第十一話 すごく……大きいです

 何とかケルヒも落ち着いて、ケルヒの泊まっている宿へとやってきた。そこで今後について話をする予定だ。


「よーし! とりあえずヴァンも登録出来たし、明日からどうすっか??」


「そうだねぇ。そういえば、騎士団の人が解体してくれる蒼狼と双頭鷹の素材っていつもらえるのかな?」


「おぉ、あれはまだちょっとかかるって言ってたな。終わったらギルドに連絡いくようにするって護衛騎士隊長さんが言ってたぜ」


「あぁ、そういえばさっき、そう言ってたね。まぁその素材がどの程度価値のある物なのかわからないから、あまり頼らないようにしとこう。そしたらまずは、どういった仕事を中心にしていくか考えないとね」


 これからの生活がかかってるからしっかり考えないとね。冒険者をするのか、それとも……。


「そりゃ冒険者だろ」


「うーん、冒険者もだけど、外に出るには準備もいるでしょ? そしたらその準備資金を貯める為にもお金が必要だよ。そうなると他でも仕事出来るようになった方がいいんじゃないかな?」


 魔物を狩るにもただ狩ればいいもんじゃない。狩った獲物をどうやって運ぶかとか、どこまで行くかも考えなきゃいけない。二人しかいないから泊まりで外には行けないだろうし、そしたら近場で探さないといけなくなる。確か依頼にはただ討伐して証明部位を提出するだけで報酬をもらえるものもあるけど、せっかく狩るなら最大限に利益を出さないともったいないからね。


「せっかく僕の『恩恵』が『掃除機魔法』なんだから、掃除屋さんをやるのはどうだろ? 眼鏡美人職員さんもギルドで掃除させてもらえるって言ってたし。しっかりやって顔を覚えてもらえば依頼を探す時にも融通してくれるかもよ?」


 ギルドの職員達に印象良くしとけば絶対にプラスになる筈だ。なんたって仕事を紹介してくれる人がギルドの職員達何だからね。


「あぁ……。それもそうだな。ちょうどヴァンが『掃除機魔法』って掃除に有利? な魔法使えるんだしよ。明日にでも行ってみるか!」


「気が早いよ! まだ住むところとかも決めてないじゃん! ちなみに暮らすならどこがいいかな? 僕としては、出来ればギルドで言ってた寮がいいと思うんだけど、どう思う??」


 全くケルヒは気が早いんだから。まぁ気持ちはわかるけど。こう新しいところに来るとワクワクしてくるよね。


「そうだな。確かに俺達には金がねぇし、その方が良さそうだ」


「そしたら明日はまず、ギルドの寮に入る事を伝えて、荷物を移動する事から始めようか。それが終わったら、改めてギルドの清掃員としてまず働いてみよう」


「わかったぜ。明日が楽しみだ。寮ってどんなところなんだろうな?」


「うーん、それなりには広いんじゃないかな? まぁ八級まで暮らせるって位だから人も大勢いるかもしれないね。問題を起こさないように気をつけなきゃ。みんな同じ位のレベルだし、あまり気にしないでも暮らせるといいんだけど。いじわるな先輩とかいたら嫌だなぁ」


「ははは! そんなの物語の世界だけだろ。そんな事を寮でやったらギルドの職員さんに怒られるんじゃないか?」


「そりゃそうだよね。まぁ明日のお楽しみって事にしとこうよ」


「はいよ。じゃあ明日以降はそんな感じだな! よろしく頼むぜ!!」


「うん。こちらこそよろしくね」


 うん。明日からが楽しみだ。








 そして再びギルドの前にやってきました。そういえば、寮ってどこでお願いすれば入れるんだろう?


