第八話 誰が横にしか動けぬと言った?
女の子に迫る
「『水牢』」
後ろからゴリラ騎士様の声が聴こえた。双頭鷹達を挟むように大量の四角い水の塊が生まれる。双頭鷹はそれを避けるようにスピードを上げるが、隣から決してそれが離れる事はない。
「挟め」
ゴリラ騎士様の言葉と同時に挟まれていた水の塊が言葉の通り双頭鷹を挟んだ。水に飲まれる双頭鷹はもがくが動けない。
これがゴリラ騎士様の、いや『水の
「止まるな!! こんなの足止め程度にしかならない!! 女の子を救出しろ!!」
ハッとなった。そうだ! 見ている場合じゃない!! 女の子の元へ急ぐ。
ゴリラ騎士様のおかげで、女の子のところまで何とか無事、たどり着けた。女の子は犬を庇うように蹲っている。
「もう大丈夫だよ。正門まで、戻ろう?」
「う、うん」
なるべく優しく、怖がらせないように。女の子は、泣きながらも何とか手を握って正門に向かう。その間に双頭鷹が、少しずつ水の中でもがきながらも飛び出してきた。それを見てしまうとどうしても怖がってしまい、動けなくなる女の子。
こうなったら仕方ない。女の子の目を塞いで犬ごと抱えて移動するしかない! こうなっちゃうと両手が塞がっちゃうからホントはしたくないんだけど……。
「ヴァンは気にしないで女の子を守れ!! 何があっても俺に任せろ!!」
ケルヒが心強い……!! 実は今回動き出したのが一番早かったのもケルヒだった。それに釣られて僕とゴリラ騎士様が動き出す形になった。この行動力は凄い。そして同時にそんなケルヒが頼もしくも思った。
「ケルヒ!! 任せたよ!!」
「おう!!」
ケルヒは既に精霊刀『
それに比べ、僕はまだまだ考えすぎている。今回もそう、ケルヒがすぐに動き出せたから僕も動けたんだ。負けてられないな。僕も頑張らないと!!
僕が女の子と犬を抱えて走り出すと同時に、数羽の双頭鷹が『水牢』から抜け出してこちらに向かってきた! 精一杯走っているが明らかに向こうがこちらにたどり着く方が速い。
このままじゃ追いつかれる……!!
「うおおおおおおおおお!!」
その時、ケルヒが刀を振り下ろす! 突然の奇襲に加え、ケルヒの見えない刃は避けにくい。双頭鷹に当たるといくらか翼に傷が付いた。ふさふさの羽毛は何枚もハラハラと落ち、致命傷とまではいかないが、それなりに血も噴き出していた。
ケルヒの攻撃なら通じる!! ケルヒは自分の攻撃に自信を持てたのか、どんどん刀を振るう。
勿論、相手も馬鹿じゃない。標的を僕達からケルヒに変え、見えない刃の軌道を読みながらケルヒに向かっていく。ケルヒ、頑張れ!
見てるとどうしても心配になって、足が止まってしまいそうになる。けど、今はケルヒを信じて、前だけを見よう! 後少しで正門だ。
……漸く正門にたどり着いた。そんなに遠かった訳じゃなかったんだけど。
そして、そこには女の子のお母さんらしき人が待っていて、その人に女の子と犬を渡した。
「ありがとうございました!! ホントにありがとうございました!!」
「お姉ちゃん、ありがとぉ!!」
お、お姉ちゃんじゃない……!! くそぉ、訂正してる暇もない。
「いえ! では僕はこれで!!」
今はそれどころじゃない! まだ戦ってるケルヒの元へ急げ!!
うわ! ケルヒが双頭鷹に囲まれてる……。 ゴリラ騎士様は?? うわうわ! ケルヒより更に囲まれてる! どうやら既に『水牢』から全ての双頭鷹は抜け出していて、それぞれに襲いかかっているみたいだ。
ゴリラ騎士様の方は他の騎士団の人達が向かっている。そしたら僕は、一人で戦ってるケルヒを先に……!! ここからは僕も切り替えないとまずい。
僕から我へ……!!
「我が心友のもとへ……。いざ参る!」
「吸排拳弐式『
腕を後ろに『排出』!! 跳ねるように飛び、一気に鶏の目の前まで移動する。
「驚くがいい。ここからは我の時間ぞ」
背後から迫る。今更気づいても遅いわ!!
