第十七話 面白い余興であった

 これで役者が揃った。むしろ一人多いが、戦力が多い分には問題あるまい。それほど、こいつは強敵だ。改めて観察しているが、こやつ、ただの魔物ではないな。先程までの攻撃でわかったが、どういう訳か、いくつもの魔物が混ざって出来ているようだな。これもなんとか魔天ってやつの仕業か。本来であればそのなんとか魔天ってのが出てから我が出る筈だったが、仕方あるまい。


「それでは、あの怪物を倒すとしようか。あやつには五箇所の急所がある。一箇所は我が既に破壊した。残るは四箇所。竜、獅子、狼の額。そして蛇の喉元だ。我が獅子、ルンパが蛇、弓っ子が狼、渦女が竜を。姫と心友がそれを補助して攻めるとしよう。そして必殺でいけ。半端な技ではあやつは倒せん」


「姫……」


「弓っ子」


「う、渦女ですって……!?」


 何だ? 三者三様おかしな顔をしておる。


「苦情は聞かん。後で表に言え」


 そんな暇などない。今も心友が戦っておるのだからな。


「これで本気も出せるというもの。では行くか。なぁ、ルンパ?」


 唖然としている三人を無視して、さっさと始めるとする。ささっと我の影から現れるルンパ。これも温存しておく予定だったが、そうもいってはおれぬ。


「まずは翻弄するぞ。ルンパ、『千群せんぐん』」


「な、何これ……?」


 驚くであろうな。最初にやったときには我らも驚いた。我の合図と共に数多の魔物に分裂しながら増殖していくルンパ。中には先程戦ったばかりの朱竜や、黄蛇までいる。どれもが我らが戦った事のある魔物だ。これがルンパの分裂とコピーを最大限に使った力、『千群せんぐん』だ。ほぼ、最強の能力だが弱点もある。使えば、その日は我の影から動かんし、暫くは魔石と我の魔力を大量に摂取されるから、我も懐も厳しい技だ。


「ここで出し惜しみなどせんわ。喰らい尽くせ」


 目標の蛇の喉元を中心に一斉に飛びかかる。これには撹乱も含めてある。この間に騎士共の救助を終わらせねば。気配でわかるのだが、あの中にあの変態の愚息もおる。我に関係ないといってしまえばそこまでだが。……そういう訳にはいかんな。何より表も助ける事を求めている。


 それと同時に我らも動く。せっかくの好機。ただ見ている訳にはいかん。早く心友を助けねば。


「吸排拳弐式『排迅マダ見タ事ノ無イ世界ヘ』」


 幸いにも、先程破壊した急所の一つのおかげで、飛ぶ事が出来なくなったようだ。あの急所が我々でいう心臓。それぞれの器官を独立させて機能させているのだろう。たまたまとはいえ、流石は我。飛べなくなっただけで楽になったわ。


 攻撃を避けながら心友の元へと急ぐ。難なく、心友の隣までたどり着く。ずっと戦っているにも関わらず、まだダメージを負っていない。流石は我が心友よ。


「遅くなったな。だが、心友なら余裕だったであろう?」


「なんだ、裏ヴァンか。『何が余裕だったであろう?』だ。一人でこいつの相手は、きついっての。……そっちになってるって事はあれもやるのか?」


「そうだ。頼むぞ」


「任せろ」


 これだけいって我は怪物に向かって走り出す。それと同時に心友の鎧が、怪物を囲むように枝分かれしながら広がっていく。そしてそれは、怪物全体を覆う程になった。


 これで準備はよし。はじめるぞ!!


 長く伸びた枝を足場に、平面から立体に、縦横無尽に走り出す。攻撃を避ければ伸びた枝に突き刺さり、動かなければ我の攻撃が当たる。もはやこの怪物は我らの鳥籠に囚われた哀れな小鳥だ。


「我と心友による必殺『神木の鳥籠神ノアソビバ』だ!」


 これでダメージを与えるのと同時に逃げられなくする。動きを阻害する事で他の者も戦いやすくする。先程までの戦いで魔力が尽きない限り、心友がダメージを負う事もないのは証明された。後は我らで急所を叩くだけだ!!








 枝の隙間をそれぞれが走り抜く。どんなに攻撃を受けようが、どんどん増え、もはや、千体にも至るであろう大小さまざまな魔物に扮したルンパ。我が相手をしたとしても今となっては勝てるかわからん。それほど、ルンパは成長した。


 今も蛇に一部を食べられようがおかまいなしに逆に喰らいついている。おそらく食べられた個体も中から蛇を捕食しているのだろう。襲いかかっている筈の蛇が攻めるのを嫌がっているな。またたく間にその姿が小さくなっていく。ここの勝負はもう終わってしまうだろう……。








 ……この枝、ホント便利。枝に身を隠しながら急所へ着実にダメージを与えていく。あと何発か当てたらいけるかな?


 それにしても弓っ子とは失礼。アイなんて姫なのに、何でリスは弓っ子? 今一緒に戦っているのは初めて会った時のヴァン。変な口調で、だけどどこか優しい変わった子。ケルヒは裏ヴァンっていってたけど、ホント同じ人とは思えない。ふふ、面白い玩具、見つけた。


「『銀穿』」


 一発じゃ大したダメージは与えられないけど、これでもう十発目。だいぶ弱ってるね。後、一、二発で終わるかな。








 私を渦女ですって? 全くあの坊やは後でおしおきですわ。そう考えている間にも幾本ものねじられた水の槍を突き刺していく。適当に当てても相手が大きすぎて対してダメージを与えられませんわね。大人しく、急所を狙いましょうか。


 それにしても坊や達、大当たりでしたわ。鎧になってる坊やもだけど、あの生意気な坊やのおかげでギルドはいつでもピカピカ。南のギルドマスターが自慢してくる訳ですわ。さっさとこんなやつ倒してお仕事してもらいますわ!








「『守護陣』」


 危なかった……。みなさん興奮してるからか、攻撃が雑すぎます。それにしてもあんなに大きな魔物をいとも簡単に削っていく。もっと私の『守護陣』を使わなければ厳しいかなって思ってたけど、これなら最小限で大丈夫そう。だけど最後まで油断しないように気を引き締めないと!!








 ここまでくれば、あれだけ二人では強大であった怪物も今となってはただの食べられるのを待つただの小鳥。全箇所同時攻撃で怪物もパニック状態。下手に動けば、それだけで心友の枝が突き刺さる。この戦いも後少しで終わるな。これで仕上げだ!


 ルンパが急所ごと、蛇を食べ尽くし。


「『銀穿』」


 弓っ子が急所を射抜く。


「『渦槍』」


 渦女が渦の槍で急所を貫き。


「吸排拳参式『螺旋排出砲全テヲ吐キ出ス神ノ咆哮』」


 我が最大魔力で急所を砕いた。


 これで全ての急所を破壊した筈だ。全ての急所を破壊するのと同時に心友の鎧が砕け、刀がコロに戻った。魔力を使い果たしたか。ルンパは我の影へ、助かったぞ。弓っ子は他の者と比べ、火力が足りなかったな。その分同じ場所へ正確に射抜くのは神経を使ったであろう。それは姫も同じだ。視界が悪い中、正確に我らを守るには神経を使う。渦女は……、うむ。渦女だな。正直、我も魔力の消耗が激しい。これで魔物が出るのが終わりであればいいのだが……。


 騎士達も無事、王都へ連れていけた。幸いにもさっきの怪物のおかげなのか、引いているようだ。我らも満身創痍。とりあえず防壁の中へ――――。


「面白い余興であった」


 誰も気付けなかった。振り向くのと同時に、渦女が殴り飛ばされた。暫くして壁にぶつかった音が鳴り響く。瞬時に散らばる。くそ、まさかこのタイミングで出てくるとは……。


「お前が、四魔天か」


 その姿は容姿端麗。ほぼ、我々と違いはなく、違うのは肌が異様に黒いのと、額にある紫色に光る水晶。そこに魔力が集まっているところから重要な器官なのだろうか。あちらも興味深く我々を観察していたが、満足したのか返事をしてきた。


「如何にも。四魔天が一人、『魔調師のガビ』だ。先程の戦いを興味深く拝見させてもらっていた。だが、その時間も残念ながら終わりにしようか。本題といこう。そこの娘、二人を渡していただきたい」


 くそ、狙いは姫と弓っ子か。ボスを倒したと思ったが、まだまだ休ませてもらえそうにないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る