第十五話 流石冒険者達、危険な匂いに敏感だね!

 目の前に見えるのは、僕が遭遇した中で一番巨大な魔物。そう、朱竜だ。呼吸をする度に小さな火を吹き、噛まれたら簡単に全身を砕かれるであろう鋭い牙。当たったら真っ二つにされてしまう爪。一発でも攻撃を受けたらいけない相手だ。こんな相手によくもまぁルロさんは戦ってこれたと思うよ。けど、今からはその標的が、なぜか僕っぽいんだよね。めちゃ目が合ってる。


「ヴァン君、なぜかあの朱竜に気に入られたみたいだね! さっきのやつがそんなに気になったのかな? あたしも気になったけど、あれって何? 魔法とは違ったように見えたけど」


「ルロさん! 気になるのはわかりましたから、目の前の朱竜からどうにかしましょうよ!! めちゃこっちを睨んでますから!」


「にゃはは。それもそうだね。けど、あの朱竜、結構ダメージ与えたからそんなに動けないよ。必死に暴れるかもだけど」


 あんな巨体が暴れたらそれだけで被害甚大なんですけど……。さっきまで集まってきていた冒険者達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。流石冒険者達、危険な匂いに敏感だね! 僕もそっち側じゃ駄目かな? 駄目だよね。まぁルロさんも協力してくれる筈だし、まだまだ相手にしなきゃいけない魔物は、いっぱいいるんだからさっさと倒してしまおう!


 そしていきなり火を吹いてきた。あれだけ頭上で見せられた技だし、こんなの焦る必要もないよね。


「『吸引』」


 吐き出された火を一瞬で吸引すると、動揺する朱竜。その隙を逃す筈がないだろ! 阿吽の呼吸で、ルロさんが飛び上がる。そして僕は、


「吸排拳弐式『排迅』!!」


 急接近をして身体の下の方に滑り込む。邪魔しようとしてきたけど、ルロさんの銀色の羽がそれを防ぐ。なんかカッコいいし、便利そうな武器である。僕もそういうのほしい。あれ? それ前にも似たような事をいった気がする。


 それにしても、朱竜の急所まで、なんとなくわかるんだけど。まるで自分の感覚じゃないみたいだ。感覚が研ぎ澄まされていくというべきか。見えなくてもルロさんがどこにいるのかわかって、ケルヒがしらばっくれて他の魔物のところに行ってる事や、アイさんが怒ってる雰囲気とか、リスさんがそれを見て呆れてる雰囲気も……。とりあえずケルヒはあとで覚えてろよ。そんな訳で朱竜さん、強敵感あったけど、これでさよならだ。


「吸排拳壱式『排勁はいけい』」


 狙うのは色が違う鱗一点のみ。一寸の狂いもなく直撃。この鱗から、僕の魔力が朱竜の全身に回っていくのがわかった。そして響き渡る朱竜の断末魔。そして、そのまま倒れて動かなくなった。


「ルロさん、援護ありがとうございました。おかげで無事、無傷で朱竜を倒す事が出来ました」


 喜んでくれると思ったのに、なぜか若干しょぼくれ気味になっているルロさん。無事倒せたのにどうしたんだろう?


「なんか、さっき協力し合ってた雰囲気がよかったのに、これじゃなんか違うよ! ここでもっと協力して、愛を、違う違う! えっと、色々深めあっていく流れじゃないの!? ヴァン君、なんか雰囲気変わってカッコいいんだけど!!」


 なんか怒られて、最後になぜか褒められた。どういう事なんだろうか? まぁ結果的に無傷だったからよしとしようか。


 話をしている途中もルンパがせっせと朱竜を回収している。何でも入るなぁ。体の中、一体どうなってるんだろう?


