第十四話 それは突然起きた

 それは突然起きた。王都全体に聴こえるんじゃないかって位、大きな咆哮。思わず飛び起き、窓を開けてみる。


 「親方! 空から竜「やめい!!」


 ギルド寮にいる冒険者もこの騒ぎに気付き、同じように窓から外を見ている人が多数いた。なお、先程のセリフは聴こえなかった事にした。


 ついにこの日が、やってきたのか……。東側の空には複数の魔物と一匹の竜。おそらく防壁まで行けば、他にも魔物がいっぱいいるんだろうな。さて、急がなければいけないけど、焦ってもいけない。事前に用意していた準備を整えて、予定どおり、東のギルドへ集合だ。


「ケルヒ、準備はいい??」


「おう、任せろ。お互いに死なねぇように頑張らないとな」


 そうだ。今回の戦いは何が起こるかわからない。目標は死なないように。命は一つしかないんだ。まだまだ僕達はやりたい事がたくさんあるんだから。


 外に出て、東に向かって走り出す。周囲を見ると思ったよりは混乱が少ない。騎士団の人達が上手く誘導してくれてるみたいだ。事前に打ち合わせしたとはいえ、流石だね。走り続けていると、上空を凄い速度で飛んでいく物体が見えた。あれはきっとルロさん率いる『飛翔部隊』だ! って事は、先頭を飛んでいったのがルロさんかな。やっぱ空を飛べるだけで有利だなぁ。『排迅はいじん』でも飛べるけど、あんなにはやくは飛べないし、魔力の消耗が激しすぎる。今回の戦いは恐らく長期戦になる。節約しながら戦わないと!


 東側に近づくにつれ、段々と戦闘音が激しくなってきた。早い人はもう既に戦い始めているんだろう。防壁だって完璧じゃない。何重にも防壁はあるから一枚破られる程度で困る訳ではないけど、住宅はあるし、直すとなると大変だからね。


 ギルドに到着。中へ入るとど真ん中に大きな円卓があり、その上に大量の資料が置いてある。そしてそれを囲むように、人が集まり、話し合いがされている。話し合いの中心にいるのが、ブルーレッドさん。とりあえず、ブルーレッドさんに状況を聞いてみないと。


「お疲れ様です。状況はどうなってますか? アイさんと、リスさんはもう来てますか?」


「ご苦労様。今のところ予想の範囲内なのですが、竜とそれと一緒にいる空の魔物は『飛翔部隊』に対処してもらって、他の魔物をこちらでやってますわ。もうお二人は先に後方支援に入ってますから、ヴァンとケルヒも戦闘に参加してくださいな」


 もう来てるんだね。そしたら顔だけ合わせて、僕達も参戦しようか。


 予定の場所まで行くと、通常の弓矢で援護しているリスさんと、攻撃を受けているところに『守護陣』を使っているアイさんがいた。


「遅くなってごめん! 状況はどう?」


「遠いから仕方ないですよ。状況ですが、とにかく魔物が多いですね……。それでも今のところは五分五分といったところでしょうか。ルロ様が竜を抑えてくださってるのが大きいです」


 上空を見ると竜や巨大な鳥が、ルロさん達『飛翔部隊』と激しく戦闘を繰り返していた。『飛翔部隊』の飛竜はスピードがとにかく速いので、空の魔物達を翻弄していた。その中でも一際目立っているのがルロさんと竜の戦闘だ。朱竜と呼ばれ、全身真っ赤で、口から火炎を吹き出し、鋭い爪や、牙でルロさんに襲いかかっている。それをルロさんは難なくかわし、銀色の羽で着実にダメージを与えている。


 うん。まるで舞を踊っているみたいだ。戦場にも関わらず、見惚れてしまいそうになる。けど、今は見惚れている場合じゃない。他の冒険者も戦っているんだから。僕達もそろそろ行こう!


「それじゃあ、僕達も行くね。援護をよろしくお願いします!」


「よろしく頼んだぜ!!」


「任せてください!怪我には気をつけてくださいね」


「矢を当てたらごめんね」


 いや! 当てちゃダメだよ!? こんな状況だけど、思ったより、いつもどおりだ。まぁ今回の魔物が攻めてくるのは事前にわかっていたのはあるけど、なんかいつも以上に心が落ち着いている。うん、いい状態だ。頑張ろう。


