第十六話 ヴァンって掃除の事になると別人になるもんな! ※掃除回
気がつけば、あんなに暑かった日中もどこからともなく涼しい風が吹くようになり、過ごしやすい季節になってきた。そういえば昨晩の月は、朱より白色が多くなってたなぁ。もう王都に来て、二つの季節を越えようとしてるんだと思うと感慨深くなってくる。
ギルド内の清掃、初の冒険依頼をこなして以来、順調に依頼をこなし続け、清掃業では
次に冒険者として、モヒカン頭さんとよく組みながら、色々な魔物の討伐をしたり、他の冒険者達と一緒に防壁の拡張工事の護衛を受けたりもした。この防壁の拡張工事とは、現在も増え続ける人口が溢れないようにする為、新しい防壁を外側に作っている工事の事だ。どうしても既存の防壁の外での作業になってしまう為、冒険者の護衛を付けながらの作業となってしまう。僕達みたいに二人で活動している冒険者にとって、近場の護衛依頼はとても助かるので、よく依頼を受けさせてもらっている。
ちなみにケルヒの精霊刀『
そしてそんな本日の依頼は僕がメイン。ようは、清掃業だ。そしてこちらが本日のお宅。外見からして外壁には蔦が伸び放題。庭は草がボーボー。如何にも手入れのされていない古めかしい屋敷だった。実はここ、かの有名な『生成魔法』の使い手だった人が住んでいた屋敷だそうだ。病に伏せてから数年間、この屋敷にこもりっきりの生活だったらしい。死後、今回の依頼主である大商人が購入をしたが、毎晩、夜中になると、他に誰もいない筈なのにどこからか歩いてるような物音がしたり、時々、鎧が擦れる音も聴こえてくるらしい。『生成魔法』の使い手はそこの屋敷で亡くなってしまっていた為、すっかりその大商人は気味悪がってしまい、それから手つかずになってしまった。
それではそんな手つかずだった屋敷がなぜ今回清掃される事になったのか。それは、この大商人の息子さんが今度結婚する事になって、住む場所にこの屋敷を選んだからだ。どうもその息子さんは『生成魔法』の使い手のファンで、どうしてもここで暮らしてみたいらしい。けど、親としてはこんな気味の悪い屋敷に息子さん達を暮らさせたくない。というわけで、清掃をしつつ、何か原因がないか確かめてほしいってのが今回の依頼。
今回の依頼は、僕達に直接指名依頼できたんだ。指名依頼とは、読んで字のごとく、依頼者から直接名指しで依頼をしてくる事を言う。清掃業をメインにやってる人で僕達みたいに、戦闘をこなせる冒険者は中々いない為、白羽の矢が立ったらしい。
そんなとこで本日の清掃をスタートしよう! 本当なら外から綺麗にしたいところだけど、物音の原因も調査しないといけないから中から清掃していこうかと思う。まず正面の扉を開けると両面に広がる、メインホール。ホコリを被っているものの、日差しを反射させてキラキラ光るシャンデリアに、色がくすんでしまっている赤いカーペット。中央には室内にも関わらず、噴水があり、流石に今は水が出てないが、もし水が噴き出していれば僕達はきっと目を奪われていただろう。それほど、大きく、存在感のある代物だった。ちなみに物音がするのもこのメインホールらしい。他の部屋とかでは音がする事はないんだって。
それはさておき、ここからスタートしますか。まずは基本的なところから。上から下へ、奥から手前へ。
「スーパーロングノズル『吸引』!!」
定番のロングノズルを利用した『吸引』。天井の端からホコリや、蜘蛛の糸等を吸い取っていく。人が殆どいない筈の部屋で蜘蛛の糸ならともかく、これだけホコリがたまるのはなぜか。今回のケースの場合は、最後にきちんと清掃されてないのもあるだろうけど、最後に通った後のホコリが人がいなくなる事でゆっくり沈殿していき、それが見える様になるくらい溜まって、今目の前にある見えるホコリになる。
