第十七話 段々この締付けも慣れてきたかも……?
そっと扉を開けると、薄暗い照明がこちらを迎え入れてくれた。しっかり覗くと下へと続く階段が続いているようだが、その薄暗さから奥の方が全く見えない。まさかこんなところに隠し通路があったなんて。
用心深く階段の先を覗いていると、ケルヒが何も気にせず、中へと入っていこうとしている。
「ちょ、ちょっといきなり入ってくの?? もうちょっと警戒しようよ!!」
「そうは言ってもさ、中に入らないとわからなくね? 調査も依頼に含まれてるんだしさ」
「いや、まぁそうなんだけどさ」
「だろ? だからさっさと行こうぜ!」
確かに調査の為ってのはあるだろうけど、ケルヒの場合はただ気になってるだけでしょ!! 肩には既にコロが召喚されてるし、目が爛々と輝いている。これじゃ調査の為だ、って言っても説得力がないよ。
「はぁ、どちらにせよ、行くしかないもんね」
「そうそう! じゃあ行くぜ!!」
先が思いやられるなぁ。そして一歩ずつ踏み出す。どこまで続くのかわからないけど、予想ではそんなに長い道のりではない筈。あっても部屋は一つか二つ。なぜならあまりに遠いとメインホールまで音が届かないからだ。それとも鎧擦れる音ってなると、鎧が徘徊してるとか? それはそれで怖いなぁ……。
暫く階段を降りていくと、予想通り部屋へと繋がるであろう扉があった。ホコリの溜まり方からして、開けた形跡はある。だけど頻繁には開けてはいないようだ。既に若干ホコリが積もってきている。
「扉を開けた形跡があるね。ひょっとすると開けた地点で標的がそこにいるかもしれない。注意していくよ」
「おう、任せろ」
まだコロを刀に変えていないので僕が先頭で扉を開ける。扉が重いのか、それとも僕が緊張しているのか、扉を開けるのにとても重く感じた。扉の向こうからは何も気配はないけど、警戒するのに越したことはない。何とか扉を半分程開けて、中の様子を伺ってみる。
うん。何もいないし、部屋の中にあるのは机と椅子が一セットのみ。机の上には一冊の本が置かれている。とりあえずは見た限りでは何もいなさそうだし、扉を開けて中に入ってみよう。
「何もないね。一応そこに扉があるからその先に何かがあるのかな? まぁとりあえず机の上にある本を見てみようか」
「そうだな。はやく先にも行きてぇけど、調査の為に来てるんだからな。見てみるか」
これは日記? 表紙には何も書かれていないけど近くにペンもあるし、何度も開かれたような跡がある。あと気になるのが血痕だ。表紙のところどころに血が付いていてちょっと怖い。恐る恐る捲ってみるとそこには観察日記が書かれていた。ところどころ血で汚れてしまっている為、全部は読めないが、何とか読めた部分だけを解読してみるとこんな感じだった。
この本を書いていたのはここの屋敷の主である『生成魔法』の使い手だった。この本に血が付いていたのは、持病が悪化したときに吐血したのが付いてしまったみたいで、この奥には『生成魔法』で作ったナニかがいるらしい。生き物らしいけど、何年も放ったらかしになってて未だに生きているのだろうか? 基本的にはその生き物が何をしただの、あれが出来るようになっただの、まるで自分の子供の事を書いているようだった。愛情込めて育ててたのが読んでいるだけでわかって、最後の文章にはもし、この場所まで来れたならその先にいるうちの子を頼むと書かれていた。
思ったよりも重たい話になってしまった。もし万が一だけど、生きていたら僕達はどうしたらいいのだろうか? 場合によっては処分されてしまうのか。記載された内容にどんな生き物なのか書かれていなかったので、どんな生き物なのかもわからない。とりあえず行くしかないか。
座っていた椅子から立ち上がる。すると持ってきていた鞄からぽろりと落とし物をしてしまった。
「ん? なんだ、こんなもん持ってきてたのか」
「あぁ、えっと、今の所使い道がわからないからあれだけど、どこで使えるかわからないから鞄に入れているんだ」
慌ててそれをしまうと次の扉へと向かっていく。果たしてまだその生き物は存在するのか。生きてたとして、僕達に敵対してこないか、どう扱うか……。何が起きるかわからない。慎重に行こう。
扉に手をかける。今のところ何も気配は無さそうだ。何年も放ったらかしにされてたんだ。やはり死んでしまったか? 静寂の中で扉の開く音だけが鳴り響く。そっと中を覗くと、だだっ広い部屋にぽつんと鎧が一式のみ。
あれ? 何もない。ん? 何もないのはおかしいぞ。たとえ死んでたとしても死体がどこかに残ってる筈だ。たかだか数年放置した程度で跡形もなくいなくなるなんてありえない。そしてあの鎧はなんだろう? この空間において異質な存在だ。そして鎧にいい思い出もないので単純にやめてほしい。
とりあえず、入ってみよう。うん。やっぱりどこを探してみても何もいない。何とか逃げられたのかな? それならそれでいいんだけど、結局『生成魔法』の使い手は何を育ててたのか気になるなぁ。
ケルヒと部屋中を隈無く探してみる。勿論、本のあった部屋もだ。最後にあまり触れたくはなかったけど、鎧を確かめてみる事にした。この部屋の唯一の手がかりだ。調べない訳にもいかない。
そして鎧に触ろうとしたその時、ガタガタっと鎧が動き出した! くそっ! やっぱり鎧に碌なもんはない!! あ、嘘です! サラさん!! 鎧最高!! 鎧大好き!! それどころじゃないのにーー!! 段々この締付けも慣れてきたかも……?
おっと、本当にそれどころじゃない。まさかこの鎧が『生成魔法』の使い手が育ててた生き物? なのか?
「ケルヒ、気をつけて! いつ攻撃されるかわからないからね」
「おう、任せろ。そんなぼけっとした事はしねぇよ」
幸いにも部屋はそれなりに広い。戦うにもそこまで苦労はしないと思う。ただ、まだ敵なのかすらわからない。話が通じればいいんだけど。
「ね、ねぇ、君はお話出来るの? ずっとここで独りでいたの?」
暫く沈黙していると、急に右手を前に出してきた。握手でも求めてきたのかな? っとその時、右手が矢のようにこっちに向かって飛んできた!! 間一髪避ける事が出来たけど、あんなの直撃してたら無傷じゃすまなかった。
「ヴァン! 大丈夫か!?」
「避けたから大丈夫!! ねぇ、危ないからやめよ? お話出来ない?」
いつの間にか欠けていた筈の右手が戻っている。どうなってるんだ、こりゃ。出来れば攻撃はしたくない。『生成魔法』の使い手があれだけ愛していた子だ。何とか対話が出来ればいいんだけど。
繰り返し話しかけるが返事は全く帰ってこない。くそ、どうしたらいいんだ!?
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