第二話 我は注目されるのが好きだ!!
鬱蒼とした森、森、森。何だここ。次の日になって二人で依頼になっている東側の森に来たんだけど、日差しが遮られる位深い森。死角が多くなりそうだから注意しよう。ちなみに今回はモヒカン頭さんには来てもらってない。野生の獣や、魔物も逃げてしまっているし、今回は討伐するのがメインなので
それにしても静かだなぁ。鳥のさえずりさえ聴こえてこない。これも黄蛇の影響なのかな? 巨大らしいから接近に全く気づかないって事はないだろうけど、いつ襲ってくるかわからないし、十分に気をつけて行動しないと。慎重に周辺を警戒しながら歩き続ける。今回の場合は、探さなくても、僕達が餌なんだから待ってるだけで向こうから寄ってくる筈だ。
まず、自分たちに有利な戦闘条件を整えよう。まず、視界が悪い場所では野生の魔物に対して圧倒的に僕達が不利になってしまうので開けた場所を探そう。そして、たどり着いたら事前に戦闘準備。移動がまだメインなので、コロはまだ刀にしていないし、僕だってもう一人の僕になっておいた方がいい。眼鏡美人職員さんの情報ではもうちょっと先に冒険者が休めるようなちょっとした広場があるらしいんだ。とりあえず、そこまで警戒しながらも急ごう。
ふぅ、何とか無事に広場まで付けたみたいだ。ここまでは順調だぞ。よし、そしたら次は戦闘準備か。
「ケルヒ、いつ黄蛇が出てもいいように準備だけしとくよ」
「おう、コロ頼むぞ!」
「ルンパは無理のないようにね。危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ?」
肩に乗ったままぷるんぷるん震えてる。任せろって言ってくれてるのかな? 頼りになる仲間達だ。それじゃあ僕も切り替えるとしようか。僕から我へ……。
「いざ、参ろうか」
「うわ、出た!」
「我が心友も妙な事を言う。我は我ぞ」
「お、おう、まぁいっか」
ふむ、心友も既に珍妙な刀に変わっておるな。あれは『
しかし、待てど、待てど、蚯蚓が現れぬわ。物音一つせん。これではいかんな。このままずっと緊張したままでは戦う前に我らが消耗してしまうぞ。
「我が心友よ。刀は仕舞えぬであろうがしばし、休息をとれ」
「ハァ……。そうだな。正直ちょっと疲れてきたところだったわ。まぁそんな都合よくすぐに出てくるとは思ってなかったけど、こういう時間ってちょっときついよなぁ」
「ふ、それも一興だ。緊張を楽しめるようになればよいのだ」
「そりゃまだ俺には無理だ。どうせ戦うならはやく戦いてぇ」
まぁ我もそうだがな。と心友と雑談をしているといきなり地面を揺るがす程の大きな音が森中に響いてきた。
ふむ。来たか? だが、それにしては些か遠い気がするが。とりあえず現場へと向かうとしようか。
「心友よ。では、参ろうか」
「もう走ってるっての!!」
やれやれ、気が早いものだ。それでは我も本気で行くとしようぞ。
「吸排拳弐式『
目の前の景色がどんどん変わっていく。まさに世界が変わるわ! ははっ! 心友よ、先に行っておるぞ!!
「ずりぃなおい!!」
心友が何か言っておるが聞こえんわ!!
現場に近くまで到着すると、あきらかに戦闘音が聴こえてくる。既に誰かが戦っているな? 木の影から覗いてみると、そこでは予想通り、戦闘が始まっていた。そこにいたのは女人が二人と、蚯蚓が一匹。女人はこの辺の者ではないな。黒く真っ直ぐ腰まで伸びた髪の、えっと、あれはそうだ、巫女服といったか? そんな服を着た女人と、水色の短めのボブカットで弓を持った女人の二人が我らの獲物、蚯蚓と対峙している。巫女服といったらあれか、東方にある国、トゥーシバ国の服だったか? 我が師から学んだ気がする。むしろ我が師が一度着ていた気がする。だが本家の方がやっぱり……。よし、今その事は忘れよう。締め付けられてしまってはかなわぬ。
それにしても助けるべきか、否か。もしこれが横取りになってしまうと後で禍根となってしまうだろう。だが、困っていた場合、すぐ助けるべきだ。考えても仕方なかろう。最悪の場合を優先し、横取りになった場合は、素材を含め、全部あちらに渡せばよかろう。
「いざ、参る!!」
「きゃあああああああああ!! いきなり何ですか!?」
そりゃそうであるな。いきなり出てくれば誰でもびっくりするか。
「我が名はヴァン。冒険者だ。ここは黙って助太刀いたす」
「ハァハァ。お、俺はケルヒ。俺も討伐手伝うぜ?」
さすが我が心友。だが、そんなに疲れていては戦えぬぞ?
