第三話 我を信用してくれて、だ。ここで失敗なんて出来んな!!

 そこからも攻防は続く。今の所、あの巫女服の女人の『守護陣』によって積極的に攻勢に出る事が出来るようになった我らが若干有利だが、まだ油断はできん。何より今のままでは、火力が足りない。バランスは悪くないのだがな。このままダメージを与え続ければ、勝てるやもしれんが、どこかで一度でも崩れてしまえばそのまま全滅もありえる。決断をするべきか……!!


「我が心友よ! 我に秘策がある! 時間を稼げるか!?」


「稼げるか、じゃねぇだろ! 稼げでいいんだ!! 仲間だろ? 俺に任せろ!」


 ふ、流石は我の心友。頼もしいわ。


「二人も、すまぬが、援護を頼む!」


「がってんしょうち」


「わかりました!!」


 力を練る為に一旦距離を取る。そして呼吸。その間も我に攻撃を仕掛けてくるが、巫女服の女人が『守護陣』を張ってくれ、集中する事が出来た。水色の髪の女人の援護も抜群だ。我が心友の攻撃も蚯蚓みみずが嫌がっているのがよくわかる。


 ええい、時間が掛かるのがこの技の弱点よな。もどかしいわ。だが、我が師が言っていた仲間がいた方が良いとはこの事を言っていたのであろうな。この状況で我だけではこの技を放つのは到底不可能。仲間がいるからこそ、この状況が出来た。しかも、我を信用してくれて、だ。ここで失敗なんて出来んな!!


 だがここで、我に攻撃が通らない原因に巫女服の女人が関係しているのがわかったのか、蚯蚓が巫女服の女人に向かいだした。このままだとまずい。心友の攻撃も水色の髪の女人の攻撃も無視して巫女服の女人に襲いかかる!


 焦るな。ここで乱れてしまったらこれまでの意味がなくなる。


「我への援護は忘れろ!自分の身を守れ!!」


「でも!!」


「構わぬ!心配無用だ!!」


「わ、わかりました!」


 これで一安心よ。蚯蚓の攻撃を『守護陣』で防ぎきる。だが、それと同時に蚯蚓が大木を引き抜き、こちらに投げてきた。心友が我の前に立ち、大木を断ち切る。


 流石、我が心友! だが、こちらの『守護陣』が無くなったのに気付いたか?? 高い防御力を誇る『守護陣』だが、どうやら複数同時に発動出来ないらしい。まぁそんなに都合のいい筈がないであろうな。これだけ守ってもらっているだけでも僥倖といえよう。


 蚯蚓もどう攻撃すべきか戸惑っているようだな。そうだ、迷え。我の技も後少しで完成する!


 そして、とうとうこの時がきた! 心友に目配せをする。お互い頷くと、心友が我から離れる。戸惑っていた蚯蚓がその隙を突こうとこちらに向かって動き出す。『守護陣』をこちらに張らせない為に、巫女服の女人に石を投げつけるのを忘れない。やはり複数に発動出来ない事に気づいておるな。だが、ここまでは計算通りよ。さぁ我が元までやってこい!


 そしてそのままの勢いで我に喰いつこうとする。すると目の前に『守護陣』が張られ、攻撃が遮られる。ある筈のないモノがあり、驚く蚯蚓。そう、これは巫女服の女人の『守護陣』ではない。ルンパの劣化『守護陣』だった。本来『魔石』を食べれば真似出来るのがルンパの能力だが、実は『魔石』を食べた時に比べて遅くはなるが、魔法を食べた事でも同じ事が出来るようになる。ずっとルンパが攻撃に参加していなかったのは、『守護陣』を真似させる為だった。


 元々の目的は巫女服の女人がいなくても防御出来るようにする為だったのだが、蚯蚓の隙を作るために使うのが一番だと思い、このタイミングで使わせた。だが、所詮は劣化版。既にヒビ割れそうになっておる。だが、一瞬でも止まればこちらの番だ!


