、粉々に割れてしまった。姫の『守護陣』か! 危ないところだった。タイムラグが出来たその間に、何とかガビから距離を取った。


「ふむ、素晴らしい連携だ。これで終わりではないのだろう?」


それと入れ替えに心友が『火凰双刀かおうそうとう』を握りながらガビへと突撃を始めた。ガビはそれを先程と同様に、魔物を盾にしたり、死角から襲わせたりと多様な戦いを繰り広げていた。代わりにこちらも弓っ子が遠距離から援護し、一進一退の攻防が続いている。


 我もこのままではいかんな。姫に目を向け、合図をしてからガビのところへ向かう。


「心友! どくのだ!!」


 我の呼びかけに瞬時に反応して後ろに下がる。それと入れ替えに我がガビの前に立つ。それと同時にガビを覆う『守護陣』。


「くらえ!『断空全テヲ断ツ黒キ宝玉』!!」


 ガビを黒くなった『守護陣』が覆っている。どんな生物でも呼吸が出来なければどうにもならないだろう。これでどうだ!?


「これも先程、見たな。面白い技だ」


 一瞬で全体にヒビが広がり、そしてそのまま『守護陣』が粉々に砕け散った。中を見ると何事もなかったかのようにその場で佇んでいるガビ。これでも無傷か……。


「さて、これで満足したか? 実力差は、十分わかってもらえたと思うのだが。俺もこの戦いを楽しみたいが、そういう訳にもいかん。ここでお前たち二人を殺すには惜しい。もっともっと強くなって、俺を楽しませてくれ」


 あれか……。こいつは強き者を求めているのか。それで魔力の限界値が高い者を狙っていたんだな。いわゆる戦闘狂というやつだ。


「有り難いお言葉だが、断る。我と心友にとって、あの二人は既に大事な仲間なのだからな。我は最後まで諦めぬぞ。たとえ、実力差があったとしても、この場で限界を超えればよいのだ! 我を舐めるな。この程度の苦戦などで諦めるはずがなかろう!!」


 だが、どんなに奮い立たせても大きな技は使えて一回。これに賭ける! それが心友にも伝わったのか、刀にこれまでで一番大きな炎が燃え上がっている。我も最高の一撃を与える為に力を貯める。そしてその間を埋める為に、ガビの前に立ったのが弓っ子だった。


「リスに任せて」


「そんな小娘が相手だと? 興ざめだな。そんな弓でどう相手をするつもりだ?」


 確かに今、弓っ子が持ってるのは弓だ。だが、この弓には秘密がある。真ん中から半分に割れ、その弓をリスの魔力が籠もった銀で包む。そして取手が付き、その部分を弓っ子が持って無造作に回転させた。いわゆる、トンファーというやつだ。


「護衛が弓しか使えない訳ないじゃん。女だからって舐めないで」


 いうのと同時に瞬時に懐まで入りこむ。そしてご挨拶の一撃。的確に顎をとらえ、ガビの脳を揺らす。完全な不意打ちでガビが反撃をする頃には、既にそこにいなかった。


「リスはそこの脳筋二人とは違うから」


 そこからはスピードのリス。パワーのガビの攻防が続いた。スレスレを躱しつつ、着実に一撃を加えていくリスに対し、一撃でも当てれば倒せるパワーを持つガビ。一見互角に見えるが、明らかにリスが押され始めている。


「ハァ……。ハァ……」


「どうした? 息が上がってきているな。確かにその速さは驚異だが、その程度の威力では何発当たっても俺は倒せんぞ」


「うるさい」


  不用意に近づきすぎだ!! やはり疲労が蓄積されてしまい、判断が甘くなってしまっている。初のミスが痛恨のミスになり、必殺の一撃が弓っ子の顔面に迫る。


「『守護堅陣』」


 弓っ子の目の前にガビの攻撃でもヒビ一つ出来ない程、先程までとは比べ物にならない強固な壁が出来ている。こんなことが出来るのは……。


「わたしだって、ただ守られるだけの存在じゃないんだからね」


 玉のような汗をかきながら、姫が弓っ子にいう。これだけ堅い『守護陣』を作るにはそれ相応の魔力を使ったのだろう。だが、姫もただ、守られるだけの存在ではない。それを今、証明したのだ。