「おまえがさっさと行くからだ!」
「えっと、それではお手伝い願えますでしょうか?」
巫女服の女人が若干困り顔でこちらに話しかけてきた。美しいな。髪の色と同じ、透き通るような黒き瞳に、ぷっくりとした唇。細すぎず、太すぎずと健康的な肢体。おっと、見すぎては失礼だ。それより返事をせねば。
「無論。我と心友が前をゆく。其の方ら二人は後ろからやればよい。心友よ、いくぞ!」
「あぁ、もうこうなるとヴァンのやつ止まらねぇからな! わりぃがそういう事だ! よろしく頼むぜ!!」
「あ、は、はい!! わかりました!!」
我らが前に出ると、遠巻きに牽制をしていた水色の髪の女人がすっと下がる。うむ、役割分担がよくわかっておるのな。即興だが、かなりやりやすそうだ。
まずは我から蚯蚓に挨拶させてもらうぞ!
「吸排拳壱式『
蚯蚓の身体の側面にぶつけるが簡単には吹き飛ばない。図体がでかいだけの事はあるな。この重量感はかなり骨が折れそうだ。それでもダメージがあったのか蚯蚓が我の方を見てくる。そうだ、我にもっと注目するがよい! 我は注目されるのが好きだ!!
我を敵と定め、のそりと近づいてくる。そんな隙を見せてもいいのか? 我は一人じゃないのだぞ? 我が攻撃をしている隙に、後ろから回り込んだ心友が刀を振りおろす。幾多にも重なる風の刃が蚯蚓の身体を傷つけ、うめき声をあげる。どちらも無視出来なかろう? さぁ蚯蚓よ、お前はどちらを優先するのだ?
すると突然、身体を捻りながら尻尾を回転させて振り回してきた。どっちも選ぶか! 欲張りさんめ!! だが、これも想定の範囲内だ。素早くバックステップ、そして先程より、疾く、強く懐へと踏み込んだ。しかし、先程の攻撃を警戒され、思ったより踏み込みきれない。たとえ魔力で肉体を強化していてもこの分厚い肉体を貫くのは容易ではない。我が心友の刃も表面に傷が付くだけで大きなダメージを与えられてるとまではいえん。それどころかこの距離、一発でも当たればこちらは致命傷になってしまいかねない。
一旦離脱。攻め手を決めかねていたその時、空から銀色の雨が蚯蚓に向かって降り注いだ。
「『銀羽』」
ほぉ、水色の髪の女人の技か。魔法とはまた違った面白そうな技だな。矢を用いず放つ事が出来るのか。魔力が篭もっているが魔法ではない何か。おっと、今はそれどころではないな。我が心友も攻撃を続けておる。我も続かねば!!
銀色の雨がやむと同時に再び飛び込む。それを待ちかねていたかのように大きな口を開けて我を飲み込もうとする。逸ったか!? このままじゃ避けきれん!!
腕の一本を覚悟していたその時、目の前に半透明な膜が現れ、蚯蚓の攻撃を防いだ。
「『守護陣』。多少の攻撃でしたら、何とかします。遠慮しないで戦ってください」
今度は、巫女服の女人が使った技のようだ。この膜で攻撃を防げるらしい。どの程度耐久力があるかわからんが、先程の攻撃を防げた位だ。そう簡単に壊れる事も無かろう。そうとわかったら反撃開始だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます