掃除機魔法が全てを吸い尽くす！！

第十四話 俺に任せときゃーーーーー大丈夫よっ！！

「おい、あれが噂の掃除人（スイーパー）か。可愛い顔してえげつないらしいぜ」

「らしいな。ほら見ろ、あの仲間の顔。死んだような目をしてるぜ」

　ん？　誰かおかしな事を言ってるな。そういえばサラさんも掃除人（スイーパー）がどうのって言ってた気がしたな。あれってどういう意味なんだろ？　それにしても仲間に死んだ目をさせるひとい奴なんてどこにいるんだ？　もしそんな人が身近にいるなら気をつけなきゃ。

「……お前の事だよ」

「え？　ケルヒどうしたの？　何か言った？」

「いや、何でもない」

　変なケルヒ。そういえばここ最近ケルヒの元気がないな。どうしたんだろう？

「仕事始めてから一週間経って、無事、給料も入ったし、それに、蒼狼と双頭鷹の素材を売ったお金も入ったから、やっと狩りに行けるね」

「お、おう！　そうだった。今日は掃除じゃないんだ。狩りだ！　もう解放されたんだ。もう掃除なんかするもんか」

　お、やっと少しは元気が出た。それでこそケルヒだよ！

「って言ってももう次の掃除の予約も入ってるんだけどね」

「…………」

　あれ、ケルヒが黙っちゃった。コロッコロ変わって情緒が不安定だな。何か考え事でもあるんだろうか。あれか、眼鏡美人職員さんにどうやってお近づきになるかでも考えてるんだな。きっとそうだ。

「まぁ、今日は初めての狩りで魔力がどうなってるか確かめたりもするから、近場でなるべく安全な場所で狩りをしてみよ？」

「そうだな。ギルドで何か依頼がないか聞いてみようぜ」

　早速冒険者ギルドへ。今日もすっかりお馴染み、眼鏡美人職員さんだ。どうも眼鏡美人職員さんが僕達の担当になってくれたらしい。ギルド側で円滑に依頼を行えるようにする為に、一部の人にそういう担当を決めてるらしいよ。

「おはようございます。今日もギルドの掃除ですか？」

「それでもいいんですけど、今日は冒険者として、外に狩りに行こうかと思ってます」

「やっぱ、まだ掃除もするんだよな……」

「そんなに楽しみなの？　狩りはやめて掃除する？」

「いや！　今日は狩りだ！　狩りって言ったら狩りだ！！」

「もう、わかったよ。ってな訳でどこかいい依頼ありますか？」

「ふふふ、そうですね。南門から出て、少ししたところの森に朱猿が出るらしいのでその討伐に行けませんか？　国営乗合便の荷物を狙うらしく、被害は今のところ無いのですが、今のままでは被害が出てしまう恐れがあります。本当はその場で討伐出来ればよかったのですが、頭がいいので、危険を察知すると逃げられてしまうんですよね。護衛の騎士さん達や、冒険者達だと深追いまでは出来ないので討伐出来なくて困ってたのです。本当なら九級になってからでないと駄目なのですが、蒼狼や双頭鷹も討伐されてますし、お二人なら大丈夫だと思うのです」

　ちなみに蒼狼は単体なら十級。群れであれば七級、双頭鷹は単体で六級。群れであれば三級が狩る目安らしい。双頭鷹の等級が高いのは、サイズ、獰猛さ、飛行能力の高さからだ。一応目安であって、狩ってはいけない訳ではない。ただし、そこから先は自己責任になってしまう。

「それでは、その依頼を受けてみます。ケルヒもいいかな？」

「おう！　いいぜ！！」

「かしこまりました。報酬は討伐匹数で換算させていただきますね。運搬役（ポーター）もギルドからレンタルする事ができますがどうしますか？」

　運搬役（ポーター）か。僕達二人だけじゃ魔物を狩っても運べないもんね。けど朱猿って何か獲れるのかな？

「えっと、朱猿からは何か素材は獲れますか？」

「基本的には食用にはなりませんし、皮も硬い為、あまり使い道はありません。その代わり、その朱猿がいる森に魔物ではありませんが角兎や、野生の羊なんかが出るので、そちらを狩れば十分利益が出るかと思います。ギルドの運搬役（ポーター）であればその場で解体も出来ますので連れて行って損はないと思いますよ」