 この一瞬の間に、サイドから首を真っ二つにする為に、心友が刀を振り下ろす! それを尻尾で抑えて断ち切る事までは出来なかった。


「『銀穿』」


 木と木の間から目にも留まらぬ速さで銀色の矢が蚯蚓に向かって放たれた。それを蚯蚓は起き上がって自慢の牙で受け止めて、無力化させた。割る事は出来たが、致命傷にはなっていない。


 そして最後は我だ! ルンパの『守護陣』が解かれると同時にこれまで溜めた魔力を起き上がった蚯蚓の腹に向かって解き放つ!! 


「受けてみよ! 吸排拳参式『螺旋排出砲全テヲ吐キ出ス神ノ咆哮』!!」


 特殊な呼吸法によって集められた掃除機魔法による『排出』。それを放つ瞬間に右手を捻りこむ事で螺旋状にし、全てを引き裂く一撃となる。そう、今くらった蚯蚓のようにな。


 胴体が引き裂かれた蚯蚓は大きな悲鳴をあげて倒れる。だが、油断してはいけない。こういった生き物はこの程度では決して死なない。トドメを差す為に最後の一撃を放つ!


「これで最後だ! 吸排拳壱式『排勁神ヲモ滅ス一撃』!!」


 頭蓋を砕く音と崩れ落ちる蚯蚓。長き戦いであったがこれで終止符を打つ事が出来た。








「ありがとうございました」


「感謝」


 先程まで戦っていた、二人から礼を言われたが、元々は我らの依頼。むしろこちらが感謝する側だ。


「こちらこそ此度は助かった。我らだけであったらあの蚯蚓との戦いはもっと厳しいものになっていたであろうな」


「ホント! こっちがむしろありがとうだぜ!」


「そういえば名を聞いていなかったな? それにその姿、この辺の者ではあるまい?」


 そういうと戸惑い出す二人。ふむ、どうやら訳ありのようだな。


「まぁよい、その美しさはまさに姫。姫よ。よい戦いであった。そろそろ代われとうるさくてな。あとはもう一人の我に任せる。それではな」


「え、ひ、姫!? もう一人!?」


「確かに姫」


「ちょっとリス!?」


 何か言ってるが我の時間は終わりだ。あとは任せたぞ、もう一人の我よ。そして我から僕へ。


 はぁ……。全く余計な事ばっかり言うんだから。勝手だな、もう一人の僕は。けど、今回の戦いは助かった。ありがとう、もう一人の僕。


「えっと……。は、はじめまして。先程はありがとうございました。改めて自己紹介します。僕はヴァン」


「俺はケルヒだ」


「わ、わたしはアイと申します」


「リス」


 アイさんにリスさんか。こんな女の子二人で森にいるのはおかしいけど、一旦その事は置いておこう。その前にまず聞いておかないといけない事がある。


「すみません、一応確認なのですが、その黄蛇って僕達の討伐対象だったのですが、お二人が同じ依頼を受けていたって事はありますか?」


「へ? えっと依頼では無いですね。こちらでは魔物を倒すのにどこかで依頼するのですか?」


 ん? 冒険者ギルドを知らない? て事は本当に他国の人なのかな。けど、他国の人が何でこんなところにいるんだろう? うーん、けど今はこの場を離れるのが先かなぁ……。流石に戦闘で疲れてるし、黄蛇を倒した事でこの森に今までいた魔物や野生の獣が戻ってくるかもしれない。とその前に。


「えっと、お互い話したいことはあると思いますが、ギルドに報告も行きたいので、王都に戻ってからお話しませんか?」


「そうですね。わたし達も王都へ行く為に旅をしてたので、そうしていただけると助かります」


「わかりました。それじゃルンパ、この黄蛇の処理を頼めるかな?」


 ぷるんぷるんと震えて応えてくれるルンパ。可愛い。肩から降りたルンパは黄蛇の身体に乗ると風呂敷を広げるように大きくなった。そして黄蛇をあっという間に飲み込み、僕の肩に戻っていった。


 唖然とするアイさんとリスさん。そりゃいきなりこんなの見たら驚くよね。初めてやったときには僕も驚いたもん。


「えっと、それじゃあ、王都に戻ろうか」


 驚きつつも頷く二人。ケルヒはもう見たことあるから苦笑いしつつ、歩き出した。あぁ、流石に疲れたなぁ。けど今回の戦いで、また強くなれた気がする。無事倒せた喜びと、新たな出会いを胸に、王都へと向かうのだった。

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