第六話 お友達って気がついたらなってるものですから
翌日、みんな揃って昨日と同じ、城門の前に集まった。あぁ、何だかドキドキしてきた。あの時のルロさんの反応はそんなに悪くなさそうだったし、上手くいけばいいんだけど……。
「それじゃ、門番の人に話しかけるからね?」
それぞれが緊張した表情で頷き返してきた。よし! 行くぞ!
「あの、僕の名前はヴァンと申します。『飛翔部隊』隊長のルロ様にお話があって参りました。ルロ様から門番の方にって言われたのですが」
「あぁ、話は聞いてるよ。今から呼んでくるので待っていてくれ」
よかった。しっかり話が伝わってたよ。
「よろしくお願いします」
二人いる門番の内、一人が城の中へ消えていった。今日はルロさん城にいるんだな。暫く待っていると、ルロさんが慌てて飛び出してきた。
「お待たせー!! えっとね、えっとね。結果だけど……」
急に真剣な表情されると緊張してくる。そして妙に近い。ルロさん可愛いから直視できなくなっちゃう。
「話……聞いてくれるって! 日程はまだ調整中だけど、決まり次第、ヴァン君に言えばいいのかな?」
よかったぁ……。三人を見たら同じように安堵していた。ルロさんには大感謝だ。
「ルロさん、ありがとうございます。助かりました」
「いいの、いいの! あ、当日だけど、そちらの女の子はともかく、ヴァン君とケルヒ君は着る服装を用意しておいてね」
「「えっ?」」
「えっ? じゃないよ二人とも。城に入るんだからそのままの格好じゃ流石にちょっとまずいよー??」
「ぼ、僕達も一緒なんですか!?」
てっきり入るのは二人だけで、僕達はここでお役御免だと思ってた。
「ここまでやって、ほったらかしはよくないぞー? ちち、あっと、陛下に話したらキミ達にも興味を持ったようだったから、行かないとあとでどうなるかわからないよ」
ま、まさかのここでそんな脅し!? 思わず、ケルヒを見ると固まっていた。そうだよね。僕だってケルヒみたいに固まりたい。そんな様子を見ていたルロさんがやれやれといった様子で、ため息をつきながら僕に向かって更に近付いてきた。
「仕方ないなぁ。ちゃんとした服装がないんだね? じゃあ明日、買いに行こうよ。あたしが一緒に行ってあげるから!」
「えっ?」
「あたしの誘いを断るの??」
吐息がかかる位に距離が近い。さっきとは違う意味で緊張してきた。
「ぜ、是非よろしくお願いします」
「わかればよろしい!!」
今日一番の笑顔が眩しかった。
それから明日の予定を相談した後、ルロさんとお別れして、いつものギルド食堂に集合した。
「ヴァン様、ケルヒ様。本当にありがとうございました」
「さすヴァン、さすケル」
頭を下げられるとちょっと気まずい。けど、それだけ二人にとっては大事な事なんだよね。遠路はるばるこの王都までやってきたんだ。並大抵の覚悟ではなかったと思う。
「俺は何もしてねぇよ。全部ヴァンのおかげだ。それにまだ終わってないだろ? 王様にもわかってもらえるといいな」
全部僕のおかげってのは違う気もするけど、あれ? 違わない?? えっと、それ以外はケルヒのいうとおりだ。ただ、話せるようになっただけでわかってもらえた訳じゃない。これからが二人にとっては本番なのだから。まぁこれは王様に会ってからの事だから今はどうしようもないね。
「それにしても、ケルヒは明日一緒に行かなくていいの?」
そう、なぜかケルヒは明日の誘いを断って、ルロさんもそれをあっさり受け入れた。「なら」って僕がいった地点でルロさんに睨まれてそれ以上は何もいえなかった。解せぬ。
「あぁ、俺は問題ねぇよ。……さすがに一緒に付いていけねぇよ」
「えっ?」
「いや、こっちの話だ。明日ちょっと用事があるからな。あとで買ってきたやつを見せてもらって、それを参考に同じ店で、買いに行けば問題ねぇよ」
「ま、まぁケルヒがそれでいいなら僕からは何も言わないけどさ」
まぁ用事があるなら仕方ないもんね。アイさんとリスさんが苦笑いしてるのが気になるけどそれもきっと仕方ない。
