第四話 ごっつ痛いで! ワイの拳は!!

 あれから何日か経ち、旅は折り返し地点に来ていた。あれから魔物の襲撃はなく、平和な時間が続いている。そう、これを待ってたんだ。けど、一度刺激を受けると不謹慎だけど、また魔物来ないかな? とも思ってしまう。だって暇だしね……。


 あれから、ケルヒと色々話をした。まだもう一人の僕が生まれた理由が言えてないけど、それ以外については大体話せたと思う。


「あぁ、暇だなぁ」


「暇だねぇ。けど、暇って事は平和って証拠だよ? 出来る事なら魔物だって出てこない方がいいし」


「そりゃそうだけどさぁ……。けど暇だろぉ?」


 なんて意味のない会話をしているんだろう? そんな風に思っていると突然ゴリラ騎士様が鎧車に入ってきた。


「若者達よ、暇そうにしてるなぁ。そこで二人とも、ちょっと付き合ってくれないか?」


「へ? は、はい。内容にもよりますが……」


 ゴリラ騎士様にはお世話になっているので、出来ればお断りしたくないなぁ。


「実はな? このあと小休憩に入るんだが、そこで訓練も兼ねた騎士同士の模擬戦をするんだ。そこで君達二人も参加してみないかなと思ったんだ。魔力の限界値が高い事だし、蒼狼達を退ける事が出来るだけの力はあるんだろう? 他の騎士達も気になってるところでどうだろうか? 君達にもいい経験になると思うぞ?」


「おぉーー!! やるやる!!」


「ちょっ! また勝手な事言って! けど、悪い事じゃないかな? とは言ってもいいんですか?」


「こっちから言ってるんだ。いいも悪いもないだろ?」


「あ、そうですね。それではお言葉に甘えて模擬戦に参加させていただきます」


 予想外のお誘いだったけど、これは楽しくなりそうだぞ。護衛騎士様ってどれくらい強いんだろう? 今からワクワクするな。


 しばらくすると、鎧車が止まった。この前みたいな魔物の襲撃ではなく、小休憩の時間だ。隣のケルヒが今にも飛び出しそうなほど前のめりになってしまっている。


「焦らなくても大丈夫だよ? 少しは落ち着きなよ」


「そんな事言ったって、楽しみで楽しみで。俺は今すぐにでもやりたいんだよ!!」


 何この戦闘狂? まぁ気持ちはわかるけど。けど、さっきゴリラ騎士様が迎えに来るから待っててって最後に言ってたじゃんか。ほら、噂をすれば?


「お? ケルヒ君、やる気だね? こりゃ楽しみだな。ヴァン君はどうかな?」


 ゴリラ騎士様のさわやか? な笑顔でのお迎え。これでイケメンだったらまず間違いなく惚れてる。


「そりゃもう楽しみで仕方なかったっすよ!!」


「僕も楽しみです」


「ハハハ。そりゃよかったよ。私も誘ったかいがあった。では行くぞ。ついておいで」


 鎧車を出て少しすると開けた場所で二十人前後の護衛騎士様が談笑しながら待っていた。どの人も強そうだ。何だか緊張してきたな……。


「待たせたな。もう知ってると思うがこの二人が例の子だ。ケルヒ君にヴァン君、よろしく頼むぞ。そして、二人とも、こいつらが私の隊のメンバーだ。いい奴らだから安心して構わない」


「「よろしくお願いします!!」」


「おぉ、若いな」


「元気があっていいね」


「こっちこそよろしく頼むな」


「べ、別に楽しみだったわけじゃないんだからね!!」


 ホント、いい人そうだ。若干変な人がいたような気もしたけど。優しそうで、それでいて強そうで。この人達を見てるだけで騎士を目指す人が増えそうだ。憧れの的だね!


「それでは、いきなり二人にやらせるのは可哀想だから、何戦か見学してもらってから参加してもらおうかな? それでいいかい?」


「わ、わかったぜ! ですます!!」


 ケルヒの反応が面白い。


「はい。よろしくお願いします!! 勉強させていただきます!!」


 ふふ、これが大人の対応なのだよ。ケルヒ君。


 痛い!! いきなりケルヒに蹴られた……。


「何かムカついたから蹴った。後悔はしてない」


「ひどいじゃんか!」


 僕もやり返す。


「ごっつ痛いで! ワイのげんこつは!!」


「ホントに痛えじゃんか! それ誰やねん!!」


 虎です。がおー!!


「コラコラ。じゃれ合わないで。始めるぞ?」


「「じゃれ合ってません(ないぜ! です)!!」」


 納得いかない……。けど今は護衛騎士様の模擬戦を見る方が優先だ。ケルヒとは後で決着をつけよう。


 そして目の前には二人の護衛騎士様が向き合っている。一人が片手剣に盾を。もう一人が槍を持っていた。ゴリラ騎士様によるとこの隊では一つの武器にこだわるのではなく、たとえ得意武器があっても、ある程度どんな武器でも使えるように、こういった模擬戦ではさまざまな武器を使わせているらしい。状況に合わせて臨機応変に出来るようにする為なんだって。その姿は真剣そのものだ。


「それでは、いくぞ? よし、はじめ!!」


 こうして護衛騎士様達の模擬戦が始まった。結果からいうと、とにかく凄いとしか言いようがなかった。槍に火を灯したと思ったらそれに対応するために盾に水をまとわせたり。リーチが長い槍が有利かと思えば、それをかいくぐって懐に飛び込んだ片手剣の人が最終的に勝利していた。今回は片手剣の人が勝ったけど、正直その内容は紙一重だったと思う。


 それにしてもやっぱり護衛騎士様達は凄い。魔法と攻撃の併用は当たり前に出来るし、とにかく視野が広い。あと、武器によっての役割分担がはっきりしてるんだと思う。この武器ならこの間合、攻める、守る……。大変勉強になりました!!

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