第十二話 あ、あふぃがふぉおごふぁいまふ!!
無事に引っ越しも終わったし、今日はこれからの仕事についてギルドに相談しに行こう。
とりあえず冒険者ギルドへ。掃除屋さんって雇用契約しての仕事だから商業者か迷ったけど、とりあえず登録している冒険者ギルドに来てみる事にした。
相変わらず、混雑しているギルド。今日は正面の方が空いていたので、そちらに並ぶ事にした。
暫くして僕達の順番になり、そして目の前にいたのは、登録したときのケルヒの想い人、眼鏡美人職員さんだった。
「あら、ヴァン様、おはようございます。本日はどういったご用件で?」
「おはようございます。今日は先日言ってたギルドの清掃の契約について相談にきました」
「あぁ、あれですね。えっと、ギルドとの雇用関係を結ぶ事になります。先に商業者ギルドも登録しなければいけなくなるので、プレートをお借りしてもよろしいですか? 勿論、お連れ様もです」
いつもの優しげな微笑みを見せる。もうケルヒはメロメロだ。
「は、はいい。これだ、ですね」
予想以上にケルヒがやばい。面白すぎる!
「うっせえ! ニヤニヤすんじゃねえ!」
「だってさ、いくらなんでも……」
「ふふふ、ありがとうございます」
なんという大人の余裕。まぁこれだけ美人なんだからこういうのも慣れてそうだもんね。
「お、俺は負けないぞ……!!」
頑張れ、ケルヒ。
プレートを渡したらそのまま裏の方へ消えてしまった。ソワソワしながら暫く待っていると、眼鏡美人職員さんが戻ってきた。後ろにこれまた知らないおじさんがいて、こちらに挨拶をしてくる。
「はじめまして。商業者ギルドの者です。この度は、ギルドの清掃の契約の件で伺わせていただきました。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
「はい。それでは先に、商業者ギルドの登録の完了と、口座の開設の完了の報告をさせていただきます。口座は、真に勝手ながら、こちらで開設させていただきました。理由といたしましては、依頼が達成された際の入金が口座のみだからです。お金を下ろしたい時には、商業用の窓口で必要金額を言って下さい。清掃契約についてですが、とりあえず一週間程度を様子見として考えていますがいかがでしょうか?」
段取りがいい。こちらでお願いしたい事を全部やってくれた形だ。ギルド職員に就職した人が多い訳だよね。騎士様の時もそうだけど、仕事が出来る人って憧れちゃうな。
「大丈夫です! 何から何までありがとうございます。えっとちなみにですが、働き始めはいつからになりますか?」
「ご希望の日にちはございますか?」
「えっと、可能であれば明日からでもいいんですけど……」
どうせ暇だし、お金を貯めないとだからね。
「それでしたら明日からでもかまいませんよ」
「ホントですか? 助かります」
「ギルドも広いですからね。どうしても清掃する範囲も広いので、こちらとしても人員が増えるのは助かります。あ、こちらには雇用条件の紙が書かれてますので先に読んでいただけますか? もし、この内容で納得いただけましたら契約の為のサインをよろしくお願いします」
登録した時に使った板と紙をこちらに向けてくる。ん? これはどうしたらいいんだ?
「あ、失礼しました。こちらをまだ使用した事がないんですね。こちらのペンを使ってこの板に名前を書き込んでいただけましたら契約は完了します。ペンを持ってる方の魔力に反応してますので、他の方では勝手に契約をされたりはしませんのでご安心下さい」
何て便利な機能!! 契約に紙すらいらないなんて……。この板さえあれば何でも出来そうだね。僕も欲しいなぁ……。
紙には時間と賃金、ギルド内の物を万が一見てしまった場合の守秘義務等、ずらずらっと書かれていた。当然ギルド内には人に見せられないような書類等もたくさんあるのだから当然の話だ。ケルヒにも見せて、二人共納得出来たので板にサインをした。
「ありがとうございます。それでは明日からよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いっす」
ケルヒの緊張がなかなか解けないな。まぁ慣れてくれば大丈夫かな? まぁ、無事仕事も見つける事が出来たし、順調なスタートを切れたんじゃないだろうか。明日から頑張るぞ!!
