第十話 お、お、お、女の子じゃなあああああああい!!

 よし! 身体も完璧!! スッキリ寝れた。部屋も綺麗にしたし、これで心置きなく、ケルヒのところに行けるね。


「ヴァン君? 起きてるかな?」


ドアを叩きながら開けて入ってくるルロさんと壮年の騎士様。あれこの人って……。


「おぉ童! 元気になったか!! 心配しとったぞい」


「あ、あなたはあの時の……」


「おう。そうじゃ! あの時は本当に助かった! 感謝しとる」


「いえ、そんな事は……。あの時は、ケルヒが動いたからで……。僕は、あとを追いかけただけなんです……」


 そう、僕は実際には、自分から行けたんじゃない。ケルヒが行ったからそのあとを追いかけただけだ。そんなに褒められた事ではない。


「そんなに自分を下卑するもんじゃないぞ、童。たとえ、童があとを追いかけただけだとしてもじゃ、その後、しっかり幼子を助ける事が出来たじゃろ。それは童達のおかげじゃ。やった事はきちんと誇れ! それに本来であれば、儂ら騎士団の仕事じゃ。儂らこそ、責められるべきじゃろう。守れと言っておきながらこの体たらく。儂を含め全員鍛え直しじゃ!」


「いえ、勝手に僕達が飛び出しただけですから。そんなに気にしないで下さい。けど、ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」


「ガハハハ! 気にするでない! そういえば『水の指揮者コンダクター』殿も童の事を気にしておったぞ。他の任務があってこちらには顔を出せなんようじゃが。まぁよい。儂は謝罪もお礼も言えたし、『水の指揮者コンダクター』殿にもどこかで会う事もあろう。儂は行くぞ! 童、またどこかで会う事を楽しみにしとるからのぉ!」


「はい! わざわざありがとうございました!!」


 笑いながら壮年の騎士様は出ていってしまった。豪胆で、それでいてさっぱりしていて、気持ちのいい人だったな。


「キミ、気に入られたみたいね。あの人、滅多に他人を気に入る事ないんだけど、流石ヴァン君だね!」


 ルロさんがニコニコしながら褒めてくる。


「いや、けどね、ホントに僕はケルヒを追いかけただけなんだ。結果的にはよかったけど、今度は、僕の意思で、行けるようになれないとね」


「その気持ちがあるだけで大丈夫だよ。うん、きっと大丈夫」


「ありがとう」


 何だか、温かい気持ちになってくる。感謝されるのって恥ずかしいけど、嬉しいね。


 さて、これでそろそろお別れかな。お世話になりました。









 ルロさんも仕事があるからと、その場でお別れして、他の騎士様が騎士団本部の入り口まで案内してくれると、ケルヒが待っていた。


「お勤めご苦労さん!」


「捕まってないよ!? まぁ、ありがと。えっと、これからどうする?」


「そうだなぁ、うーん。あ、まずはあれだ。ヴァンのギルド登録からだな! まだしてないんだろ?」


「うん、まだしてないよ」


 僕は、タスキン都市じゃ外に出られなかったからね。


「じゃあ早速、行こうぜ。まだこの辺の事は全然わからないだろ? 案内するから着いてきてくれ」


「え? もうケルヒわかるの!? 凄いね!」


「お、おう! 任せろ!!」


 流石ケルヒだ。頼りになるなぁ。


「じゃ、じゃあ行くぞ!!」


「れっつごー!!」











 ケルヒが頼りになる、そんな事を思っていた時期が僕にもありました。


「ケルヒ、ここどこ?」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってろ。もうすぐ着くはずだ!」


「そう言ってから結構歩いてるんだけど……」


「うるせえ! もうちょっとって言ったらもうちょっとだ!」


「もう諦めて、誰かに聞かない??」


「いや、けど!! あぁ、くそぉ。合ってるはずだったんだけどなぁ……」


「これだけ広いんだから仕方ないよ」


 そう、王都は広い。サラさんから学んだ事だけど、この王都は東西南北に大きく分かれていてそれぞれが独立した地区になっている。


 西が上級冒険者や、商業者等富裕層が中心に暮らしている。逆に東は浮浪者や、孤児たちが集まる貧困街。北はそれ以外の冒険者や、その中間にあたる、一般市民が暮らしている。そして南は、商店街が。なんたって南は、タスキン都市からの貿易が盛んだからだ。その次に盛んな西の帝国は富裕層が好む物を取引する事が多い為、西側に富裕層が暮らすようになった。


 そして騎士団本部は、最もトラブルの多い箇所である、富裕街と商店街の間で、それに日夜、対処している訳だ。


 そして今、僕達がいるのは南の商店街だ。道はレンガできっちり舗装されていて、馬車や、鎧車がすれ違っても余裕がある位に広い。両サイドには店が立ち並び、お客さんの呼び込みを盛んに行われている。


 ちなみにギルドは東西南北それぞれにあり、どこを利用しても特に支障はないらしい。一応僕達が行く予定だったのは南ギルドだけど……。


「すみません。ギルドに行きたいんですけど、どっちに行けばいいかわかりますか?」


「お? この辺は初めてか。ギルドだったらこっち側じゃなくて逆方向だぞ。戻って途中が四つ角になってるから、そこを左に行って、あとはまっすぐ行けば大きな建物が見れるからすぐにわかるぜ」


 おぉ、凄く親切なおじさんだ。それにしてもやっぱり迷子だったんだね。


「あーもう! 俺が悪かったな!!」


「わかればよろしい」


 あんまりからかうと拗ねちゃうからこれくらいにしとこっと。


「仲いいな、二人共。それにしてもこんなに可愛いお嬢ちゃん捕まえて、お兄ちゃんも幸せ者だな、おい」


「ブハッ!」


「お、お、お、女の子じゃなあああああああい!!」


 何でそんなに僕を女の子と間違えるんだ! 失礼しちゃうな!!










