第九話 二回目になるとなんていうかもう、どうでもよくなってくるよね

 それから暫く経ち、漸くルロさんから日程の連絡がきた。そして当日。僕達四人は、城門前でルロさんを待っている状態だ。ケルヒも無事正装を購入したり、なぜかアイさんとリスさんにも女装を披露して三人でデートをさせられたりと、順風満帆な毎日を過ごした。うん、順風満帆な毎日を過ごした。二回目になるとなんていうかもう、どうでもよくなってくるよね。


 ギルドにも興味を持ってくれて、冒険者ギルドと商業者ギルドに登録もしにいった。せっかくだからと、一緒に依頼をこなしたりもした。ずっと部屋で引きこもっててもいい事はないし、生きていく上でお金も当然必要になってくる。僕とケルヒにとっても戦力が増えるのは大助かりだったのでお互いがウィンウィンってやつだった。二人とも強いしウィンウィンどころか僕達が助かった感じだったけどね……。前衛、後衛がはっきりと分かれ、魔物の討伐が格段とやりやすくなったので、このまま一緒にやれたらなぁって思うようになった位だ。


 けど二人にはやらなきゃいけない事がある。僕達と違って二人には大きな目的があるからね。世界の危機といわれると僕達も手助け出来るならしたいところだけど、内容を全て聞いた訳じゃないし、この後の話できっとその全容が掴めるんだろうけど、僕達にその力になれるほどの実力があるかどうかが不安だ。


 そんなこんなで待っている間にルロさんがやってきた。この前のデートと違って、今日は騎士の格好をしている。僕的にはこの前の格好も可愛くていいけど、騎士の格好もかっこよくて好きだなぁ。


「みんなおはよっ。それじゃあ城の中へ行くけど、無闇に物に触らないようにね。後、はぐれると迷子になるからしっかりついてきてね?」


 こんなに大きな城だもんね。確かにはぐれたらそのまま迷子になりそうだ。けど、僕達だって大人なんだから、そんな迷子になる訳ないじゃんね? ハハハ。







 なんて思ってた時期が僕にもありました。ってなりませんからね? 流石にそこまでバカじゃありませんって。無事待合室? みたいなところまで案内されて、向こうの準備が整うまでここで待つ事になっている。


「ドキドキしてきましたね」


「アイ、がんば」


「もう、リスったら他人事みたいに言って。それじゃ困るんだけど」


「だけど、私じゃ説明は無理」


「まぁ、そこは確かに期待してませんけどね?」


「ひどい。傷ついた」


「ハハハ。アイさんとリスさんは仲が良くていいね。ねぇ、ケルヒ?」


「そうだな。なんていうか気心が知れてる感じがしていいよな」


「そうですね、わたしとリスは、小さい頃から一緒だったので、もう隣にいるのが当たり前のような存在ですね。一応従者って形ではありますが、リスは親友です」


「うん、ありがとう」


 二人の笑顔が眩しい。僕とケルヒもそんな風にいえる関係になれたらいいな。まぁ親友を超えた、心友だけど、ケルヒからは一回もそう呼ばれた事ないんだよ? 失礼しちゃうよね!


「俺、絶対に心友なんて呼ばねぇからな?」


「ケルヒのいじわるっ!!」


 二人に笑われた。ちょっと恥ずかしい。けど、さっきまでのドキドキが少し落ち着いた気がする。ちょうどいいタイミングでルロさんがやってきた。どうやら向こうも準備が出来たらしい。


 そして大きな両開きの扉までやってきた。この先にきっと王様がいるんだろうな。そして、ゆっくり、ゆっくりと扉が開かれていく。


 まず目に入るのが玉座まで真っ直ぐ伸びた赤い絨毯。そして、それを照らす綺羅びやかなシャンデリア。領主様のところも派手だったけど、流石は王城。暗い場所なんてない位に僕達を照らしてくれていた。


