第五話 木製である意味とは……!!
それから何戦か見て、遂に僕の出番になった。ちなみに今回はもう一人の僕を戦わせるつもりはない。もう一人の僕は好戦的すぎるからだ。これはあくまで模擬戦。訓練みたいなもんだからね。まぁこれは建前で、本音は恥ずかしいからだ! そう、恥ずかしいからだ!!
あの時は咄嗟だったし、ケルヒ位しか近くにいなかったからよかったけど、今はたくさんの人に見られてるしね。
そんなこんなで僕の目の前には一人の護衛騎士様。二メートルはあろう巨漢で筋肉もりもりマッチョだ。体格だけならゴリラ騎士様よりいい。持ってる武器は斧。一応模擬戦だから木製だけど、頭に当てられたら普通に死んじゃうんじゃないか?
「寸止めするから任せろ」
おかしいな、何でみんな僕の考えてる事がわかるんだろう? そんなにわかりやすい?
「ふふ、ヴァン君はわかりやすくていいな」
え? やっぱり?
「ちなみにルールだが、どちらかが一発当てたら勝ちだ。ただし、掠っただけであったり防御をした上では駄目だぞ? きちんと当たったらだ。よし、それでは始める。模擬戦とはいえ、戦いだ。怪我をする事もあるだろうけど、お互い恨みっこなしでな? それでははじめ!!」
「よろしくお願いします!!」
「おう!!」
うっ、模擬戦が始まった途端に凄い圧だ。気持ちで負けたらそれだけで模擬戦が終わりそうだ。気合いを入れないと……。
「ほぉ。いい気合いだ。面白い」
「精一杯やらせていただきます!」
僕にとって訓練以外の初戦闘だ。しかも対人。よし、まずは基本の構え。相手の全体を観察しよう。斧だけが武器とは限らない。勿論魔法を使ってくるだろうし、見た目だけの身体能力だけじゃないはずだ。
「よし、まずは小手調べだな。『石弾』!」
言ってる先からいきなり魔法!? けど僕には魔法は通じないよ!!
「『吸引』」
右手を前に出して『魔名』を唱える。そうすると掃除機魔法特有の吸引音と共に『石弾』が吸い込まれていった。
「なっ!!」
よし!! 動揺している。この隙を逃すほど、僕は甘くないぞ!!
魔力を足に集め、一気に接近する!! まだ動揺から立ち直っていない護衛騎士様も僕に接近されると即座に対応してくる。これは僕からの挨拶の一発だ。
「吸排拳壱式『
この技は全身の力と『掃除機魔法』の排出する魔力を右手に凝縮し、発勁として放つ技だ。上手く当たればいーくんでも粉砕出来るほどの威力がある。ようは僕がまともにくらったら粉砕してしまう!
「ぐおおおおおおおお!!」
防御をされてしまったけど、その威力にかなり吹っ飛んだ。いや、吹っ飛んだというより自ら飛んだのか? それでも全くダメージがなかった訳ではなさそうだ。よし、このまま畳み掛ければ……っと!?
「あぶなっ!?」
地魔法で巨大化させた斧を横薙ぎに振りかざしてきた。あのまま突っ込んでたら真っ二つだった。
木製である意味とは……!! とりあえず一旦離れて間合いを取る。
「大した威力だ……。まだ防御した左腕が動かねぇ。だが、これで終わりだなんて思うなよ? 坊主!」
うはっ! さっきまでの雰囲気と全然違う。明らかに本気になってる。
チラチラっとゴリラ騎士様の方を見ても全く気にした様子はない。この程度(大きな石斧)じゃ継続って事か。
「今度はこっちから行くぞ!!」
いきなり斧を投げつけてきた!! 予想外の攻撃に驚きつつも何とか避ける事は出来たが、体勢が崩れてしまう。くそ、こんな隙を相手が見逃す筈がない!