 アイさんと、リスさんに挨拶も済んだ事だし、さっさと戦闘に移ろうか。


「そういや、今日は裏ヴァンになるのか?」


「裏ヴァンって、まぁ裏ヴァンっちゃ裏ヴァンなのかな。今回は僕のまま戦うよ。裏ヴァンだと勝手に盛り上がって魔力とか使いすぎちゃうからね」


「あぁ、確かにわかる気がするな。落ち着きがないっつーか、好戦的なんだろうな」


 何回かしか見たこと無い筈なのに、特徴がもうバレちゃってるなぁ。まぁわかりやすいから仕方ないんだけど。裏ヴァンは大事な場面で切り替えるつもりだ。今回は長期戦になる可能性が高いからね。


 そんなこんなで戦場に到着。東門から複数人で一斉に雪崩れ込むように外に出た。魔物に入り込まれたら元も子もないし。さて、それじゃあ頑張っていこうか。


 ケルヒと一緒に走り出す。本当は人数が多い方が有利なんだろうけど、即席チームは連携も難しい。それならアイさんとリスさんからの援護もあるし、慣れてる二人でやった方が効率がいいからそうしようって、事前に決めたんだよね。


 早速、ケルヒが『水龍刀』を持って我先へと突き進んでいく。裏ヴァンの事いうくせにケルヒだってそんなに変わらないじゃん! その後ろに続くと、そこには数十頭の牛の魔物と対峙する事になった。こちらにすぐ気づいた牛達は、もの凄い速さでこちらに向かって突進してくる。それに対し、『水龍刀』を振り下ろすケルヒ。すると三体の水の龍が牛達に襲いかかった。最近まで水の龍は一体までしか出せてなかったんだけど、ケルヒも強くなってるって事だね。


 群れの殆どを飲み尽くす水の龍にたまたま当たらなかった逃げ惑う牛達。龍の中で溺れている姿と相まって中々のカオスだ。けど、感傷に浸っている場合じゃない。残りもしっかり処理しないと。


「吸排拳弐式『排迅』」


 素早く懐に潜り込む。なんとなくだけど、急所が見えた。いちいち、一頭一頭に時間をかけてはいられない。この一撃で終わらせる!


「吸排拳壱式『排勁』!!」


 的確に急所を打ち込まれた牛の魔物は他の牛達ごと吹き飛ばされていった。その頃には、水の龍の中にいた牛達も溺死していて、この一帯の牛の魔物の処理を終える事が出来たみたいだ。そして残った死体を回収するルンパ。これで動きやすいし、この戦いが終わった後に売れれば、懐も潤う! 一石二鳥だ。ありがとう、ルンパ。


 それでも大局的に見ると全然減ってないんだよね。よし、ここらでもっと数を減らそう。後ろを確認すると、若干遠くではあるけど、同じ事を思ってくれたのか、アイさんが手を振ってくれている。これをするには味方がいないところを選ばないと。


 ちょうどいいところに数百体もの魔物がこちらに向かってくる姿が見えた。味方が近くにいる様子もない。これはチャンスだ。


 ある程度の距離まで近づいてきたところでアイさんが魔物に向かって最大サイズの『守護陣』を張ってくれた。そして『守護陣』にぶつかって止まる魔物達。突然の事に動揺している。流石にこれで一斉に攻撃を受けたら『守護陣』が壊されてしまうのでその前に『守護陣』の前まで走っていく。


 そして『守護陣』に手をあて、


「『強吸引』!!」


 『守護陣』の一部分だけを吸引し、さらにその中のを吸引する。すると、『守護陣』の中にいる魔物達は呼吸が出来なくなり、急激に苦しみだした。さらに『守護陣』の中が真っ暗になり、中が見えなくなる。パキパキっと『守護陣』がヒビ割れる音が辺りに響き出す。やがて、パリンと割れた先に残ったのはただ一体も残らず死に絶えた魔物達だけだった。


「これが、僕とアイさんで編み出した合体技。『断空』だ!!」


 静けさの後に湧き上がる歓声。いつの間にか注目されていたみたいだ。数百体もの魔物を囲む真っ暗な半球体だもんね。目立つに決まってる。けど、これで士気が上がるならいいよね。まだまだ魔物が残ってるけど、士気を保つ事は大事だ。


 アイさんに手を振り、このままの勢いで次へ進もうとした時、上空から大きな魔物が降りてきた。こいつはルロさんが相手していた筈の朱竜だ。傷だらけにはなっているがまだまだ戦意を失っている様子はない。すると僕の隣に天使、あ、ルロさんが舞い降りてきた。


「ごめん、ごめん。中々あの竜がしぶとくて。さっきの技に反応したのかヴァン君に狙いを定めたみたいだね。あたしと一緒に倒すよ! よろしくね!!」


「これはまた急ですね!?」


 すると、朱竜が大きな咆哮を上げてきた。くそ、いきなり竜が相手!? まだ気持ちが追いついていないけど、それどころじゃないな。


 一息つくことなく、第二回戦が始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る