第十三話 ほら、こちらを見ていた視線もこころなしか減った気がする。誰だってタマを潰されるのは嫌だもんね?
その後、それなりの日にちが経ったが、ミスド様に会う事はなかった。まぁ王都に来てから初めて会った訳だし、そんなにほいほい会うはずもない、と思いたい。
そんな事より、最近、本格的に魔物が増えてきた。今までは、魔力の限界値が高い者が襲われるだけだったけど、最近ではそういったのは関係なく、幅広い範囲で襲われるようになった。それも通常じゃあまり見ない凶悪な魔物が。おそらく、それまでは魔力の限界値の高い、重要人物に襲いかかる事でこちらの戦力をはかり、今は散らばっていた魔物を集め、攻め込む準備をしているんじゃないかといわれている。今、異常に発生しているのは移動している途中の魔物に出会っているだけじゃないかってのが上の考えみたい。
そんなこんなですっかり一緒に行動している僕達四人は、本日の目的地である、東側のギルドに向かっている。
「それにしても東側に来ると雰囲気が全然違うね」
「……貧しい方々が暮らしているそうですね」
「らしいな。アイとリスは注意しろよ。女ってだけで襲われるかもしれねぇからな」
「そんな輩はタマを潰すから平気」
僕のタマがヒュンってなった。いや、何もしてないけどね? きっと男の本能みたいなものだと思う。ほら、こちらを見ていた視線もこころなしか減った気がする。誰だってタマを潰されるのは嫌だもんね?
話をしている内に、ギルドに到着した。南のギルドより、頑丈そうな見た目で、もはや砦と呼んでも過言ではないくらいだった。話によるとどのギルドよりも荒くれ者が多く、ギルドに入った途端に絡まれる事も少なくないらしい。僕達も覚悟して入らないと!
門番に挨拶して、冒険者側の入り口を入っていく。案の定、こちらに一斉に視線を向けてくる。ある者は、品定めするようにこちらを見たり、またある者は、アイさんとリスさんの方を見てニヤニヤしている。こりゃ一波乱起きるかなぁ、と不安になっていると一組のスキンヘッド部隊がこちらに向かって歩いてきた。
「おう、若いの! そんないい女をはべら、うでゅらあああああああああああああ!!」
何か言い切る前にまとめて水で流されていった。ついでにこちらを見ていた輩もまとめて。そしてその後ろから表れた、透き通る海のような蒼色の渦を巻いたような髪型をした女性がこちらに向かって歩いてきた。
「ようこそ、東のギルドへ。私がギルドマスターのブルーレッドと申します。アイ様とそのお仲間ですね。お話は聞いております。奥の部屋までどうぞ」
何事もなかったかのように振る舞うギルドマスター。あの、そちらのギルドでおそらくメインで働かれている方々が流されましたけど? 突っ込みたいけど、笑顔の圧が強すぎて何もいえない。
それにしても、こういう対応をされているところを実際に見ると、やっぱりお姫様なんだなと改めて思わされる。あの王様との謁見の後に、アイ様って呼んだら頭叩かれて今まで通りにしてほしいっていわれたので、今もアイさんって呼んでるけど、実際、そんな呼び方してたら打首だよね。ルロさんも様呼びさせてくれないし、僕の周りのお姫様はフレンドリーすぎる。
そんな事を考えている間に、部屋まで到着。アイさんを先頭に中へと入っていく。中を見てみると、中央に頑丈そうなテーブルとソファがあるだけ。あ、端っこにホコリが溜まってる。チェックが甘い証拠だな。
「後で、担当の者に清掃させますわ。それでは本日ですが、まず、当ギルドまでお越しいただき誠にありがとうございます。汚いところですが、ゆっくりしていってください」
だから何で僕の考えている事ってすぐバレるの!?
「え、えっと、よろしければ後で僕が掃除しときますよ」
「あら、それは助かりますわ。坊や、よろしく頼むわね」
ぼ、坊や!! ま、まぁ頼まれたからにはこのギルドをピカピカにしようかな。ただ、今日は掃除する為にきたんじゃないんだ。他に用事があったから来たんだよ。
「ごほん、それでは本題に入っていただいてもよろしいですか? わたし達がこちらのギルドに来た理由は、今後起こるであろう、魔物の大量発生の際に行うべき事の確認です。本来であれば、他の冒険者同様、普通に前線で戦えばいいのでしょうが……」
「そういう訳にはいきませんわ。貴方様は王族、それも他国のです。本来であれば、王城にて待機していただきたい位ですわ。ですが、それはご希望ではないのでしょう? 聞くところによると、私達とは違う、特別な術? が使えるのだとか。せっかくのご厚意、最善な場所で活用されるべきですわ」
そう、アイさんは他国の王族なので、扱いがとても難しい。ルロさんのように騎士として所属していれば別なんだろうけど、アイさんに万が一の事があったときにお互いに困ってしまう事になる。そうならない為に、アイさんと、その従者であるリスさんをどこに配属させるか、今回の主戦場になることが予想される、東側のギルドマスター、ブルーレッドさんと相談しようってなったわけだ。ちなみになぜ東側かというと、魔物の発生地点の殆どが東側に偏っているからだ。僕達が倒した黄蛇も東側だったし、王都に来るときも東側から来ている。具体的な場所までは流石に把握出来ていないけど、東側方面から魔物が来るのはほぼ、確実だろう。
「えっと、アイさんとリスさんですが、幸いにも二人とも後衛ですので、後方支援であれば、どこに配属しても問題ないかと思います。ただ、僕達の魔法とは違うので、周りの方々が最初、驚かれる可能性もありますので、そこだけ配慮していただけたらと思います」
「その心配はございませんわ。アイ様とリス様の周囲には、私の専属冒険者に護衛を任せるつもりですわ」
「本当は、ヴァン様達と一緒に戦えれば一番なのですが……」
「そういう訳にはいきませんわ。お互いの為にも後方支援、それが限界だと思いますわ」
「仕方ないですね……。ヴァン様にケルヒ様、後方支援はお任せください。傷一つ負わせませんから!!」
「矢を当てたらごめんね」
いや、当てちゃ駄目だからね!? それにしても何とか落ち着いてよかった。お互いの為にもここは穏便に済ますことが出来てよかった。
「それでは、本日のお話はここまでで、ヴァンさん、それでは掃除お頼みしますわ! この前、南のギルドに行った時に綺麗になっていてビックリしましたの。あれはヴァンさんのお力らしいですわね。自慢されて悔しかったですわ!!」
とんだところで飛び火してるんだけど……。いや、まぁ評価されたのは嬉しいんだけど、このままじゃ全部のギルドの掃除をさせられるんじゃ? 眼鏡美人職員さんに秘密にしておいてもらおう……。
結局、僕だけ解放されず、日が暮れるまでギルドの掃除をさせられた。ルンパは手伝ってくれたけど、他のみんなはササッと逃げてしまった。ずるい。
「いや、だってよ。俺とヴァンがやった後だと依頼者の評価が全然違うんだぜ? やりずらいんだよ……。それにギルドマスターさんも喜んでくれたんだろ? それでいいじゃなぇか」
「確かにそうなんだけどね? それならケルヒがうまくなるように一緒に頑張ろうよ!」
「いや、俺は遠慮しとくわ。ヴァン、頑張れよ」
結局、清掃契約を結び、南のギルドに加え、東のギルドも定期的に掃除する事になった。このままだと、北と西のギルドもやらされそうだなぁ。うーん、話がまとまったのはよかったけど、結果的に仕事が増えちゃった。最近じゃ清掃依頼が多すぎて、予約いっぱいなんだけど……。そんな状況なのにギルドマスターの権限で勝手にねじ込んじゃったよ。後で眼鏡美人職員さんに怒られそうで怖いんだけど。
まぁいいや、全部ブルーレッドさんのせいにしちゃおっと。そんな現実逃避をしつつ、眠りにつくのだった。
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