その後、ギルド職員の二人と別れて、ケルヒと昼食を食べに行った。場所はギルド寮の食堂で、新人の冒険者向けだから安くて、早くて、多いらしい。せっかくだし、一回位食べてみたいよね。
食堂に入ると、恰幅のいいおばちゃんが声を張り上げながら配膳をしていた。
「はい、いらっしゃい!! おや、初めてみた顔だね。新人さんかい?」
「はい! 昨日登録したばかりで今日からここでお世話になります。よろしくお願いします」
「よろしくっす!!」
「元気があっていいね! ほら、好きなところにおすわり!」
「はい! ありがとうございます!!」
適当な席に二人で座っていると、水を持ってさっきのおばちゃんがやってきた。
「はい、お水!! 今日は、何にするんだい? もしよかったら最初はうちのオススメを用意しちゃうけどどうだい?? 後悔はさせないよ!」
「それは助かります。正直何を選べばいいのかわからなくて……。ケルヒもそれでいいかな?」
「おう! おばちゃん! そのオススメ頼むぜ!!」
「任せときな!! あんた!! とっておきを出すよ!」
「…………」
旦那さんかな? 一言も喋らないで黙々と料理を作っている。
「悪いね! うちの旦那、ちーーっとも喋らないからさ。けど味は保証するから楽しみに待ってておくれよ!!」
「はい、楽しみにしてますね」
「俺も楽しみにしてるぜ」
とっておきってどんな料理が出てくるんだろう? 今までこういうところで食べた事ないし、ワクワクしてくる。昨日の宿は適当な店から買って来たのを宿で食べただけだったからこういうのは新鮮だ。
「んっんっ! プハァー! あー、何だかこの雰囲気、俺んちを思い出すぜ」
「あ、そっか。ケルヒの家って宿屋なんだっけ?」
そう、ケルヒは宿屋の三男坊で、確か宿屋を継げないから冒険者になったって話だったよね。
「そうそう! あのおばちゃんなんて俺のおふくろに雰囲気がそっくりだったぜ! 親父はあんなに静かじゃねぇけどよ」
「ケルヒのお母さんか。どんな人なの?」
「ただのうるせえババアだ。顔見りゃ、店を手伝え! 手伝え! ってうるさくってな。離れられてせいせいするぜ!」
そんな事言ってるけど、嫌いだった訳じゃなさそうだな。あのおばちゃんを見てる時の目がちょっと優しいもん。
「そういや、ヴァンのおふくろはどうしてんだ?」
「え、えっとね、ちょっと言いにくいんだけどね。僕が小さい頃にもう亡くなってるんだ」
お母さんの事は、今でも昨日の事のように思い出せる。笑顔で優しく頭を撫でてくれた事。毎朝起こしてくれた事。全部僕の中の大事な思い出だ。
「お。おう。そりゃわりぃ事聞いちまった。ごめんな」
「いいんだよ。気にしないで。その代わりにケルヒはお母さんの事を大事にしなよ?」
「ま、まぁたまには顔くらいは出すつもりさ」
ちょうど話の区切りがついた頃に、おばちゃんが料理を持ってきてくれた。中身はなんとステーキ! これどんだけあるんだろう? 鉄板から溢れるんじゃないかって程の肉汁に、肉の焼かれる音は見る者の食欲を掻き立てられてしまう。そして塊肉のインパクト。思わずゴクッとつばを飲み込んでしまった。
「さぁ若いんだからたっぷりお食べ! 今日は特別だよ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
「あ、あふぃがふぉおごふぁいまふ!!」
ってもう食べてるし!! 僕ももう我慢出来ない!! これだけ大きな肉だ。せっかくだから大きく切って食べよう。……うわぁ。ナイフが肉の中に簡単に入っちゃう。そしてこの肉汁。匂いだけでパンが食べれそう。
ではいただきます!!
柔らかい! 何これ! 噛まなくても飲み込めるんじゃないか!? それにこのソースは何? ちょっとピリ辛なんだけど、その辛さがたまらない! 次から次へと肉を口へ運んでしまう。くそっ! もっと味わう予定だったのに! もう一切れしかないなんて!!
思わず旦那さんの方を見てみると、無言のまま親指を上げていた。流石です。おやっさん。
ソース一滴も残らず食べ切った僕達は、夫婦にお礼を言って外に出た。あんなに美味しい肉は初めて食べたかもしれない。うっ!! 久しぶりのこの感触!! いや、勿論サラさんの料理が一番です!! ……油断も隙きもあったもんじゃないな。
その後は、王都の事を知る為にブラブラ歩き回ってみた。といっても僕達はそんなにお金の蓄えもないから見るだけだったけどね。雑貨や、武器屋など。王都の外に出るなら保存食なんかも必要になるから市場も簡単にだけど、見て回った。何もかもが新鮮で有意義な時間を過ごせたと思う。ホントはもっと色々見ていたかったけど、明日から仕事だったのではやめの帰宅。帰りには大衆浴場に寄って、汗を流してきた。やけに周りの視線が怖かったけど、どうしたのかな? その視線の中にケルヒも混ざってたけど問いただしてみ
るべきかな? うーん、聞かない方がいっか。
そんなこんなでもう寝る時間になった。ふふふ、明日は『掃除機魔法』が唸るぜ!!
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