第九話 な、なんてええ子や。おばちゃん飴ちゃんくれたる

「うーん」


 頭がぼーっとする。どこだ? ここは……ベッド? サラさん、もう朝?


「あ、起きたんだね? よかったよぉ! そのまま気絶しちゃったんだもん。ビックリしちゃった!! あ、まだベッドで寝てて。急に起きたら危ないよ」


 あ、そういえば、双頭鷹と戦ってたんだっけ。ケルヒを守る為に、最後にもう一人の僕が吸排拳壱式『排勁はいけい』を使って倒したまでは覚えてるんだけど……。力尽きて気絶しちゃってたのかな。そしてこの綺麗な人はどなた??


「その顔はあたしの事覚えてないな? 一応自己紹介したんだけどなぁ。まぁすぐ気絶しちゃったし、仕方ないか! あたしはルロ! 昨日も言ったけど、『飛翔部隊』隊長のルロだよ!! よろしくね!!」


「は、はい。よろしくお願いします。すみませんが、えっと、ここはどこですか?」


 あれからの記憶が全くない。とりあえず寝てたって事は何とか無事だったって事なんだろうけど……。


「ここは、騎士団本部の医務室だよ。キミがずっと寝てたから心配したんだよ?」


 騎士団本部……? ていうか、今頃気づいたけど、確かに『飛翔部隊』の隊長さんじゃん! めっちゃ偉い人にこんな話し方して大丈夫なの!?


「あぁ、気にしなくていいよ! あたし、あんまりかしこまられると逆に困っちゃうから」


「え? けどですね、あの、そういう訳には――――」


「あたしがいいって言ってるの! 文句ある??」


 そんな頬を膨らませても怖くない。むしろ凄く可愛い。怒ってるつもりなんだろうけど威厳を感じない。


「っとケルヒは!? あと護衛騎士様達はどうなりましたか!?」


「ふふふ、キミ優しいね。大丈夫だよ。キミのお友達や、他の騎士達も無事だよ」


 ふぅ、よかった。みんな無事かぁ。


「キミ、わかりやすいね。ねぇ、こんなに可愛いのに男の子なんだよね? もったいないなぁ。女の子だったらいいお友達になれそうなのに」


「お、男の子です! ルロ様は、男の子でもお友達って駄目ですか……?」


 お友達に男と女って関係あるのかな? それだとちょっと寂しいんだけどなぁ……。


「くっ!! 何この破壊力は……!! もう! もうあたしとキミはお友達よ!!」


 なぜかモジモジしてる。可愛い。


「ホントですか? やったぁ……。僕、お友達少ないからとっても嬉しいです。」


「な、なんてええ子や。おばちゃん飴ちゃんくれたる」


 ついでになんかお菓子もらえた! 


「せっかくお友達になったんだからあたしの事はルロって呼んでね。様なんていらない、いらない。あーそういえば、一応キミの友人から話は聞いてるけど、キミの名前を聞き忘れちゃってた。お名前は?」


「えっと、そこはルロさん……でお願いします」


「まぁ仕方ない。ルロさんでもいいよ」


「ありがとうございます。えっと、僕の名前でしたね。僕はヴァンって言います。タスキン都市から、心友と一緒にこちらの王都までやってきました。ケルヒとはもう会ってるんですね」


「うん、キミを降ろした後にちょっとだけね。そっか、ヴァン君ね。ふーん、タスキン都市からかぁ。それにしてもせっかくタスキン都市から来たのに、ホントに大変だったね。まさかあたしの部隊が出てる間にあんな魔物出るなんて思わなかったよぉ。あたしがいたら魔物なんてボッコボコにしてやったんだから!!」


 パンチを繰り出しているけどはっきり言って迫力がない。つまり可愛い。


「アハハ。そういえばワイバーンの討伐に出てたんでしたっけ?」


「そうなのよぉ。こんなに立て続けにあたし達の出番って来ないんだけどねぇ。何が原因がなのか今、調べてるんだよ」


「そうなんですね。騎士団のみなさん、大変ですね。いつもありがとうございます」


「もぉ! そういうのはいいの!! キミってはっきりそういうの言うんだね。あたしが恥ずかしくなってきちゃったよ!」


 そんなこんなで色々な話をしているとドアからノックが聴こえてきた。


「どうぞ!!」


「ハッ! 失礼致します。そちらの友人がいらっしゃったのですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」


 入ってきたのは騎士様だった。あれ? 友人ってもしかしてケルヒ!? 