「さぁ四人とも、じゃんじゃん食べておくれ!この前はお嬢ちゃん達は食べられなかったでしょ。うちの旦那の料理は最高なんだから遠慮するんじゃないよ!!」
タイミングよく、食堂のおばちゃんが料理を出してくれた。さすが、空気が読める人だ。
「わぁ、美味しそう」
「お腹が鳴って恥ずかしい」
料理を見た二人の反応も上々。それもそうだ。僕も料理を見てから涎が止まらない。
本日のメニューは、タスキン都市から輸送されたであろう、炙りサーモンが綺麗に彩られている海鮮サラダに、海老、貝がたくさん入った海鮮ブイヤベースに、カリカリにしたバケット。おまけにデザートには紅茶のシフォンケーキまで付いている。
めちゃオシャレ!! 旦那さんの方を見たら、無言でグッジョブ。さすがです! きっとこの国でしか食べられないような食材を選んでくれたんだと思う。服装を含め、アイさんとリスさんは格好がこの辺の人とあきらかに違うからね。
勿論みんな完食。旦那さんってこの前みたいな大胆な料理から今日みたいな繊細な料理まで何でも出来るな。しかも相手に合わせて作ってるあたりにプロ意識を感じる。そして食後のコーヒー。感無量です。ごちそうさまでした!!
さて、食事も済んで、これからの事になるけど、ここから先は日程が決まってからになるよね。しかも、説明するのはアイさんとリスさんで、僕達は後ろで立ってるだけになると思う。むしろいまだに何で僕達まで呼ばれるのかがわからない。王様に興味を持たれたって怖いんだけど。いきなり打ち首とかないよね? 何も悪い事してないよね??
「ふふふ」
唸りながら考え事をしていると、アイさんがいきなりこちらを見て笑い出した。
「あ、ごめんなさい。ヴァン様はわかりやすいですね。呼び出しですが、きっと大丈夫だと思いますよ。悪い人かどうかなんて見ているだけでわかりますから」
お、おふ。何で僕ってこんなにわかりやすいっていわれるんだろう。まぁきっと顔に出るって事なんだろうな。ちょっと複雑。ただ、励まされてるのもわかるからそれは嬉しいかも。……アイさんとリスさんとも友達になれてるのかな?
「アイさん、リスさん。僕達ってもう友達ですよね??」
「……!! も、勿論、お友達ですよ!! ねぇ、リス?」
「うん、もうバッチリお友達」
「相変わらず、ヴァンってやつは……」
相変わらずって何だね? 僕は友達の作り方がわからないからどうしても不安になるんだ。ケルヒや、ルロさん、ルンパとは友達になれたけど、サラさんや、ゴリラ騎士様、眼鏡美人職員さんは友達とはちょっと違うし、領主様に至っては保護者? のような存在だった。『恩恵』を授かる時も、ケルヒ以外とは誰とも仲良くなれなかったし、どうすれば友達になれるのかわからないんだ。正直、今もちょっと怖い。これが終わったらすぐお別れで、赤の他人になっちゃうんじゃないかって思ってしまう自分がいる。そもそもアイさんとリスさんは、これが終わったら帝国に向かうんだろうし、そしたら結局お別れなのか。
「あまり難しく考える必要はないんですよ。お友達って気がついたらなってるものですから。だから……大丈夫ですよ。わたし達はもうお友達です」
そういってゆっくり近づいてきたかと思ったら、頭を撫でてくれた。羨ましくなったのかルンパも抱きついてくる。うっ、なんか慰められているみたいで恥ずかしい。サラさんにだって撫でられてる事なんて殆どなかったのに。ぐっ、コートでワキをくすぐらないでください! どうやってコートがくすぐるんですか!! むしろどうやってこの状況がわかってるんですかっ!!
そんな事で、嬉し、恥ずかし、くすぐったいとよくわからない状況にだけど、成果が出せてよかったと思う。アイさんとリスさんとも友達になれたし、明日はルロさんと当日の服装を買いに行く予定だ。緊張するけど楽しみだなぁ。
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