第三章 王都防衛戦

第一話 帰り道、誰か倒れたりしてなかったか?

「プハァッ!! うーん、中々広くて大変だなぁ」


 泳ぐにはちょっぴり寒くなってきた今日この頃。ルンパが仲間になってからおおよそ十日が経った。今日はルンパと一緒に依頼を受けていた。内容は王都の中央にそびえ立つ王城の周辺の堀の川掃除だ。勿論、川の水をぜんぶ抜いたりしない。生態系も弄らない。泳ぐのが得意な僕と水底を這うように動き続けるルンパには時間は掛かっても楽勝な依頼だった。ちなみにケルヒはお休み。僕と違ってそんなに長時間潜水出来ないし、『掃除機魔法』じゃないとゴミや、砂、石を回収するのが難しいからだ。とは言っても、王城周辺でゴミをポイ捨てするようや不敬な人なんてこの王都でそういる筈がない。それでもこの河を作ってから一度も掃除した事ないから今回依頼する事になったようだ。理想は掃除だけではなく、堀を深くしてほしいらしいし、僕の魔法ならうってつけの仕事だ。


 それにしてもルンパは凄い。どうやら、魔石の魔力を吸収すると、その魔石の元になった本人よりは未熟だけど、同じ魔法を擬似的に使う事が出来る。なので今までは溶かす事しか出来なかったルンパが、僕の『掃除機魔法』や、ケルヒの『精霊魔法』も使えるようになった。特に驚いたのが、ケルヒの『精霊魔法』のように意思のある精霊までは呼び出せないけど、意思が希薄な『水の精霊』や、『火の精霊』を呼び出す事が出来る事だ。どういう身体の作りになってるのかわからないけど、水の中でも呼吸無しでいつまでも潜っていられるし、本当に万能生き物だ。もし、『生成魔法』の使い手が魔石を作り出す手段があったら、今頃ルンパに世界は征服されていたかもしれない。そして本当可愛い。


 そんなこんなで川を潜水しながらルンパと一緒に『吸引』を続ける。これがなかなかいい訓練になるんだ。河の流れは結構はやいし、決して水深も浅い訳じゃない。気を抜いているとどこまでも流されてしまうし、一秒たりとも油断出来ない。


 昔を思い出すなぁ。鎧で泳がされたり、縛られながら泳がされたり、いきなり用水路に落とされたり、よく考えると禄な事がなかったわ。むしろ僕ってよく生きてたなぁ。もう一度やれって言われても絶対無理だ。それにしてもそろそろ日も高くなってきたし、昼食時かな? 時間の制限はないからゆっくり訓練も兼ねてぼちぼち頑張っていこうっと。


 川から出ると流石にちょっと寒いな。まぁ当時は、寒かろうが暑かろうが泳いでいた時期に比べたらまだまだ快適なんだけどね。それにしても何で周りの人は僕の事をチラチラ見てくるんだ? あぁ、こんなところで泳いでいる人が珍しいからか。普通こんなところで泳がないもんね。それにしては女の人からの視線が熱い気がする。まぁ男の人からも変な視線があるけど。まぁ考えても仕方ないし、どっちでもいっか。身体を拭く布を忘れてきちゃったから洋服だけ持って寮までこのまま歩いて帰ろう。


「ルンパ行くよ!!」


 ルンパがいつものように肩に上ってくる。もうそこが定位置であるかのように上ってくるのだ。本当可愛い。それにしても街を歩いてからの視線がやばい。冒険者って上半身裸の人なんていっぱいいるのに何で僕ばっかりこんなに注目されてるんだろう? あ、ルンパか。こんな珍しい、しかも可愛い生き物がいたら誰でも注目するよね。あ、スリスリしてきた。愛い奴め。


 ルンパとイチャイチャしながら寮まで戻ってきた。途中なぜか倒れた人が何人かいたけど、大丈夫かな? ちょっと心配だ。歩いていた間に結構乾いちゃったけど、僕の髪の毛は結構長めだから流石に乾ききってないな。いつもは後ろでまとめてるんだけど、流石に泳ぐ時はほどいているし、何か変な感じだ。とにかくまだ濡れてるからちゃんと拭かないとね。


「ただいまー! ケルヒ戻ったよー」


「おう、っておい! なんて格好してんだよ!! しっかり服着ろよ!!」


「いやぁ、身体拭く布を忘れちゃってさ、あはは」


「まさか、そのままの格好で街を歩いたんじゃないだろうか?」


「え? そのままだけど……」


 ケルヒが頭を抱え始めた。どうしたんだろ? 何かまずかったのかな?


