第十話 ルロとデートをしたという男はどこだ?

 魔王。それは古の神々によって封印されたとする破壊の化身。まだ国が存在しない、神々が統治していたそんな時代の話。今いるニタチ魔国の王様も魔王と呼ばれてるらしいけど、その魔王とは同じ呼び方であっても意味が違うらしい。


 その神々に封じられた魔王が何で復活したんだろう? え? 何でさっきまで知らないっていってた癖にわかるんだって? アイさんがわざわざいってくれたからだよ! 一人だけ話を置いてかれるとこだった。危ない、危ない。


「それはまことの話であるな?」


 先程より鋭い視線でアイさんを見る王様。思わず生唾を飲み込んでしまう。万が一王様を騙したとなるとおふざけじゃすまない事になっちゃうもんね。


「神に誓って。何より、鎖国状態の我が国がこちらまで来ている事がその証です」


「……だろうな。して、魔王の復活が世界の危機に繋がるのはわかった。既に、我が国で魔物が異常発生している事は聞き及んでおる。我が国に攻めてきているのはニタチ魔国の者なのだろう? それもある程度どのような者かもわかっておるだろう?」


 この問いに思わずみんなが驚いている。ザワザワと騒がしくなると、王様が手に持っていた杖で地面を突く。するとさっきまでの騒ぎが嘘のように静寂になる。


「流石は国王陛下、ご明察の通りでございます。魔物の異常発生ですが、ニタチ魔国の四魔天の一人による策略でございます。この四人は王国で言えば『魔法』にあたる『魔術』を扱う者がおります。魔族は元々魔力を身体能力の向上にあてる事が得意なのですが、その中でも一部の者がこちらでいう『特異魔法』と同じような能力を得ると聞いています。そしてその四魔天とは、その上位の四名が与えられる称号だそうです。この情報は我が国が侵略された際に、偵察部隊が得てきました。そしてその時に、この侵略が我が国だけではなく、他の国でも行われるとも……」


 四魔天……! なんだか強そうな名前が出てきたぞ。それにしてもトゥーシバ国では本当に戦争が起きてるんだね。そしてその戦争は王国にとっても他人事じゃないと。けどアイさんとリスさんはなぜそんな戦争状態なのにこの国に来たんだ? いくら他国が攻められるかもといっても自分の国が攻められてるのに……。


 そんな疑問にアイさんが応える。


「そしてチノカミ様は神託にてこうおっしゃいました。至急、全ての神と従属神の血を受け継いだ者を集め、再び魔王を封印せよ、と。わたしはチノカミ様の血を、そして従者であるリスには従属神の青龍の血が流れております。そしてパナソニ王国に神が、そしてシャーブ帝国に従属神がいる筈です。国王陛下にはそのお心当たりはございませんか?」


 王様を含め、全ての人が静まり返ってしまった。だからアイさんとリスさんは無理をしてでも国を出てきたのか。神の血を受け継いた者……。封印せよ、か。


「心当たりか……。ないな。みなはどうだ?」


 王様が周りの人達に聞いてみるが静まり返ったまま誰も返事をする様子がない。都合よくそんな人いる訳ないよね。ん? ルロさんがソワソワしてるな。どうかしたのかな? そういえばルロさんはアイさんに神様の夢を見ないかって聞かれてたな。もしかして……。


「……あたし、神様の夢、見た事あるよ」


「ルロ!」


「いいのです、父上。これは我が国だけの問題ではありません」


 父上!? まさかルロさんまで姫様? 僕の周りにお姫様が多すぎるよ!!


