第十三話 見よ! これが『掃除機魔法』の力だ!! ※掃除回

 窓から差し込む日差し。僕は、一つしかない少し小さめの窓を開けた。朝の爽やかな風が僕を包み込んでくる。うーん、気持ちのいい朝だ! 今日は初仕事だから気合い入れて頑張ろう!!


「ケルヒー! 朝だから起きてー!!」


 ケルヒは朝が苦手らしくなかなか起きれない。けど、今日は仕事が待ってるんだから起きてくれないと困るぞ。ここはどうやって起こそうかなぁ。頬でも吸引してみようかな?


 そっと右手をケルヒの頬にあてる。あんまり強いと可哀想だから弱めにしとこうか。


「『吸引』」


「ぎゃぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 プッ。何これ面白い。ケルヒ、変な顔! 


「お、おひ! やめほ! おひははら! もほおひははら!!」


 おっといけない。やりすぎるところだった。あ、ちょっと手遅れかな? 吸った頬だけ形が変わっちゃってる。


「あははははは! ケルヒおはよう! いい朝だね!!」


「お。おう。びっくりしたぜ。次からはもうちょっと優しく起こしてくれよな」


「ちゃんと起きなかったら次もやっちゃうかもしれないからね!」


「か、勘弁してくれよぉ」


 よし、今日も一日頑張るぞ!! とりあえずはまず、朝食だ!! 腹が減っては戦は出来ぬ! だね!!








 昨日の食堂で朝食をがっつり食べ、ギルドへ向かった。それにしても朝食も物凄く美味しかった。外に出れば、他にもお店があったりするけど、これじゃあ他で食べる機会が一生こないんじゃないか……? そんな贅沢な悩みを持ちつつ、ギルドに入っていく。今日入るのは商業用のギルドだ。内装は冒険者用と殆ど変わらない。並んでいる人は商人っぽい人だけではなく、意外と冒険者っぽい人も多い。僕達みたいな人もいるんだろうけど、そもそも冒険者は危険がつきものな職業だから、途中で引退してしまう人も多い。そうなると次は冒険者の代わりになる職業を探す事になる。そうなると自然と冒険者ギルドから商業者ギルドへ移動していくのだ。それに結局契約するには商業ギルドを通す必要もあるしね。


 とまぁちょっと話は逸れてしまったけど、そんな感じで冒険者もそれなりにいる商業者ギルドで順番を待つ。暫く待つと僕達の順番になった。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


 今日は、若そうなお兄さんが対応してくれた。


「えっと、今日からこちらで清掃の仕事をさせていただく、ヴァンとケルヒと申します。ギルドに来たら、こちらに声をかけて欲しいとの事だったので、声をかけにきました」


「少々お待ち下さい。確認して参ります」


 やっぱどの人を見ても仕事が出来そうな雰囲気だ。周りを見てもサボってる様子の人はいないし。みんな優秀って事なんだろうなぁ。


「おまたせしました。ヴァン様、ケルヒ様。こちらへどうぞ」


 昨日契約した時に担当した人がやってきて、ギルドの中へ案内してくれる。


「一応規約にも記載しておりますが、基本的に必要な時以外、ギルドにある物に触らないようお願いします。もし、規約を破った場合、罰金刑、重いものになりますと禁固刑に処せられる恐れがあります。くれぐれもお気をつけ下さい」


「は、はい。気をつけます!」


「気をつけます!!」


 ちなみに今回、仕事道具は貸し出しだ。まぁ僕は最初から使わないからいいけど。ケルヒは必要だから途中で寄って借りていく。


 そして現場にたどり着いた。見た感じは、物置? なのかな。重要そうな書類とかは無さそうだ。まぁ初めてやらせる人に大事な物は置かないだろう。まだ僕達とギルドでは、信頼関係が結べてないからね。そして現場には一人、身長が高いのっぽなおじさんが待っていた。今日一緒にやる人かな?