 そして漸く貯まったぞ。


「弓っ子、姫。感謝する。これで終わらせるぞ。心友、準備はいいな」


「任せろ」


「遅い」


「任せました」


 我の最強技は吸排拳参式『螺旋排出砲全テヲ吐キ出ス神ノ咆哮』だ。だが、これだけでは威力が足りぬ。なのでここは心友と同時攻撃……! 心友を見れば、刀の周りを飛び回る二羽の炎の鳥。あれが異界の精霊、鳳凰か。


「ほぉ、素晴らしい魔力だ。だが、そんなものどうやって当てるのだ?」


 そう、このままではいくら威力があろうと当たらないだろうな。だが、一人忘れている存在がいるだろう?


「よくもやってくれましたわね……。『滲渦しんか』!!」


 そう、渦女だ。実は先程、動き出していたのがわかっていた。そして流石はギルドマスター。状況を瞬時に察して、最適な行動をしてくれる。今も地面から湧き出る無数の渦がガビを捕捉している。そこらの魔物であれば、あれだけでボロボロになっているであろうが、ガビが相手ではこれでも足りない。だが、


「「これで決める事が出来る!!」」


 ガビを挟むように立つ我と心友。これが最後の一撃だ。


「吸排拳弐式『排迅マダ見タ事ノ無イ世界ヘ』!」


「『鳳凰双天翔』!!」


 心友の技に合わせて飛び出す。後はタイミングを合わせて……!!


「この俺を舐めるな!!」


 なっ! あれだけの渦を力任せに引きちぎっただと!! そして背後に迫る二羽の炎の鳥を避ける。そのままその鳥は我の元へ……。


「最後が同士討ちとは呆気ないものよな。だが、思ったより楽しめた」


「まだ……終わってない! 『強吸引光ヲモ飲ミ尽クス深淵』!!」


 鳳凰を我の中へと飲み込む。これで仕上げだ!!


「精霊合体奥義『鳳凰螺旋砲神モ焼キ尽クス螺炎』!!」


「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」


 ガビが鳳凰の炎と掃除機魔法の魔力に飲み尽くされていく。手応えはあった。もしこれで駄目だったら我らの負けだ。もう指一本動かせぬ。炎が消え、そこには炭のようなものが立っていた。


 やったか……?


「……ふふふ、はははははは!! 小娘を攫うだけのつまらん仕事でとんだ拾い物をしたわ! そこの二人、名は何だ??」


 何でこんなになってもこいつは生きているんだ……。全身炭のようにボロボロでいつ崩れてもおかしくないではないか。


「……我が名はヴァン」


「ケルヒだ」


「ヴァンにケルヒか。覚えたぞ。それでは――――」


 その時、上空から銀の羽根が舞い降りてきた。この羽根はもしや!?


「キミ、あたしの友達に何してくれてんの? 覚悟は出来てるんでしょうね?」


 真っ暗な中でも輝く銀色の翼、あれだけ魔物と戦っていたにも関わらず、返り血を一滴も浴びる事なく純白に包まれた鎧。その姿はまさに天使。だが、その天使が今宵は今まで見た事がない程に、怒っている。


「このタイミングで王国最強の騎士か。これは分が悪いな。この身体も限界であるし、あちらでも苦戦している……か。ここらが限界だな」


「何を意味がわからない事を言ってるの? さっさとかかってきなさい」


「それはまたの機会にさせてもらうとしよう。ヴァンにケルヒ。心躍る戦いであった。また出会う日を楽しみにしていよう。それまで死なぬようにな」


 ガビの身体がボロボロと崩れたかと思ったら、そこから大量の魔物に変化した。


「あぁもう! 意味わかんない!! 『飛翔部隊』、行くよ!!」


 一斉に飛び出す『飛翔部隊』と無傷だった騎士団。これなら、後は任せてよかろう。安心したのと同時にそのまま意識を失った。

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