「うん。いいよ。入ってもらって」


「ハッ! かしこまりました!」


 あぁ、この待ってる時間が待ち遠しい! ケルヒ、元気かなー? 怪我してないかなー?


 ソワソワしてると再び、ドアがノックされた。


「どーぞ!!」


 思わず僕が言ってしまった! 恥ずかしい……。ルロさんにまで笑われちゃった。


「騎士様さんきゅ、じゃなかった。ありがとうございました」


「ケルヒ!!」


「おぉ! ヴァン! やっと起きたのか。心配したぞ」


「う、うん。ごめんね」


「まぁ気にするなって。それで身体はどうだ? 痛いところは無いか?」


「大丈夫。まだちょっとだるいけど、どこも痛くないよ」


「そりゃよかった。っとつい夢中になっちまった。すみません! 先日は、ヴァンを助けてくれてありがとうございました!!」


 ケルヒが頭を下げている。ホントに僕の事心配してくれてたんだね……。何だか凄く嬉しくなってきた。


「いいんだよぉ。困ってる時はお互い様! あ、あとそんなに無理してかしこまらなくていいよ! もうヴァン君ともお友達になったんだから、そのお友達のケルヒ君もあたしのお友達だよ!!」


「は、はい。あ、いや、お、おう?」


 ははは、ケルヒが困ってる。まぁ、それはそれとして……。


「それで、ケルヒ。あれからどうなったの?」


「おう。まずは、双頭鷹の事だな。あれは無事全滅したぞ。俺達が倒した分は護衛騎士様達が素材を分別して、連絡をギルドにくれるってよ。よかったな。一応大きな怪我をした人は出なかったみたいだし。あ、そうそう、ヴァンが守った女の子がお礼言ってたぞ。お姉ちゃんによろしくってな! ハハハ!! ヴァン、お姉ちゃんだってよ!」


「それを言うなああああああ!! あの時否定する時間なかったんだもん! ケルヒも大変そうだったし、僕も夢中だったし……!!」


「わりぃ、わりぃ。けど、ホント助かった。ありがとな。正直あの時は、危なかったぜ」


「うん。僕も正直、ルロさんが最後来てくれなかったらそのまま落ちてたし、危なかったと思う。ルロさん、ありがとう」


「え、えーっと。いいんだよ? 騎士団ってそれが仕事だし。もうさっきもお礼言ってくれたんだから気にしないでよ!」


「けど、それとこれとは別。感謝してる時はきちんと言わないとね?」


「そうだな! ルロ! ヴァンの事サンキュ!! ホント、助かった!!」


「もぅ……全く! どういたしまして! はい、これでもう終わり!!」


 僕もわかりやすいってよくいわれるけど、ルロさんだってわかりやすいな。照れてて可愛いんだけど。さっきから可愛いの連発だ。


「ははは。それでケルヒは、どこで寝泊まりしてるの?」


「俺か? 俺は、ギルドの紹介してもらった宿で泊まってるぜ。荷物もそこに運んだから安心しとけ。準備出来たらこっちに来ればいいからよ」


「了解。ルロさん、僕っていつ頃ここを出られるんだろう?」


「んー……。特に聞く事も無いだろうし、一応お医者様に来てもらって、身体に異常が無かったら明日にも出て大丈夫だと思うよ」


「わかりました。だってさ、ケルヒ。明日には多分そっちに行けると思うよ」


「わかった。それじゃルロ、ヴァンの事よろしく頼むぜ」


「うん! 任せといて!!」


 その後暫く雑談をしてからケルヒは帰って行った。ルロも騎士団の仕事があるので、お医者様が来たのと入れ替わりに部屋を出ていった。


 お医者様からの結果は問題なし。これでこことも明日でお別れだ。って言っても寝てただけなんだけどね。それじゃ、明日に向けて準備をしてさっさと寝ますか。


 あー、そういえばゴリラ騎士様にさよなら言えなかったなぁ……。またどこかで会えればいいんだけど。

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