案の定、物凄い勢いでこちらに向かって走ってきた。けど、いくら体勢が崩れたとしても素手が得意な僕相手に、そのまま突進は無謀じゃない?
そんな心配? は無用だった。なんたって、次の斧を地魔法で用意してたんだから。慌てて避ける。避ける! 避けるっ! 避ける!! あなたの模擬戦用の斧はあっちに飛んで行きましたけど!!
何がやらしいって、攻撃する度に斧の大きさを微妙に変え、間合いをはからせないようにしている事だ。このせいで中々懐に飛び込めない。逆にこのままじゃジリ貧になりそうだ。
さて、どうしようか……。そう考えている間も物凄い風切り音と共に斧が襲いかかってくる。
……こちらから動いて隙を作り出すしかないか。出たとこ勝負になるけど、こちらもリスクを負わないとこのままじゃただやられちゃうだけだ。
「『吸引』!!」
今度はその斧を吸い込む!
「なにっ!? まさかそんな事までできんのか!!」
そして、ここであえて『排勁』を打ちには行かない。相手は、『排勁』がくる事を予想して今度は避けられてしまうだろう。むしろ反撃を受けるだけになってしまう可能性すらある。予想外の事に護衛騎士様の驚いている姿が見える。思わずニヤリと笑みを浮かべる。
よし、かかった!!
「『排出』!!」
さっき吸った『石弾』を放つ! そして、その少し後に斧を護衛騎士様に向かっていきおいよく排出する!
「くそったれ!! 『石壁』!!」
石の豪雨から身を守る為、護衛騎士様は、自分の目の前に大きな石の壁を作った。確かにあれだけ頑丈そうな壁なら防ぎ切る事は可能だろう。だけど、それは悪手だよ。僕は、この瞬間を待っていた!!
ばら撒いた大量の石を防ぐ為に作ったこの壁は、守ると同時に僕が視界から一時的に消えてしまう事になる。その隙を狙うために『排出』した斧の上に乗って護衛騎士様に近づいていく。
壁に斧がぶつかったと同時にジャンプする! 素早く護衛騎士様の後ろに立つとそのまま背中に正拳突きを当てる真似をしてこれで終了だ!!
「勝者! ヴァン君!!」
ゴリラ騎士様によって模擬戦の終了を告げられる。ふぅ、何とか勝ててよかった。びっくりした様子の護衛騎士様に手を差し出した。
「びっくりしたぜ。やるなぁ、坊主」
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
お互いに握手をすると僕は元の位置に戻った。
「おつかれさん!! ヴァンつええな!! 護衛騎士様に勝っちまったじゃねぇか!」
「無我夢中でやっただけだよ。一歩間違えたら僕が負けてたと思う」
今回は、上手く僕の狙い通りに相手が動いてくれただけだ。
もし、石の壁を作ったのが目の前じゃなくて間があいていたら?
たとえ不意打ちで飛んでも見られてて奇襲が出来なかったと思う。
また、たとえ、同じ状況でも、何らかの方法でこちらが見えていて、石の壁をジャンプする事がバレていたら?
飛んだ地点で僕は無防備だ。逆に奇襲を受ける形になってしまうので、やられるだけだ。そういう意味では、今回は運も合わせて僕の勝ちだったと言える。
それにしても疲れたなぁ。たった一戦でこんなに疲れるものなのか。けど、うん、疲れたけど、それ以上に嬉しいな。僕の実力が認められたのもそうだけど、訓練が無駄じゃなかったって事がわかったのが何より嬉しい。
「よし、それじゃ次は俺の番だな!! 俺もヴァンに負けてられねぇな。俺の勇姿、しっかり見とけよ!!」
「うん! 頑張ってね!!」
さて、次はケルヒの番だ。蒼狼との戦いはあんまり見れなかったからちゃんと戦ってる姿を見るのは僕も初めてだな。本人もやる気だし、どんな模擬戦になるか、楽しみだな。
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