「入れ」


 玉座のサイドに立っている偉い人が声を掛けてくれ、ルロさんからまず謁見の間に入っていく。ちょこっと後ろを向いて頷いてくれたので、少し間を開けてから一歩踏み出す。両サイドに広がる七色に輝くステンドグラスが僕達を包み込んでくる。ステンドグラスから出てくる光になんとなくだけど魔力を感じる。きっと僕達にはわからないような仕掛けでもあるんだと思う。最近すっかりお気に入りの場所である影に隠れているルンパが反応しないから悪い物じゃなさそうだ。色々な種類の魔力を食べている内に魔力に敏感になったルンパは、魔法による攻撃に対して鋭い嗅覚を持っている。そのおかげで、魔法による不意打ちにはめっぽう強くなった。前に誤爆で放たれた魔法を、一瞬で食べた時はびっくりしたもんだよ。


 そんな事を考えている内に王様のところまで到着。そんなに長い距離じゃない筈なのに、凄く長く感じたよ。ルロさんが跪くのに合わせて僕達も跪いた。


「ルロよ。案内役、大儀であった」


「ハッ! ありがたきお言葉」


 あのルロさんがかしこまった言葉遣いしてるよっ! いや、そりゃ王様の前でいつもの口調じゃおかしいか。けど違和感あるなぁ。


「ふむ。そなたらも大儀であった。みな、面をあげよ」


 思わず上げそうになるけど、一回目は上げちゃ駄目なんだってルロさんがいってた。


「もう一度言う。面をあげよ」


 一斉に面を上げる。まだまだ王様との距離はそれなりにあるが思ってたよりも近い。その姿は王様というより王子様といった方が良い位若く見えた。王冠を冠ってなければ王子様と勘違いしたかもしれない。確か年齢は三十歳過ぎだと思ったんだけど。ただ、見た目は若いが、王者の風格というべきか、その立ち振る舞いは、近寄りがたい、荘厳な雰囲気を感じた。そういえば領主様にはそんな雰囲気なかったなぁ。妙に友好的だったし。まぁ変人だったけど。


 おっと、思考が逸れてしまった。そんな王様が目の前にいる。今まで実感が沸かなかったけど、僕って今王様の目の前にいるんだなぁ。今頃になって足がガクガクしてきた。まさか本当にたかが冒険者が王様と会えるなんて夢にも思わなかったもん。


「さて、そこのアイとリスと言ったか。そなたらから話があると聞いている。話してみせよ」


 すると、僕達とは対照的に、緊張した様子もなく、堂々とした様子で立ち上がった。あれ? 思ってたより、二人ってこういう場に慣れてるのかな?


「はい。本日は、このような場を設けていただき、まことにありがとうございます。わたしは、トゥーシバ国の和王の娘、姫巫女アイと申します。横に控えておりますのが、従者のリスでございます」


 まさかアイさんって姫様じゃん! 今まで知らなかった事実に驚きを隠せずにいると、アイさんがこちらを見てちょっと申し訳なさそうな顔をする。うん、僕はアイさんにそんな顔をさせる為にこの場所に来た訳じゃないんだ。アイさんはアイさんなんだから今は気を遣わせないようにしよう。


「ほう、噂で聞いたことがあるな。そなたの国の姫巫女といったら神の御使いと呼ばれておるそうだな。それでそのトゥーシバ国の姫がどのような用件でこの国に来たのだ?」


「はい。我が国において、姫巫女とは我が国で奉っております、碧神教の神、チノカミ様より神託を受け、それを伝えるのがわたしの役目です。そして先日、チノカミ様より、神託を受けました。率直に申し上げます。今起きている異変の原因は全て、ニタチ魔国にて、魔王が復活した事による謀略です。既に我が国では、侵略を受け、戦争状態となっております」


「魔王だと!! あの古の時代に神々が封印したというあの魔王か!?」


 ま、魔王だってー!? ごめん、魔王って全然わからないんだけど、王様がこんなに取り乱す位だから凄い王なんだろうな。サラさんの勉強では教わらなかったなぁ。っと、ここで話が終わる訳じゃないんだ。しっかり聞いておかないと……。


 魔王の名前が出た途端に重くなる空気。そして否応無しで緊張感が高まっていく。みんながアイさんの話を聞き逃さないように集中するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る