第十五話 やっぱベテランって違うな!!
バナナトラップを仕掛けてどれくらい経っただろうか。流石は頭がいいと言われている赤猿、そんなに簡単には引っかからないらしい。けど、その間に角兎が三羽に、碧羊を一頭捕まえる事が出来た。早速、モヒカン頭さんが解体を始めてくれている。仕事が早くて助かるね。けど、これだけじゃまだ赤字になってしまうらしい。荷車にそれなりに積まれてるように見えるんだけどね。やっぱ、人に来てもらうとなると、結構費用がかかるからどちらがいいのか、よく考えないとね。まぁ今回は初めてなのと、狩りの事もついでにモヒカン頭さんから教えてもらえたらな、とも思っていたので勉強になればそれで問題なしだ。
「おい、ヴァン」
小声で僕を呼ぶケルヒ。どうしたんだろう?
その先にいたのは朱猿。モヒカン頭さんが水辺で、碧羊を解体してるところを狙っているみたいだ。まだモヒカン頭さんは気づいていない。
「あ、あぶっ」
「しー!!」
ケルヒにいきなり手で口を塞がれた。
「いきなり何するんだよ。びっくりするじゃないか」
「まぁ、ちょっと待て。いきなり大声出して、そのまま後ろから襲いかかったらどうする? まだあの朱猿はこっちには気づいてねぇ。それだったら俺の『水龍刀』を使えば上手く仕留められるんじゃねぇか?」
あー、確かにここでモヒカン頭さんに襲いかかったら僕達じゃ間に合いそうにない。ホントはそもそもこんな状況を作るべきじゃないんだけど、なってしまったものは仕方ない。今出来る最善をすべきだ。
ケルヒがなるべく、朱猿の近くまで行く。僕は、解体した荷物を守る為に荷車で待機だ。一応無いとは思うけど、これが囮であの朱猿を対処してる間に収穫物を盗られたらたまったもんじゃないからね。周囲を警戒しつつ、ケルヒを見守る。これも大事な役割分担だ。
ある程度まで近づく事が出来た。まだ朱猿は幸いにも気づいていなさそう。ケルヒは『水龍刀』を構える。そしてタイミングを見計らって振り抜いた! 振り抜いた先に水の龍が出てきて地を這うように朱猿へと近づいていく。このタイミングで朱猿も気づいたけどもう遅い。水の龍はそのまま朱猿の身体に巻き付いた。そして、巻き付いたと同時にケルヒも飛び出す。飛び出している間にも水の龍は朱猿の口から体内に侵入しはじめ、呼吸が出来ない朱猿はすっかりパニック状態だ。僕だってあんなえげつない攻撃受けたら冷静でいられる自信はない。何より、龍といっても基本的には水なので掴めない。なので巻き付かれたら最後、引き離す事も逃げる事も出来ないで、後は死ぬのを待つのみなのだ。恐ろしい戦法である。今回は危険を考慮して、ケルヒが飛び出し、首を刎ねるつもりなんだろう。あ、やっぱりそうだ。何とかそのまま無事に首を刎ねる事に成功。
「よし!」
僕は小さくガッツポーズをしていた。何とか成功してよかった。それにしてもモヒカン頭さんは最後まで動揺しなかったな。まるで最初からわかってたみたいに……。
もしかして朱猿が自分に近づいてきてる事も、それに僕達が対応してた事も気づいてた? そして気づいてた上で、動かないで待ってたとか。けど何でそんな事をしたんだろ?