 そしてやってきました、南側のギルド。大きな三階建の建物。綺羅びやかというより質実剛健。実用性を優先した見た目になっている。入り口は三つの扉に分かれていて、依頼者用、冒険者用、商業者用となっている。依頼者とのトラブルを回避する為に入り口を別にしているらしいよ。


 そして今回僕達が入るのは冒険者用の扉。扉は常時開かれており、常に門番が不審者をチェックしている。中へ入ってみると目の前にはズラッと窓口が広がっていた。それぞれに並ぶ冒険者はどの人を見ても強そうだ。僕は、こんなところにいて大丈夫だろうか?


「とりあえず空いてるところに並ぼうぜ」


「そうだね」


 一番奥がそんなに並んでなかったのでそちらに並ばせてもらった。それにしてもみんな行儀よく並んでるなぁ。そういえば依頼ってどこかに貼り出されてるのかなぁ? あそこに貼り出されてるのが依頼かな?


「ほら、大人しくしてろって。初めてだから気になるのはわかるけどさ」


「え? う、うん」


 まぁあとちょっとで順番になるもんね。


 それから暫くして、僕達の順番になった。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 あ、よく物語でも見るような美人なお姉さんだ。如何にも仕事が出来そうな雰囲気を出している。綺麗に纏めた髪に眼鏡がよく似合っていて結構人気もありそうだ。


「えっと、今日はギルド登録に来ました!」


「ふふ、ギルド登録ですね。そちらのお連れの方は?」


「俺は、あ、僕は、もう登録してるんで、付き添いなだけ何で大丈夫っす。」


「かしこまりました。では、先にギルドについて説明させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「よろしくお願いします!!」


 まぁ前にサラさんから説明があった為、殆ど知ってた事ばかりだった。


 追加で知らなかった事といえば、ギルドは冒険者と商業者の二つに分かれていて、それぞれ貢献度によってランクが変わる。ランクは一から十級まであって最初は十級からスタートする事。それから仕事を受けて、その貢献度具合でランクが昇級していく。昇級したら、また次の昇級をする為に、依頼を受ける。受ける為にはこの窓口に並んで、ギルド職員の人が紹介してしてもらわなければならない。


 抜け駆け等、依頼者とのトラブルを減らす為なのと、冒険者は危険な仕事も多いので、出来るかどうかを職員が判断して事故を未然に防ぐ意味もあるらしい。ちなみにあそこに貼り出されているやつは指名手配犯や、緊急依頼がある時に貼り出されんだって。惜しかったね。


 あと、最初の内は冒険者、商業者用にそれぞれ寮があって、八級まではそこで暮らせるらしい。勿論、強制ではない。元から暮らしてる家がある人もいるからね。


 そして家賃は依頼料の一部がギルドに渡される事になっていて、仕事をしない人は職員によってギルド内の掃除等、雑用をさせられるとの事らしい。働かざる者食うべからずだ!


「大体の説明は以上です。あとは身分証の作成を致しますので、こちらの板に手を置いていただいてもよろしいでしょうか?」


 おぉ! これが噂の身分証を登録する為のやつ!! 確か『生成魔法』の使い手が作ったんだよね。魔力を流すと登録できるとか……。


「その様子ではやり方はわかるようですね。それでは早速よろしくお願いします」


 やっぱ僕ってわかりやすいのかな……。まぁ気を取り直して、手を置いて魔力を流してみよう。


 手を置くと、淡く光り出し、暫くするとその光りが収まってしまった。これで完了なのかな?


「お疲れ様でした。ではこちらの裏に名前と、希望職種、『恩恵』を書き込んで下さい。そちらに書き込んだ内容は、こちらの板から確認出来ますので、おかしな事は書かないようにして下さいね。職員のみんなに見られちゃいますからね?」


 笑顔でウィンクをするのが様になっている。この眼鏡美人職員さんは説明が丁寧だし、こちらの緊張を解すのも上手で、大当たりだと思う。


 っと、それよりはやく書かないと! 名前と『恩恵』はいいとして、希望職種かぁ。掃除機魔法を活かすなら掃除屋? けど、それだけだとケルヒに怒られそうだ。冒険者も加えておこうかな。


 素早く書き込むと眼鏡美人職員さんがちょっと驚いた顔をする。


「ヴァン様、ですね。『特異魔法』の使い手さんでしたか。掃除機魔法……。掃除が得意でしたら、まずは、このギルドの清掃員をやっていただいてもいいかもですね。こちらで働いてるいる方はベテランが多いですし、学べる事も多いと思いますよ」


 早速色々考えてくれた。ホント親身になってくれていい人だ。


「えっと、色々とありがとうございます。今日はとりあえず登録だけですので、仕事に関しては後日、改めて伺わせていただきます。」


「かしこまりました。それではこれで登録完了となりました。こちらのプレートは無くさないようにして下さい。もし紛失してしまった場合には再発行に費用がかかってしまいますので。それでは、十級からのスタートになります。他に何か質問はございますか?」


「大丈夫です。何から何までありがとうございました」


「いえ、それではこれからよろしくお願いしますね♪」


「はい! それでは失礼します」


 プレートを受け取って、さよならをしたらギルドを出た。


 やっとギルド登録出来たぞぉ! 漸く、これからの一歩を踏み出せたんだ。まずは、ケルヒの泊まってる宿に行って、これからを考えて……っと、そういえばケルヒがずっと静かだったな。どうしたんだろう?


「あの受付の人、可愛かったな」


 ケルヒ……。目がハートになってる。あーあ、こりゃ暫くは戻ってこれそうにないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る