「本日の最初の清掃場所はこちらです。こちらの方と一緒に清掃を進めて下さい。この部屋が終わりましたら、次の部屋をそのままお願いします。次の部屋につきましては、こちらの方が案内してくれます。今日の担当箇所が終わり次第、本日の業務は終了となりますので、最後にギルドへ声をかけてからお帰り下さい」


「「よろしくお願いします!!」」


「よろしく」


 おとなしそうな人だな。身長が僕より二十センチ位は高いだろうか。のっぽおじさんだな。


「それではよろしくお願いします」


 商業者ギルドのおじさんは他にも仕事があるのか、出ていってしまった。うーん、とりあえずこれからどうするかのっぽおじさんに聞いてみよう。


「今日からよろしくお願いします。僕はヴァン、連れはケルヒです。よろしくお願いします」


「よろしくっす!!」


「よろしく」


 うーん、やっぱり物静かだ。どう声をかけて進めていこうか迷っていると意外にものっぽおじさんから声をかけてきてくれた。


「おまえら、掃除、やった事、あるか?」


「あ、はい。僕の『恩恵』が『掃除機魔法』でして、掃除は一応得意な方だと思います」


 実際に、『掃除機魔法』に慣れてからは自分で部屋と、用水路の部屋、ついでに廊下まで掃除してたからね。


「俺は、宿屋の息子だからな。掃除はよく手伝わされたもんだ。だからある程度は出来ると思うぜ! あ、思うです」


「……そうか。どれくらい出来る、わからない。だから、この部屋、掃除してみてくれ」


 あぁ、なるほど。僕の実力を試してるって事だね! ふふふ、『掃除機魔法』の力見せてやる。


「任せて下さい!! よし! ケルヒ、やるぞ!!」


「お、おう!」


 何でケルヒが若干引いてるんだよ。もっと熱くなれよ!!


「じゃあとりあえず奥から順々にやっていこう。僕が上から下にどんどんホコリを取っていくから、その後をケルヒが追いかけるように掃除して。ケルヒは主に、窓や机を拭いてくれるかな? その辺のホコリも先に吸っちゃうから、濡らした布で拭いてその後に乾いた布で拭くだけでいいよ!」


「りょ、了解しました!!」


 それじゃあはじめましょうかああああ!!


 まずは天井の端から。これは比較的簡単だ。箒で払うだけで十分に落とせる。次に高い位置になるのが照明。こいつの方が面倒なんだ。今回あるのは傘タイプで、おしゃれではあるけど、形からしてホコリがたまりやすい。半透明な物が多い為、ホコリがたまるとそれが一段と目立つ。掃除するには脚立を使って上まで上るか、羽根箒で叩いて落とすのが一般的だと思う。


 ちなみにこの照明は魔道具だ。細かい事は説明する時間がもったいないからしないけど、色々な便利グッズがあるんだよ、っていう程度で覚えておけばいいと思う!


 よし、まずはこの照明を片付けるぜ!


「ロングノズルタイプ! 『吸引』!!」


 あれ、何か前より魔法が使いやすくなってるし、魔力が上がってる気がする。


「あ、そっか。この前の双頭鷹を討伐して魔力が高くなってるのか」


「あ? あぁ、あれだけの双頭鷹を狩ってれば流石にわかる位はあがるわな。俺もあれから魔法使ってないからわからないけど、多分上がってるんだろうな。狩りの時が楽しみだぜ」


「そうだね、狩りの時に改めて魔力がどれくらい上がったか確かめようか」


 おっと、今は掃除だ。このロングノズルタイプは、目には見えないけど、僕の右手から照明に向かってL字になって細長い空気の流れが出来ている。その流れが照明の傘まで到達すると、傘の上からどんどんとホコリを吸っていく。


 おぉ、どんどんホコリがなくなっていく。気持ちいい。ちなみにこういったロングノズルにも種類がある。先が細いのや、ブラシタイプ等、その時の用途で使い分けする方がいいだろう。ブラシタイプにするとホコリは取りやすいけど、その分、先が大きかったりするので、女性には重かったりする。無理に吸うより、羽根箒で落として吸わせた方が結果的に楽な場合もあるので気をつけよう。