「ねぇ、ケルヒ。ギルドの寮ってさ、どこでお願いすればいいのかな? 依頼? 冒険者側の窓口?」


「そう言われてみればあの時、しっかり聞かなかったな。よし、とりあえず、そこの門番に聞いてみようぜ」


「そうだね。すみませーん!!」


手を上げながら門番さんに近づいていく。向こうも気づいてくれたようで、こちらに向かってきてくれた。


「あの、昨日冒険者ギルドに登録しまして、今日ギルドの寮に入りたいなと思ってるのですが、どの窓口に行ったらいいですか?」


「あぁ、それなら冒険者の窓口で大丈夫だ。新人か、若くていいな。頑張れよ!」


「ありがとうございます!!」


 やっぱりいい人ばかりだ。僕達は恵まれてるな。


 冒険者側の扉を入ると昨日と変わらず、人が溢れている。また一番奥が空いているのでそちらに並ばせてもらった。


 ケルヒがキョロキョロしている。昨日の眼鏡美人職員さんを探してるな? 全くおませさんめ。


「そんなに探したって都合よくいないよ?」


「ば! な、何を探してるっていうんでございましょうか? 一切の記憶はございません」


「ぷっ! そんなに焦ちゃって、別にいいと思うよ?」


「あぁもう! そんなんじゃねぇっての! 今は冒険がしたいの! 俺は!!」


「まぁそういう事にしとくね」


 ケルヒがぎゃーぎゃー言うけど、スルーして順番を待つ。


 そして僕達の順番。今日は残念ながら昨日の眼鏡美人職員さんじゃなかった。残念だったね、ケルヒ。


「だからうるさいっての!」


「ごほん! えー、本日はどのようなご用件で?」


「あ、ごめんなさい」


 今回の職員さんはとても真面目そうな男の人だった。この人も眼鏡を掛けていた。ここのギルドの職員さんは眼鏡を掛けるのが強制なのだろうか?


「ファッションです」


 さ、左様ですか。


「えっと、昨日なんですが、こちらのギルドの登録をさせていただきまして、今日は、新しく冒険者ギルドの寮に入りたいのですが……」


「かしこまりました。新規の入寮ですね。ただいま、手続きをしますので、登録したプレートを貸していただけますか?」


「お願いします!」


 二人分のプレートを渡すと、昨日登録した板に挿し込んだ。その板凄く便利そうだよね。ギルドの事なら何でもできそうだ。


「あ、お二人とも同じ部屋でよろしいですか?」


「はい。一緒でお願いします」


「かしこまりました。もし、人数の変更がある時にはお手数ですが、またギルドまでお越しください」


 暫く何かを打ち込んでいたけど、じきに、またプレートを抜き出してこちらに返してきた。


「入寮の手続きが完了しました。こちらに寮の利用にあたって、注意していただきたい事をこちらの紙に書いてありますので、よく読んでおいてください。規則もありますので、破ってしまいますと、場合によっては退寮、禁固刑の可能性も出てきますのでご注意下さい」


「はい。わかりました!」


 集団生活だから仕方ないね。誰かが勝手な事をすると、それだけでそこでの生活空間がおかしくなってしまう可能性もあるし。


「ギルド寮はギルドの隣にあります。何か質問はありますか?」


「えっと、もう寮には入って大丈夫って事なんですよね?」


「そうですね。もう問題ありません」


「わかりました。ありがとうございます」


 挨拶をして表に出た。


「よし、早速見に行ってみようぜ!」


「そうだね。どんな感じなのかも気になるし」


 っていっても隣だからすぐそこなんだけどね。


 はい、着きましたー! ホントに隣だった。


「これまたでっけえ建物だな」


「すごく……大きいです」


 ギルド寮はギルドより大きかった。隣だったのに何で気づかなかったんだろう。


 まぁとにかく中に入ってみよう。


 中に入ってみると、左側に管理室。そこで挨拶を済ませ、鍵を受け取り、先に進む。壁に突き当たると左右に廊下が続いていく。この建物は四階まであり、全フロアが同じ造りになっているらしい。


 僕達は三階だったので、階段を見つけて上っていく。僕達の部屋は角部屋で一番端っこ。鍵を開けて中に入ってみる。


 中に入ると、椅子とテーブル、ベッドが二つあるだけのシンプルな部屋だった。少し小さめの窓を開けてみると、風が頬を撫でるように部屋へと入ってくる。


 気持ちいいな。眺めもいい。あぁ、遂に王都に来たんだな。漸く、王都に来た実感が沸いてきた。あの屋敷にはなかった風景。僕はこれからここで暮らしていくんだ。


「おぉ!! いい眺めだなぁ!!」


 いつの間にか隣にケルヒがやってきた。僕の心友。あれだけ大勢いた中で、僕の事を見つけてくれた人。うん、頑張らなきゃ!


 あとは、荷物をここに持ってくれば今日のやる事は終わりかな? まだこれからの事はわからないけど、こうやって、王都に無事来れたんだ。明日からは仕事の相談もしなきゃだし、やる事が多いぞ。


 その後、元の宿から荷物を運び終えた頃には日も暮れて、長かった一日を終える事となった。

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