「何だ、そんなに驚く事か? まるで鳩が豆でもくらったかのようではないか。だが、我が心友に傷を負わせた罪は重い。覚悟せよ」
「吸排拳壱式『
流石はゴリラ殿が強いと言うだけはある。まとめて三羽は吹き飛ばすつもりだったのだがな。二羽目で止まってしまったか。だが、これで道は開けた。
「心友よ。無事であったか?」
「ハァ、ハァ……。何だヴァン。またへんてこりんな方になってんな。まぁこれくらいなら全然平気だ」
「ふ、それだけの余裕があるのなら大丈夫であるな。では手短に言う。心友よ、お主は我に向かってその刀を振ればよい。後は我に任せよ」
「どういう事だよ! くそ! ホントに時間がねぇ。……あぁ! わかったよ!!」
「『
まずは我が、鶏共の背後に回らねば話にならぬ。
そう、ここだ。目で我が心友に伝える。
「くそ! ここなんだな!! いけえええええ!!」
鶏共も馬鹿ではない。我が心友の斬撃を避けるであろう。そしてその斬撃はそのまま我に向かってくる。ふ、ここまで計算どおりよ。
「『
心友の無数の信頼を吸い込む。これを……。
「『
これは我によって吸い込まれたモノを、凝縮させ、更に強力にして吐き出す!!
更に鋭く、速く鶏共に襲いかかる! これには流石の鶏共も耐えられまい!!
ふ、我の予想通りだ! 貫通して、今度は後続まで届く! これだけで半分以上が動けぬようになったわ!!
だが、最強とも言えるこの魔法、これには弱点がある。我の魔力だ。心友の魔力は我より高い。それを凝縮させるにはそれに準ずる魔力が必要だ。それを捻り出すのは今の我ではまだきつい。
滅多に使えない、所謂必殺技というやつなのだ。本当であればこれで打ち止めにしときところだが……。
「もう一発だ!! 心友よ! 我にもっとよこすのだ!!」
だが! ここで動かねば、いつ動く!!
「よっしゃあああ!! ヴァン! 俺に任せとけ!! いっけええええええええ!!」
そうだ!! もっと来い!! 我にその信頼を寄越すのだ!! 我も負けてはおれん!!
「『
我と心友の絆……! 受けてみよ!!
「『
ハッ! 一瞬意識が飛んでおったわ。戦いはどうなったのだ。
……心友は? ふぅ、刀を杖にしておるが無事か……。
ではゴリラ殿は? ゴリラ殿の方も無事終わったようだな。流石である。肝心の鶏共は……。
全滅出来た……か? ん? あの鶏は頭を一つ失って弱っておるがまだ生きておる!!
鶏が最後の力を絞って飛び上がる。狙いは心友か! 半分意識がないのか、心友が気づかぬ……!!
「吸排拳弐式『
誰が横にしか動けぬと言った? まだ見た事の無い世界を見せるのだぞ? そう、たとえ飛んでいる鶏の元であったとしてもだ!!
我の最後の力とくと見よ!!
「吸排拳壱式『
これで終わりだ!!
鶏の残っていた頭蓋を砕く。よし、これで終わったな。他にいないな? 後は、この状況をどうする……。くそ、考えようにも、もう我の意識が……。だが、このままでは落ちてしまうぞ。
ん? あれは何だ? あぁ、駄目……か。何も考えられぬ。もう一人の我、後は……。
「キミ、大丈夫?」
ハッ! いつの間にか僕に戻ってるし! あれ? どうなってるの? ここどこ? この綺麗な人は誰? ってか僕抱えられてるんだけど何で!? てか飛んでるし!? この綺麗な人から鋼の翼が生えてる!! 情報が全く追いつかない!
「だ、大丈夫です。ありがとう…ござ…います?」
「いーえ。みなさんを守るのがあたしの仕事だからね」
「えっと……」
「あー、あたしはルロ! 『飛翔部隊』の隊長、ルロよ! よろしくね!!」
もっと詳しい事を聞きたいけど、僕だってもう駄目だ。もう一人の僕、よく頑張ってくれたね。ありがとう。
あぁ……。
「あぁ!! ちょっと、キミ!!」
そして僕はルロ? って女の子に抱えられたまま意識を手放してしまった。
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