 あっという間に照明はピカピカだ! 油を使う部屋じゃないから今回は拭く必要は無さそうだ。次は窓! まずは窓枠の上だ。ここは同じ方法で大丈夫なのだが、問題はカーテンレールだ。実はカーテンレールの中も結構汚れがたまってたりする。あまり気にならない部分だからこそ、気づかないのだが、開閉した瞬間にホコリが舞ってしまう事もある。ここは流石に『掃除機魔法』でもどうにもならない。今回用意するのはこちら。適当な木の枝と布、そしてそれを巻くための紐だ。これだけあればただの木の枝が、他の細かいところのホコリも全部取ってしまう、魔法の棒に生まれ変わる。


 早速隙間に巻きつけた木の枝を差し込む。ここか! ここがええんか!! ごっそり取れたホコリは『掃除機魔法』で吸っておく。


 よし、次だ!!


「ケルヒ! 窓拭き頼むよ! 下から上に! 端っこを残さず拭いてね!!」


「か、かしこまりました!!」


 その間に次の獲物に取り掛かる。その獲物とは机だ! 机の上って物が意外とあって、物をどかして掃除するのって結構めんどくさい。そのまま吸うだけだと物の隙間にホコリが結構残ってしまう。そんな時はこちら! 


「ハンディチューブ付き『吸引』!!」


 庶民の味方。ハンディタイプ。しかもこれはメインの他にチューブがあって、先っちょにブラシが付いたタイプだ! これを伸ばして物の隙間のホコリを吸っていく。ふふふ、逃げ場などないのだよ。広い面にはメインブラシ、物の隙間にはチューブのブラシ。これで完璧だぜ!!


 最後に床だ! 床に落ちているゴミで多いのがホコリ、砂、そして髪の毛だ。一般的な『掃除機魔法』だと、ホコリ、髪の毛はどうにか出来ても、砂は難しい。そこで使うのがこれだ!


「集塵機『吸引』!!」


 読んで字の如く。塵を集めるやつだ。水も吸うことが出来て、吐き出せるドレンもしっかり付いている。馬車や、鎧車の中を掃除するにも最適だ。馬車や、鎧車を自分で掃除するのにこだわりがある人は持ってて損はないと思う。お値段も結構ピンきりなので、一度調べてみるといい。


「うおおおおおおおおお!!」


 見よ! これが『掃除機魔法』の力だ!!


 ちなみに掃除機のローラー、僕も吸う時はローラーが回転しながら吸うんだけど、そのローラーに髪の毛って絡みやすいよね。あれの一番簡単な取り方は単純だけど、ハサミだ。あまり長い時間放置しておくとハサミでも取りきれないので、その前にこまめに取る事をオススメする。その方が結果的に楽になる。ちなみに最近ではローラーに髪の毛が付かないやつもあるらしいけど、未使用なのでどんな感じかわかりません。どなたか使ってる人がいれば感想ください。まだお値段が高くて手が出せません。


 という感じでこの部屋のおおまかな部分の掃除が終わった。


「あれ? 二人共何でぼーっとしてるの? 特にケルヒ、まだ終わってないじゃんか。はやく終わらせて次行くよ!!」


「あ、あぁ……」


 よしよし! 次の部屋もあるんだからどんどん頑張ってくぞ! えいえいおー!!





 その後、残りの四部屋をすぐ終わらせて、ギルドに報告した。あまりに早かったので最初は疑われたけど、のっぽおじさんが説明してくれたらすぐに信用してくれた。のっぽおじさんへの信用が厚い。ギルドでのっぽおじさんと別れて僕達は、汗を流した後、ギルド食堂で食事を食べて明日の仕事の為に早く寝た。


 余談だけど、次の日に、賃金四倍にするから、代わりに部屋が昨日の三倍の十五部屋やってくれないか? と言われた。勿論僕は、すぐにオーケーを出し、なぜかケルヒの目から光りが消えたように見えた。十五部屋位、僕とケルヒなら余裕だよね。冒険者になるんでしょ? ほら、頑張るよ??


 元気の無いケルヒを連れて、今日も僕達は、ギルド内を清掃して歩き回る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る