「その生き物もなんかやばそうだよね? 朱竜を丸呑みにしてたんだけど。その小さな体の中身は、どうなってるの?」


 どうやら同時に同じ疑問を持ったようだ。うん、ルンパの謎は深まるばかりだよね。けど、可愛いからいいんだよ、可愛いは正義。


「ルンパっていうんですよ。僕の相棒です。ルンパ、挨拶して。僕のお友達でルロさんだよ」


 めっちゃぷるんぷるんしてる。はぁ、可愛い。戦場にいる筈なのに癒やされる。幸いにもまだ朱竜がさっきまでいたせいか、魔物が寄ってこないからいい休憩が取れている。


「ルンちゃんか。可愛いね。あたしにちょうだい?」


「さっきの話聞いてました? 僕のあ・い・ぼ・うですよ! あげません!!」


「ヴァン君って意外とケチなんだね。いいよーだ。っと、流石にこのまま遊んでいる訳にはいかないね。朱竜を倒すのに協力してくれてありがと。助かったよ。それじゃあまだまだ長そうだけど……、頑張ろうね」


 周囲を見てしみじみというとまたルロさんは飛び立っていった。ゆっくりしてる場合じゃないもんね。少しは数が減ってるんだろうけど、見た目じゃ全然わからない位にまだ魔物が残っている。よし、僕もいくとしようか。








 あれからどれくらい経っただろうか。途中で防壁の中に戻って休憩を挟んだりしたけど、殆どの時間、魔物を狩ってばかりいる。にも関わらず、魔物の数が減る様子はない。いや、減ってる筈なんだけど、どこから来てるのか、減っても減ってもどこからともなく、新しい魔物が増えてくるんだ。いくら冒険者が多くても体力は無限じゃない。それに終わりが見えていれば頑張れるところも全く終わりが見えない今の状態じゃ、心が折れ始める人が表れ始めている。


 僕? 僕は全然、平気。まだいくらでも戦えるよ。確かに魔力もだいぶ使っちゃったし、疲労もあるけど、こんなところで負ける訳にはいかないからね。けど、もう日が暮れ始めている。ここからは冒険者から、騎士団へと戦うグループが変わっていく。今回の取り決めで昼間は冒険者、夜間は騎士団が戦う事が事前になっていたのだ。その原因は、信用度だ。冒険者と騎士団では国民からの信用度が違う。昼間、身近に騎士団がいる事で民衆を安心させ、夜間、外で奮闘してもらう事で安心して眠る事が出来るのだ。うん、鬼畜仕様だ。


 正直、冒険者より、騎士団の方がキツいよね。一応交代制でやっているらしいので、昼間と夜間で両方やらせないらしいけど、夜間の方が視界が悪いので連携も取りにくい。例外になっているのは、ルロさん率いる、『飛翔部隊』で、空の魔物が出た場合に昼夜問わず、出動する事になっている。その為、それ以外は休憩を取ってもらっている。空の魔物に対抗出来るのが『飛翔部隊』だけだから仕方ないね。


 そんなこんなで交代の時間。先に騎士団の人達が戦場に出てきて、魔物を引き付ける。その間に僕達、冒険者が王都の中へと戻る。一応、間でも休憩はあるけど、流石に疲れるね。騎士団の人達も大変だろうけど、頑張ってほしい。


 先頭に立っている人が随分偉そうだなぁ……。ん? これから行くのは若い人が多いな。もしかして騎士学校の人達も参加するのかな? 将来の為にもこういうところで戦えないようじゃ駄目だもんね。是非とも若者達よ、頑張ってくれたまえ。


「俺達も若いだろうが!」


「気分的な問題なの!!」


 冒険者達を蔑むように通り過ぎる騎士学校の人達。学校でどんな教育をしてきているんだろうか? 確かゴリラ騎士様が冒険者とはあまり仲が良くないっていってたよな……。だからって何もしてないのにそんな態度はよくないと思うんだけど……。他の冒険者が睨みながら、お互いにツンケンとした様子ですれ違っていく。


 まさかこんなところでまでミスド様に会わないよな……。っていらっしゃいますね。後ろの方。まだこっちには気づいてないけど、万が一にも気づかれたらめんどくさそうだ。いや、流石にちょっと話をしただけだし、覚えてないかな?


 ふぅ、とりあえず気づかれなかったみたいだ。よかったぁ。けどもう会わないって思ってたのに、もう会っちゃったなぁ。


 気にせず中に入ろうとしたその時、外で大きな爆発音が鳴り響いた。


「おい、今の爆発音……」


「うん、ちょっとやばそうだね」


 ケルヒと目が合うと頷きあう。そして、慌てて回れ右をして走り出す。本当なら交代の時間だから気にしないで休みたいところだけど、この爆発音は流石に普通じゃない。くそ、どうやら僕達が休めるようになるのは、暫く先になりそうだ。

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