「朱猿にそこまでの価値はなくても、その周りの動物を狩ればいいって事ですね。うーん、ケルヒどうする？」

「俺達じゃまだ解体は出来ねぇし、もし狩って捨ててくとなると勿体ねぇから頼んだ方がいいんじゃねぇか？」

「そうだよね。じゃあお願いします」

　こういう提案って凄く助かるよね。僕達みたいな新人って何も知らないんだし。ギルドって頼りになるなぁ。何事も相談って大事だよね。

「かしこまりました。それでは、いつ頃出発なさいますか？」

「えっと、運搬役（ポーター）さん次第でいつでも行けます」

　いつでも行けるように準備はしてきたつもりだ。何より、ケルヒがもう我慢出来そうにない。

「かしこまりました。ただいま、空いている運搬役（ポーター）がいないか確認してきますね。少々お待ちください」

　出来れば優しそうな人に出会えたらいいなぁ。どんな人が来るのかな？

　暫くすると眼鏡美人職員さんと一緒にねじり鉢巻を巻いたモヒカン頭がやってきた。

「おうおう！！　今日行きてえっていうがきんちょ共はこいつらか！！　任せとけ！！　俺がどこまででも走ってってやるぜ！！」

　個性が強い！　この人で大丈夫なのかな？

「ちょうど一人空いてましたので、連れてきました。このギルドの運搬役（ポーター）を始めて十年目のベテランさんです。」

「俺に任せときゃーーーーー大丈夫よっ！！」

親指をぐっと上げる。眼鏡美人職員さんもぐっと上げてる。可愛い。ケルヒと目を合わせる。うん、とにかく頑張ってみようか。

「「よ、よろしくお願いします」」

　やってきました、南門。荷物を背負い、集合場所で、モヒカン頭さんが来るのを待つ。

「あのモヒカン頭の人、大丈夫かよ？　心配になってきちまったんだけど」

「うーん、あの職員さんが紹介してくれる位だから悪い人じゃないんだろうけど、ちょっと不安にはなるよね」

　人は見かけによらないって言ってもやっぱり不安なものは不安である。あの見た目もそうだけど、何ていうかやんちゃっぽい。真面目にやってくれるのかな？　そんなこんなで待ってると、荷車を運びながらモヒカン頭さんがやってきた。

「おう！　待たせたな！！　それじゃ出発すっぜ！！」

　そう言うといきなり走り出した。あれ？　僕達より速くない？　てか置いていかれる？

「ちょっと待ってくださーーーーーい！！」

「おい、待てよおおおおおおおおお！！」

　あぁ、先行きがやぱり不安だなぁ。

　なんとか追いついて、止まってもらった。これだけで大分体力を消耗してしまった気がする。

「ハァハァ。あぁ、追いつけてよかったです。是非、是非一緒に行きましょうよ」

「ハッハッハ！　わりぃな、がきんちょ共！　ついつい荷車のハンドルを握っちまうと走りたくなっちまうんだ！」

「やべえおっちゃんだな……」

　ははは、ホントそのとおりだよ。

「まぁ少し走って落ち着いたからよ、もう大丈夫だぜ。それにあれだけ走ったからもうちょっとでお目当ての場所に着くぜ！」

　あぁ、そんなに走ってたのか。そりゃ疲れてる訳だ。

　そして、着きました、依頼の森。街道沿いにあるから確かに狙われると大変そうだ。これが冒険者としての初依頼だし、気合いを入れて頑張ろう！

「おう！　がきんちょ共。そんなに肩に力を入れんな。始める前からそんなんじゃ身が持たねぇぞ！！」

「は、はい」

「お、おう」

　気が付かない内に僕達は力が入りすぎていたようだ。最初だからこそ、力を抜かないと。

「そういや、朱猿はどうやっておびき寄せるつもりなんだ？　そんなに広い森じゃ無いけどよぉ、歩いて探すんじゃ結構苦労すんぜ？？」

　おっしゃるとおり。だから僕達は今回、これを用意してきた。その名もバナナ！　猿の大好物だ。これを使っておびき寄せるつもりだ。

「やっぱりベテランなだけあって、僕達の事よく見てくれてるね」

「そうだな。人は見かけによらないってやっぱ本当だな」

　ヒソヒソ話をしながら進んでいく。僕達の後ろには運搬役（ポーター）がいる。僕達二人で、運搬役（ポーター）を守りつつ、獲物を探さなければいけない。

「あ、そういえば、もう森の中だしケルヒもコロを召喚して、刀になっておいてよ。いつ戦闘になるかわからないしさ」

「そうだな。『召喚』」

　そこに現れたのは、手のひらサイズの幼女。ケルヒがロリヒャーたる、所以だ。まぁ確かに可愛いとは思うんだけどね。

「コロコロ〜♪」

　久しぶりの外なのが嬉しいのかケルヒの肩で踊りだしている。なかなか可愛い。

「コロご機嫌だね。久しぶりに外に出れたから嬉しいのかな？」

「そうかもな。この前までは掃除ばっかだったから出せてなかったし」

　そう、移動中は、訓練を行ってたからコロを出す機会が多かったんだけど、掃除の仕事をやってる間はケルヒの『精霊魔法』を使う事もないから、ずっと『召喚』してなかったんだ。こんなに嬉しがるなら今度から清掃の仕事も手伝ってもらおうかな？

「おい、清掃するのにコロは巻き込むなよ？　俺のコロが死んじまう」

　俺のコロですって、奥さん。っとそんな事をしている間にコロが青い葉っぱを食べていた。するといつものように光って収まった頃には一本の蒼い刀が刺さっていた。ケルヒがそれを引き抜く。そしてケルヒの片方の瞳が紫色から蒼色に変化している。大変香ばしい。

「精霊刀『水龍刀（すいりゅうとう）』。この刀は、異界にいるとされる応龍の力を借りた刀だ。それにしても『召喚』もスムーズに出来たな。やっぱ魔力上がったかも」

　やっぱりケルヒも上がってたか。こうやって成長が具体的にわかるのっていいよね。そしてケルヒが持ってる刀。白く波を打ったように見える刃文青い刀身。鍔には蒼い龍が描かれており、おそらくこの蒼い龍が応龍なんだと思う。これで精霊刀も三本目だ。一体何本あるんだ？

　これで準備は完了だ。いつでも朱猿と戦えるぞ。無事初任務を成功させられるように頑張るぞ！！