第七話 愛着まで湧いてきたゴリラ姿。うほうほ!

 長かった旅も最終日。あれから数回魔物の襲撃はあったけど、護衛騎士様と冒険者だけで討伐出来た。むしろ最初の時に抜かれた方が珍しいらしい。


 そもそも魔物は、基本的に標的を決めて襲撃してこないので狙われた事自体がイレギュラーな事なんだって。ちなみに一番苦労したのがケルヒを止める事だったのはここだけの話。


「今日中には着くから荷物の確認をしておくんだぞ」


「はい、わかりました。」


 今日もさわやかゴリラ騎士様。もうこの顔も見慣れたもんで、愛着まで湧いてきたゴリラ姿。うほうほ!


 あの模擬戦の反省を踏まえながら、毎回、小休憩の際に、護衛騎士様達と一緒に訓練をした。おかげで、ゴリラ騎士様の隊のみなさんと仲良くなれた。その中でも、模擬戦を直接やりあったマッチョ騎士様とは、何度も模擬戦をさせてもらい、暇な時間には、王都の騎士団についてや、魔物討伐、王都のいいお店など、僕の知らない事をたくさん教えてくれた。


 逆に、冒険者の人達はあまり近づいてこなかった。護衛騎士の人達と仲が良くないのかな? マッチョ騎士様に聞いてみたけど、曖昧なだけで、話を逸らされて教えてもらえなかった。


 そして段々近づいてくる王都。そこに見えるのは、端がわからない程広大な外壁。そしてそれに負けない巨大な正門。更にそれを囲う大きな鳥の群れ。圧巻の一言である。


 あるぇ? 王都襲われてる!?


「まずい! 数名の護衛を残して正門に向かうぞ!!」


 さすがのゴリラ騎士様も焦っているようだ。おそらく、置いていく予定だったであろう僕達も連れてってる位だし。普通に考えて、僕達って待機だよね?


「あー! 二人共ついてきてるじゃないか!! もうマルマジロじゃ動いてくれないぞ!」


「あ、やっぱりそうです……?」


「あぁ、そうだ……。夢中になってたから忘れてた。すまん。このまま走って戻らせるのは、孤立させてしまうので却って危険だ。なるべく私が守るからついてきてくれ」


 それほど焦るってやっぱ結構やばい事なのかな? そういえば、前にサラさんが空からの襲撃ってあまり無いって言ってたもんね。確かそれぞれに縄張りがあるからとか何とか。


「お、俺達も頑張るので、参加させてくれ!! です!!」


「それは駄目だ! あの魔物はな、双頭鷹そうとうようといって、見ての通り、頭が二つある鷹だ。気性が荒く、獲物を捕まえると二つの頭を使って、こちらの頭と胴体を引っこ抜く癖がある。残虐な性格でホントに恐ろしい魔物なんだ」


 想像しただけでやばい。だいぶ近くなってきたのでその様子が伺えるが、翼を広げたら五メートルはあろう巨大さ。大きな嘴は獲物を掴んだら決して離さないだろう。二つある頭が死角無くし、隙間無くあたりを見回している。


 何より空から一方的に襲われるのが一番怖い。確かに魔法を打てば多少は対抗出来るだろうが、あのスピードでは簡単に当てる事も叶わないだろう。


「ケルヒ、僕達は大人しくついていくだけにしよう? これは流石に危険だ。この前の蒼狼とは違うよ」


「く、くそ。わかったよ……」


 あんまり納得いってない様子。まぁそれでも、とりあえずいきなり突っ込む事は無さそうでよかった。足手まといだって思われるのは辛いけど、まだ僕達の実力じゃ仕方ないと思う。


 そして正門前まで来た。他の騎士達が戦っているが、正直あまり戦況はよろしくない。縦横無尽に飛び回る鳥達を騎士達が捕捉出来ていない。まだ被害は出て無さそうだけど、このままじゃいつかは誰かが犠牲になってしまうかもしれない。


 とにかく本隊と合流しなければ話にならないのでそこへ向かう。幸いにも正門の中ではなく、外に集まっていたので、簡単に合流する事が出来た。


「私は、王国乗合便護衛部隊十番隊隊長であります! 指揮官殿はおりませんか?」


 ゴリラ騎士様が大声で叫ぶと、数十人いる中から指揮官らしき壮年の騎士様がこちらにやってきた。


「十番隊隊長というと『水の指揮者コンダクター』殿か!! これはありがたい。合流、感謝するぞい!!」


 おぉ、やっぱり有名人なんだね。こうやって聞いてると不思議な感じがする。


「困っている時はお互い様であります。して、ただいまの戦況はどうなっていますか? こういった時には『飛翔部隊』が出る筈では?」


 『飛翔部隊』の事はマッチョ騎士様から多少の事は聞いていた。簡単に言うと空の魔物のスペシャリストだ。


「『飛翔部隊』なんじゃが……今出払っておる。他の場所でワイバーンが出てきてしまったのじゃ。その討伐に向かっておる」


 定番のワイバーン!! どんな物語でも大抵出てきている。その強さは折り紙付き。今いる双頭鷹に勝るとも劣らない空の魔物だ。


「ワイバーンはそれほど、多くないようじゃがのぉ、流石に普通の冒険者には任せられんから『飛翔部隊』に出てもらった、って訳じゃよ。そんなに時間はかからんから、儂らは『飛翔部隊』が来るまで耐えておるのじゃ」


「了解いたしました! それでは私も、無理に討伐するのではなく、被害を最小限にする事を優先させていただきます!!」


「そうしてくれると助かる。下手に刺激して被害が大きくなってからじゃ遅いからのぉ」


 ただ倒すって訳にはいかないんだね……。戦って勝ったとしても、結果的に被害が大きくなってしまっては意味がないもんね。ようはそういう事だよ! ケルヒ!!


「わかっとるわ!!」


 わかればよろしい。


「して、そちらの童共は何じゃ? 騎士には見えんし、冒険者って訳でもなかろう?」


 こちらを鋭い目でギロリと見てくる。正直怖い。


「はっ! こちらの二人は今回の国営乗合便の乗客で、例の魔物襲撃の被害者であります。マルマジロが止まってしまった為、下手に逃がすより、そのまま護衛した方が安全だと判断し、こちらまで一緒に連れて参りました」


「ほぉー。という事は、その童共は魔力の限界値が高いという事じゃな。そうか、そうか。未来ある童共をしっかり守るのじゃぞ」


「はっ! かしこまりました」


 ゴリラ騎士様がかしこまってると違和感がある。そしてそれがカッコいい。なんかこのやり取りを見てるだけで騎士団って凄いのがよくわかる。


 この時、ここにいる騎士団も戦っている騎士団も、勿論僕達も、決して油断してた訳じゃなかった。常に周囲を警戒しつつ、戦況は確認していたんだ。


 急に鳴き声が聴こえてきた。鳴いている方を見ると、正門から犬が飛び出してきた。正門が少し開いていたらしい。まぁ、それだけだったら、まだ誰もそこまで注目しなかったと思う。だけど、出てきたのはそれだけじゃなかった。なんと、小さな女の子が、その犬を追いかけて正門から出てきてしまったのだ。


「お、おい……」


 思わず騎士団の人達が固まる。ここでタチが悪かったのは犬の鳴き声に反応して数羽の双頭鷹もそちらに注目してしまった事だ。


 咄嗟に反応出来たのは三人。僕、ケルヒ、ゴリラ騎士様だ。


 慌てて走り出す! 走り出すと同時に向こうも狙いを定めたようで、女の子に向かって飛び出した!!


 くそ!! 何とか間に合って!!

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