例えば、朝起きた時、朝日が差し込んでいるところで服をバサバサさせてみる。そうすると、結構な量のホコリが出てくるのが見えると思う。そこで空気の入れ替えをしたり、人が歩いたりすれば、空気に流れが生じ、そのホコリが移動する。けど、軽い小さなホコリも空気の流れが無くなると、ゆっくりゆっくり落ちて溜まっていくんだ。後は、カビの胞子なんかもホコリになる原因で、住んでいないとどうしても発生してしまうカビは対処しようがない。なので人が普段いない部屋もたまには空気の入れ替え、部屋の中に空気を取り入れる事でカビの発生を抑え、結果的にホコリが溜まりにくくする事が出来る。掃除が苦手な方は、ホコリは空気の流れが止まっているところに溜まりやすいから、そこをメインで清掃するといい。大体同じところに溜まってしまうので。
とまぁそんな事を言っている間に天井の端っこのホコリとシャンデリアのホコリ取りは完了。
そのままいつもどおり、窓枠の上、窓、窓の下と清掃。ケルヒにいつもの拭き掃除をお願いする。流石に慣れたもんで、黙々と作業をしてくれる。いつもと違って静かで若干気味が悪い。
「いや、だってよ、集中してないと怒るじゃんか」
「あれ? そんな事ないでしょ?」
「ヴァンって掃除の事になると別人になるもんな! 戦闘の時に変わってるよりおっかねえわ!!」
心外である。
とまぁ窓はケルヒに任せるとして、僕はこのホールの一番の目玉である、噴水を綺麗にしてみよう。石の性質にもよるけど、柔らかいと簡単に傷をつけてしまうのでブラシや、たわしはむやみに使わない方がいい。上から下なのは変わらず、水を含ませた布で拭いた後、乾いた布で拭くのが基本だ。隙間なんかは指に布を絡めてそれで擦ると案外落ちたりする。薄かったら重ねてやってみると指があまり痛くならないと思う。水垢や、シミはそれだけだと落ちにくいのでそこは柔らかめのブラシで擦ろう。安易に硬いブラシでごしごしやると、そこが傷となり、傷の隙間に汚れがたまるとかえって取り除くのが困難になってしまう。そして、今回みたいに時間が経っているのはこれだけじゃ簡単には落ちない。
そんな時は、こちら! 『酢』である。この方法はサラさんから教えてもらったんだけど、調味料であるこの酢は水垢や、隙間に出来る白い結晶を溶かす効果がある。布に染み込ませ、浸けておくと、結構取れるのでオススメだ!
広い範囲で水垢や、白い結晶が出来ているので満遍なく浸けていく。半分位浸けていったところで、ある一か所にボタンみたいな物を見つけた。
「ねぇ、ケルヒ!! なんかここにボタンみたいなのがあるんだけどなんだろ??」
「お? 何だ、ちょっと待ってろ!!」
どう見ても掃除を始める時より素早い動きでこちらにやってくるケルヒ。これは後で話し合いが必要なようだ。っとそれは後にして、ケルヒがこちらにやってきた。
「ほら、これだよ」
「あぁ、確かにこりゃボタンっぽいな」
どうする……。押して見るべきかな? っと悩んでる間にケルヒが押してしまった。
「ちょっと! 勝手に押さないでよ!」
「わりぃわりぃ。つい我慢出来なくって押しちまったわ。っとこれは……隠し通路か?」
「どうやらそのようだね」
そこに現れたのは、何の装飾もない、真っ白な扉。そうか、噴水の水が流れている間は音がうるさくて気づかなかったんだろうけど、夜間は水を止めてたのかもしれない。そうなると水の音も無くなって、静かになった事で音が漏れたんだ。きっとこの隠し扉の向こうに原因になっている物がいる筈。ちょっと怖いけど、調査してみよう!!
っとその前に残りの部分に酢を浸けておかないとね!
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