「だがな……! むぅ」


 反論しようとしたけど、必要なことがわかってるからか、王様も黙ってしまった。その間にルロさんが会話を続ける。


「あたしは幼き頃より、ヒノカミ様の夢を見た事があります。アイさんのように神託を受けたりは流石にした事ないけど。そもそも他の人と違って『飛翔魔法』は王族で代々引き継がれてきた『特異魔法』です。アイさん、先日は嘘をついてすみませんでした」


「いえ、そちらにも事情があるかと思いますので。むしろ、話してくださりありがとうございます。しかし、ルロさんがそうでしたか。出会った時から何か気配が違うと思いましたが……」


「姫巫女よ。この事は王家でも一部の者しか伝わっておらぬ事だ。ここにいる者も外部に漏らす事が無いように」


 知りたくなかったよ……。知りたくもない秘密を知っちゃったけど、生きて帰れるの??


「あとはシャーブ帝国で従属神の血を受け継いだ者を探すだけだが、それなら心当たりがあるぞ。帝国では代々、必ず双子が産まれ、『双魔魔法』を『恩恵』として授かり、そのまま『双帝』として二人で統治しておるのだ。今代では片割れが既に亡くなっており、その直系にあたる皇太子の双子が扱える筈だ。きっとその双子がそうであろう」


「貴重な情報をありがとうございます。これで帝国に行った際に困る事は無くなりそうです」


「構わぬ。余から皇帝に書状をしたためておこう。して、残る問題は四魔天による魔物の異常発生だな。だが、これは今すぐに対策が決められる事でもなかろう。そなたらにも助力願う可能性もあるがその時は頼むぞ」


「はい。わたし達の為に、書状まで用意していただくのに、何もしない訳には参りません。是非、協力させてください」


 よし、上手くまとまった。始まる前はどうなるかと思ってたけど、無事話が済んでよかった。それにしてもやっぱり僕達いらなかったよね?


 終わった筈なのに一向に退出を促されない。むしろ場の雰囲気が重くなってきている。なぜ?


「さて、これで今後についてはとりあえず大丈夫であるな。して、ルロとデートをしたという男はどこだ?」


 今日の中で一番空気が張り詰めている。あれ? それって、もしかしなくても僕だよね? ルロさん照れないで! 王様の眉間に青筋が立ってるから!


「名乗らないのであれば捜査した上で打首に――」「はい!! 僕です!!!!」


「お主か。最後に言い残すことはないか?」


 え? 死刑確定!?


「父上!? おやめください! ヴァン君はただのお友達です!」


「だまらっしゃい!! 余のルロを……余のお嫁さんになるって言ってたのに!!」


 さっきまでの威厳はどこにいったの!? 領主様と同じ匂いがぷんぷんするんだけど!! 領主様と違うっていったけど、同じだったわ!


「そんな子供の頃の話はやめてください! ヴァン君とはただ一緒に遊んだだけです! 父上には関係ない事です!」


「関係ないとはなんだ! 関係あるわ!! 余が認めた男としか結婚はさせんぞ!!」


 結婚って!! 気が早すぎません!?


「あ、あの! ルロさんには今日の服を選んでいただいただけです。お友達ではありますがそれ結婚とか、そういうのではありません。誓ってルロさんには何もしてません!」


「だけじゃと!! こんなに可愛いのに何もせんかったのか! お主の目は節穴か!!」


 どうしろってんだ!! ルロさんも不機嫌そうにしないで! 自分でもお友達っていってたじゃん!!


「ヴァン君のあんぽんたん! ふんだ!!」


 何このカオス! 誰か助けて……。


 その後、何とか周りの偉い人達が場をおさめてくれて無事、首が繋がったまま退出する事が出来た。


 何より、ケルヒが小声でセーフっていってたのが印象的だった。意外と僕の心友は嗅覚が鋭いみたいだ。何であの時、僕に教えてくれなかったんだ!? まるで忍びのように気配を消してたし。今日だってひっそりとしてた。


 王様には名前と顔を覚えられるし、ルロさんの機嫌は治らないし。次に会った時どうしよ……。結果的には最高に近い形で終わった筈なのに、僕だけ何だか大変な事になった今日の話し合い。次回もし、来てくれっていわれたらどうしよう。いやいや、もういわれないよね? ……いわれないよね??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る