ケルヒはそのまま警戒しつつ、モヒカン頭さんと無事合流。そのまま二人でこちらに向かってきた。あのケルヒの気まずそうな顔はやっぱ僕が考えてた通りだったようだ。そして、そのままモヒカン頭さんが説明を始めた。
「がきんちょ共は初めての狩りだって事務員が言うからよぉ! ちょっくらテストさせてもらったぜえ! まぁ何とか及第点ってとこだなぁ。まず二人しかいねえんだから、しっかり役割分担決めろや。そして
やっぱりそうだったか。十年もやってるベテランがあんな呑気に解体してる事自体がそもそもおかしかったんだ。及第点って言ってくれてるけど、実際はまだ赤点だな。何とか対処出来てたからよかったけど、もし朱猿が複数匹だったり、水の龍が先に気づかれて、万が一避けられてたらどうなってたかわからなかった。やっぱり気持ちが浮ついてたんだな……。反省しないと。
「ちなみにだけどなぁ、そもそもバナナってのは、朱猿食わねぇから意味ねぇぞ? 朱猿は肉食だからな! 調査不足だ、がきんちょ共!!」
「「え!?」」
まさかのそこから間違ってたのか。うわぁ恥ずかしい。猿はバナナを食べるって勝手に想像してた。そうだよね。たとえ猿だろうと、必ずしもそれを食べるとは限らない。これからはもっと事前に調査しなきゃ。
「色々教えていただきありがとうございました。勉強になりました!」
「ありがとうございました!!」
二人揃って頭を下げる。
「バーロー! ガキンチョ共はまだひよっこなんだから気にすんじゃねえ! それよりもまだ朱猿は一匹しか狩ってねぇんだぞ! 今解体した碧羊を餌にしてもっと討伐しろや!!」
「わかりました!!」
「おう、頑張るぜ!!」
その後、朱猿の群れが碧羊を囮にしたトラップにかかってなんと合計七匹も討伐出来た。まだ森には朱猿が残ってるかもしれないけど、そろそろ時間的にも厳しくなってしまったので、王都に戻る事にした。帰りは、モヒカン頭さんに狩りのノウハウを教えてもらいながら走り(僕達は荷車に乗って)無事王都まで戻ってくる事が出来た。
「おう! お疲れさん!! 初めてで朱猿を七匹たぁてぇしたもんだ!! がきんちょ共は立派に冒険者になってるぜ! 俺が保証してやる!!」
そう言ってもらえると嬉しい。けど、実際にはモヒカン頭さんを危険に晒したり、事前準備がしっかり出来てなかった。朱猿の狩りは幸いにもそこまで苦労しなかったからよかったけど、それ以外はまだまだだったと思う。
「ありがとうございました。狩りのノウハウも教えていただけましたし、本当に勉強になりました」
「ありっす!!」
「おう、いいってこんよ! これからも頑張れよ!! あと、ギルドへの報告忘れんじゃねぇぞ! 狩った物だきゃ、俺が運んどいてやっからよ!!」
「助かります。あ、けど僕達もこのままギルドへ行くのでご一緒してもいいですか?」
「おう! また荷車にでも乗ってくれい!!」
「いや、それは流石に恥ずかしいので一緒に歩かせて下さい」
流石に王都の道の真ん中で荷車に乗ってる姿はちょっと恥ずかしい。僕達も冒険者だ。疲れて歩けない訳じゃないんだからしっかり歩かないと。
「そうかそうか! じゃああとちょっとだけよろしくな!!」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくっす!!」
まだまだモヒカン頭さんと話がしたいしね。やっぱ十年もやってるとためになる話ばかりだ。どんなに強い力を持ってたとしても、それを扱う頭がないと意味がない。モヒカン頭さんは見た目だけじゃなく、知識も凄い。学べる事はいっぱいある筈だ。
こういう時間ってあっという間だよね。もうギルドが目の前だ。そこでモヒカン頭さんとお別れした。次もまた呼んでくれって気さくに言ってくれて嬉しかった。こういう出会いっていいよね。かけがいのない宝になると思う。眼鏡美人職員さんにも感謝しなきゃ。
そんなこんなで眼鏡美人職員さんの前まで到着。採った素材はモヒカン頭さんがギルドに渡してくれているので後日、精算になる。なので今回の報酬は朱猿が七匹分の討伐報酬のみだ。
「まず、無事に帰ってきてくれてよかったわ。それに、予想以上に狩ってきてくださり助かりました。明日からは他の冒険者も依頼を受けてくれたので朱猿の数も少しは落ち着いてくると思います。本日は真にありがとうございました。」
「いえ、僕達も初の依頼が無事達成出来てよかったです」
「ホント! 安心したぜ!! それにしてもあのモヒカン頭のおっちゃんすげぇな! やっぱベテランって違うな!!」
「本当だね。知識も経験も僕達とは桁違いだ。色々教えてもらえたし、今日は依頼より、むしろ話を聞けた事が一番の収穫だったかもね」
「それはよかったです。あの方はちょっと見た目は変わってますが、面倒見がいいので、新人さんの評判もいいんですよ」
「やっぱりそうなんですね。よろしく伝えておいていただいてもよろしいですか?」
「あー! 俺からも、よろしく! って言っておいてください!!」
「ふふふ、かしこまりました。それでは報酬を口座に入れますので、プレートを貸していただいてもよろしいですか? あ、報酬は等分でよろしいですか?」
「わかりました! 報酬は等分で!」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
そして無事、報酬をもらってギルドを出た。何とか初依頼が終わってよかったよ。今日はこのまま大衆浴場にでも行って、ギルド食堂でご飯食べたら、はやめに寝ようかな。流石に疲れちゃった。
「何とか無事に依頼達成出来てよかったね」
「そうだな。けど、まだまだ俺達の力不足もよくわかったし、これからも頑張っていかねぇとな」
「うん。そうだね。本当に力不足だなぁって思ったよ。だからこそ頑張っていかないとね」
まだ僕達は冒険者になったばかりだ。これからどんどん頑張るぞ!!
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