「帰り道、誰か倒れたりしてなかったか?」


「あぁ、そういえば何人かくらくらっとして倒れてたね。もうそんな暑い季節じゃないのにどうしたんだろうね?」


「全く、自分の事をもっとよく知っとけっての」


「自分の事……? あー! やっぱこのルンパの事かな? やっぱ可愛いもんね。僕も目の前でぷるんぷるんしてるとこ見るだけでくらっときちゃうもん」


 ルンパがぷるんぷるんして応えてくれる。やっぱルンパもそう思うよね。


「ハァ……。まぁいいや。さっさと着替えて飯でも食いに行こうぜ。その後はギルドに行って明日の依頼でも探す感じでいいか?」


 うーん、川の掃除はまだ急ぎじゃないから他の依頼を受けに行ってもいいかな? ケルヒが暇してるのも悪いし。


「そうだね! それじゃあ先にご飯食べて、その後ギルドにいこっか!」


 今日のギルド食堂のオススメは何かなーっと。








 オススメはしょうが焼きでした! 相変わらず何の肉を使ってるかわからないんだけど、味付けが絶妙だった。相当漬け込んでるからか、肉は柔らかいし、味もしっかりしている。付け合せの野菜と一緒に食べても最高だし、タレだけでお米が食べられちゃう位美味しかった。


 大満足した僕達は次の目的地である冒険者ギルドに向かった。いつもの眼鏡美人職員さんはいるかな? お、今日は一番端っこだな。


「ケルヒ、こっちみたいだから並ぶよー」


「おう」


「まだ緊張するの? いい加減慣れなよ」


「うっせぇ! これでも頑張ってんだよ!!」


 ケルヒってば、もう何度も会ってるのに未だに緊張するなんて、本当に好きなんだねぇ。今度お助け出来ないか考えてみよっと。


「余計な事すんなよ」


 何で、バレるんだろうね?


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こんにちは。今日は明日の依頼で何かいいのが無いか探しにきました」


「そうですねぇ。少々お待ちください」


 そういうと裏の方に下がっていった。ケルヒがため息を付く。こりゃ重症だねぇ。


 暫くすると、眼鏡美人職員さんが戻ってきた。


「えっとですね。こちらの依頼はいかがですか? 討伐依頼なのですが」


 内容を聞いてみると、王都の東側で最近、黄蛇が出てきて野生の獣が食べられてしまっているらしい。弱い魔物も逃げ出してしまい、東側の魔物達が他へ流れ、このままだと生態系のバランスが崩れてしまうので、討伐して欲しいとの事だ。


「この黄蛇ってどの程度の強さなんですか? 強そうですけど、僕達で大丈夫ですか? 他の魔物が逃げる位ですし、もっと上位の冒険者の方か、騎士団の方がいいんじゃ?」


 そういうと、眼鏡美人職員さんはちょっと困ったような顔をして僕の疑問に答える。


「それがですね、この黄蛇、魔力の限界値が高い方に襲いかかってくるみたいなんですよね。ちょうど今の王都でそういった方がいなくて……。実力的にもお二人がちょうどいいと思ったのでお願いしたいところなのです」


 魔力の限界値が高い……? どこかで聞いたな。あ、そうだ! タスキン都市からこの王都に行く間の国営乗合便で蒼狼に襲われた時も、ゴリラ騎士様が同じ事を言ってた気がする。


「黄蛇にそんな習性があるんですか?」


「いえ、今までそのような事が起きた事は一度もありません。最近似たような魔物の襲撃が多くてギルドでも困ってるんですよ。本当はこういった案件は、騎士様に頼むのが一番なのですが、あいにく、別件で、対処出来ないみたいなんですよね。ヴァン君、ケルヒ君、お願い出来ないかな?」


「うーん、そうは言っても――」


「はい、やります!! 俺達に任せてください!!」


「ちょっと! ケルヒ!!」


「何だ、ヴァン! 怖気づいたか? 冒険者なんだろ? 困ってるなら助けようぜ!!」


「ありがとうございます。それではこちらの依頼を受理いたしますね」


「あぁもう。まぁケルヒの言ってる事も間違ってないし、頑張ってみますね」


「すみませんが、よろしくお願いします」


 何だか、ちょっと嵌められた気分だなぁ。眼鏡美人職員さん、ケルヒがノッてくるのわかっててやってると思う。まぁ受けたもんは仕方ないか。本当に駄目なやつならお願いしてこないだろうし。


 明日は黄蛇の討伐か。蒼狼の時も気になったし、勢いで依頼を受けちゃったようなもんだけど、僕達が受けるのにちょうどいい依頼かもしれないな。


 ちょっと大変そうな依頼だけど、頑張ってみようか!

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