第十六話 それはまるで、数多の魔物を混ぜ合わせたようで気持ち悪かった

 そのまま中に入る冒険者と、爆発が気になって爆発元まで走って向かう冒険者は半々位だった。正直、どちらが正解かはわからない。疲労が限界まで溜まってる状態で行ったって危険なだけだ。逆に、もし騎士団だけで対処出来ない問題が発生していたら、それは誰も救援に行けなければ騎士団が全滅してしまうって事だ。それにしても、お互いに嫌いな筈なのにこんなに冒険者が来るなんて何だか嬉しい。


「騎士団がボロボロになってる姿見に行こうぜ」


「全滅してたらマジウケる」


 あれ、思ってたのと違う。きっとツンデレだよね!?


 真意は確かめられないものの、とにかく現地まで走り続ける。現地らしき場所はいまだに煙があがり、砂埃によって状況がわからなくなっている。そして、ナニかを食べていると思わしき咀嚼音。暗くなってきている視界が余計に想像力を高めてしまっている。最悪の自体も想定しなければいけないが、状況を把握するにはこの視界の悪さは、最悪の条件といえる。だが、こんな時こそ僕の出番。


「『吸引』」


 その場の砂埃のみを吸い込んでいく。これで中の人達に危害を加えず、最低限の視界を回復する事が出来る筈だ。無事でいてくれればいいんだけど。それに合わせて、冒険者の数人が松明に火を灯したり、火の魔法で前方を明るく照らし出していく。そして段々と見えてくるその先にあったものは、そこかしこに倒れている、騎士団の面々と、一頭の巨大な……あれは魔物?


 さっき戦った朱竜と同じ位か、いや、それより更に大きい。ツギハギのような魔物が、既に冒険者達が倒した魔物を食べている姿が明かりによって映し出されている。おそらくだけど、騎士達はまだ食べられていない、と思いたい。倒れている騎士達が生きているかどうかも正直、ここからでははっきりとは確認出来ない。本当はすぐにでも近くに寄りたいところだけど、それをこの魔物が許してくれそうにない。


 高まる気持ちを落ち着かせて、その魔物をよく観察してみる。まず、獅子、狼、竜の三つの頭があり、竜の翼、獅子の胴体、尻尾は蛇。なんじゃこりゃ。こんな魔物、いや、怪物はギルドの図鑑でも見た事がない。ケルヒを含めた、周りの冒険者も唖然としている。


 食事を見られているのが気に食わないのか食べていた魔物を投げ捨て、飛び立つ。見下すように僕達を見てくる怪物。そして、勢いよく、地面へと降りる。


 これがさっき音がした爆発音か……! それにしても、もの凄い衝撃だ。これだけ離れてても何人か吹き飛ばされてしまった。しかもその衝撃で、火が消えてしまい、周辺がほぼ、真っ暗になってしまった。これはまずい。瞬時に判断すると、僕はそのまま魔物に向かって走っていった。幸いにもある程度、冷静になる事が出来た僕は、この怪物の位置を把握出来るようになった。さっきまで出来ていた事が一時的にとはいえ、出来なくなってたのはそれだけ冷静になれていなかった証拠だ。


「みなさん、離れてください!! こいつは、僕とケルヒで相手します!!」


「わりぃけど、騎士を助けてやってくれ!!」


 いちいち暗くなる度に、どこに怪物がいるか判断出来ない人では、戦うどころか、ただ被害が拡がってしまうだけだ。冷たい言い方になっちゃうけど、適材適所、わかってもらいたい。


「コロ、変わるぞ『亀鎧木刀きがいもくとう』!!」


 火に灯されて映るその刀の姿は、一見、平凡な木刀にしか見えない。ただ一つ、平凡な木刀と違うところは、刀身に島の形をした甲羅を背負い、髭を生やした亀が描かれている事だ。そしてその刀をそのまま額にあてる。


「『亀纏きてん』」


 すると、木刀がケルヒを包むように纏っていく。フルプレートアーマーのように全身を包み込み、両手には、刀身にいた亀が描かれている全身を包み込める位大きな、平べったい刀を装備していた。


「『亀鎧木刀』、異界にいるとされる霊亀の力を借りた刀だ」


 これがケルヒの防御特化させた刀の力だ。並大抵の攻撃を通さない硬度と、自由自在に伸ばす事が出来るその刀は、殆どの攻撃を通す事が出来なくなる。この刀の力でケルヒには今回、壁役になってもらい、僕がその隙を狙ってダメージを与えるんだ。それに今、アイさんとリスさんもこちらに向かってくれている。どうしても後方にいたので、遅れてしまっているが、四人で戦えればこの怪物にも間違いなく勝てるっ!!


 ケルヒの魔力に反応したのか一際大きな咆哮をあげて襲いかかってくる怪物。それに対し、刀を怪物と同じくらいに拡大し、正面から衝撃に耐えようとするケルヒ。


 そしてぶつかり合う一人と一頭。あまりの衝撃に怯みそうになるが、上手く抑え込んだこの隙を逃したら、ケルヒに笑われちゃう。


「吸排拳弐式『排迅』!」


 瞬時に懐に潜り込む。しかし、この怪物はどこかおかしい。先ほどまで戦っていた魔物達のように急所らしき場所はあるにはあるが、あきらかに複数箇所あり、どれを狙えばいいのか判断出来ない。それはまるで、数多の魔物を混ぜ合わせたようで気持ち悪かった。


 物は試しだ! とにかく一度、当ててみないとどうなるかわからないのでやってみるしかない。


「いくぞ! 吸排拳壱式『排勁』!!」


 確かな手応えはあった。しかし、朱竜の時みたいに僕の魔力は全体に広がらず、一部にダメージを与えただけだった。それも朱竜より更に大きい身体がダメージを逃がしてしまっている。


 それでもダメージを与えたのは事実。一つずつ当てていく事で倒す事が出来るかもしれない。このままの勢いでもう一箇所狙いにいくが、それは怪物に避けられてしまった。おそらくさっきの攻撃で警戒されてしまったんだと思う。これは持久戦になりそうだ……!






「ハァ……、ハァ……」


 戦況は膠着している。いや、僕達が押されている。狼の牙で噛み砕こうとし、竜の火を吐き、獅子のような爪を振り上げ、尻尾の蛇が襲いかかってくる。ケルヒの防御はほぼ完璧なんだ。問題は僕の方で、一度警戒された攻撃は、中々思うように当たらず、最初の攻撃以降、ダメージらしいダメージを与える事が出来ていない。


 このままじゃ……。いや! まだアイさんもリスさんも来る前に諦めちゃ駄目だ。


 その時、僕は決して油断してた訳じゃなかった。ただ、今日は一日を通して戦闘してた事で確実に疲労は溜まっていて、攻撃も通らない、こんな状況に集中しきれていなかったんだ。


 気がついた時には、目の前に大きく口を開けた蛇の牙。避ける間もなく、飲み込まれるのがわかった。くそぉ……。


「『渦潮』」


 蛇が水の竜巻に飲み込まれていく。この魔法は……?


「危なかったわね。お二人に感謝なさい」


 そこにいたのはブルーレッドさんと、アイさん、リスさんだ。何とか間に合ったのか。何とか怪物と距離を取ると、三人が寄ってきてくれた。


「間に合ってよかったです!」


「ギリギリセーフ」


「ここからは東のギルドマスター、四極の一人『渦潮のブルーレッド』も一緒に戦いますわ。勿論、まだいけますわよね?」


 ……弱音を吐いている場合じゃないね。僕もこの戦いに全てを賭けよう。


「知れた事を、我に任せよ。ここで戦えぬなど、死より屈辱である。ここからが我の本気だ!!」


 出し惜しみは無しだ。覚悟しておけよ!

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