第三話 も、勿論ですだぜ!
その後、なんとか説明して事なきを得た。伝わったかわからないけど、きっとケルヒならわかってくれると思う。
ちなみに今は、襲撃の後処理を護衛騎士様達や冒険者が行っている為、小休憩中だ。魔物の血の処理や、取れた素材の解体、怪我人の手当てなど、やる事はいっぱいだ。そして今、目の前にはゴリラ、おっと、護衛騎士様がいる。周りの人に指示を出しているあたり、どうやらこの人がこの隊の護衛隊長らしい。ちなみに今回の部隊は十に分かれていてそれぞれに護衛隊長がいるらしい。それはいいとして、今回の戦闘について話があるらしく護衛騎士様達用のテントに呼び出された。
「それでは、蒼狼達は真っ直ぐ君達に向かってきていたと?」
「そのとおりです。護衛騎士様。あの時こちらに来た蒼狼達は、間違いなく僕達の方に向かってきていました」
そう、あの時はがむしゃらに走って獲物を探していたところ、ちょうど鎧車から飛び出した僕達に狙いを定めたのかと思っていたけど、今改めて考えてみると、あれはどちらかというと探していた獲物を発見したからこちらに来た感じだったように思う。
「なるほど。ちなみにだが、君達は『恩恵』を授かった時、神父様に魔力の限界値が高い方だって言われたかい?」
ん? どういう事?
「えっと……」
「あ、ごめんね。今回の魔物って本来ならこんなところでは出ない魔物なんだ。だけど、ここ最近似たような襲撃が何回か起こってる。そのどれもが魔力の限界値が高いとされている人が同乗してる時に起こっていて、その人達が狙われてたんだ。だからもしかしたら君達もなのかな? と思った訳だよ」
「そういう事なんですね。はい、僕達は、あ、特にこっちのケルヒが魔力の限界値が高いと言われてました」
「ちょっ! ヴァンだって結構高めだったじゃんか!! おっと、じゃんかですよ!!」
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいぞ? 所詮私は、ここのいくつか分かれている隊の一つを見ている程度の人間だ。別に咎めるつもりはない。私が聞いた理由は、もし魔力の限界値が高かった場合、万が一に備え、このあとの移動は元の鎧車ではなく、私達に同行して欲しいと言いたかっただけだ」
あー、だからそんな事聞いてきたのか。てっきり何か怒られるのかと思った。
「わかりました。護衛騎士様の指示に従います。ケルヒもそれでいいね?」
「も、勿論ですだぜ!」
このゴリラ、おっと護衛騎士様、もうゴリラ騎士様でいっか。んで、そのゴリラ騎士様がいい人そうでよかった。見た目に反して知性的な方で隊長になるだけあって出来る男って感じだ。見かけで判断するのはよくないね。ただ気をつけなきゃいけないのはいい人ばかりとは限らないって事だね。今回はいい人だったから良かったけど、次回はわからないからね。あと、ケルヒの言葉遣いをもうちょっとなんとかしないとなにかあったときに怖いかもしれないなぁ。宿屋の息子なのに言葉遣いは教えてもらえなかったのかな?
「三男坊になんか教えてくれる訳ねぇだろ?」
何で僕の心の声って隠せないんだろ……。
それにしても、勝手に戦ったのを怒られなくてよかった。緊急時には戦っていいって話嘘じゃなかったって事だね。一時はどうなるかと思ったよ。
「そういえば、君達の荷物は勝手ながら部下達が持ってきた。こちらで用意した鎧車に乗せとくからあとで忘れ物がないか確認するといい。それから、小休憩も終わって、そろそろ出発するから君達もそちらに移動してくれ。襲撃があっても今度はおとなしく乗っていてくれよ? あぁ、それから君達が狩った蒼狼達から採れる素材だが、王都に到着してから渡すからそのつもりで。お詫びとしてこちらで解体しておくので安心してくれ」
いい笑顔で去っていったゴリラ騎士様。荷物から解体までしてくれてホントにいい人だった。まさにさわやかな(容姿以外)騎士様だった。僕は人に恵まれてるね。感謝しなきゃ。
おっと、そんな事より移動しなきゃ。
見た感じはさっきまで乗ってた鎧車と変わらないな。護衛騎士様達が乗ってるようなやつはてっきりもっと豪華になってるのかと思った。まぁ、それはそれで落ち着かなさそうだけど。あ、それともこれはただの予備かな? まぁいっか。それにしてもさっきまでたくさんの人が乗ってたのが今度は二人きりになったから急に広くなっちゃった。
「はぁ、疲れたな。てっきりあの騎士様に怒られるかと思ったぜ、俺」
「もう、ケルヒが勝手な事をするからだよ」
「まぁ結果的には怪我もなかったし、魔物との初戦闘も無事終わったからいいじゃねぇか」
「全く反省してる様子がないなぁ。もう、次はどうなるかわからないんだよ?」
「わかった、わかった! この話はこれで終わり!! な? 俺は疲れたから少し寝るぜ? おやすみっと」
逃げたな。……もう。まぁ実際、最初の戦闘条件としてはそんなに悪くなかった思う。相手も群れのボスがいたとはいえ、たったの三頭だったし。正直なとこ、僕が今までやってきた訓練が無駄じゃなかった事が証明されてホッとしたよ。
それに……、もう一人の僕が出てきてもケルヒは拒否しなかったし。実はこれが一番心配だったんだ。僕から見ても、もう一人の僕は変だし、そもそももう一人の人格があるって事を受け入れてくれるかわからなかったもんね。あれから触れてこないところを見ると気を使ってくれてるんだろうけど。今はその気遣いが嬉しいな。
このもう一人の僕が出来た理由、いつかは話さないといけないかな? いや、まぁそんなに重い話って訳じゃないんだけどね? ただその時の事を思い出すと震えが止まらなかったり、冷や汗が止まらない程度の事なんだよ、ハッハッハ。正直話すだけでしんどい。
はぁ……。原因だけど、まぁわかるよね。うん、サラさんの訓練が原因だ。あの過酷な訓練の中、僕の精神はどんどん摩耗していったんだ。サラさんが言うには僕って元々そんなに戦闘向けの性格じゃないんだって。けど、実際は僕は訓練を続けなきゃいけなくて。あれ? 今思えば、別に無理に強くなくてもよかったんじゃ? それに気づかないサラさんな筈もなさそうだけど……。まぁそこは考えても仕方ない。まぁ、その中でいーくん達はどんどん僕と同じ姿になっていくし、力もそれに伴って強くなっていった。途中からは全部が僕で、倒しても倒しても僕が減らないし、僕が倒したのか、それとも倒されたのか、よくわからなくなってきてたんだ。きっとあの時、僕の心も限界だったんだと思う。
その時、僕の中から声が聴こえたんだ。それに応えたらもう一人の僕が生まれたって訳。一瞬、いーくんが取り憑いたんじゃないかと思ったけど、違う筈だと思いたい。僕もよくわからないけど、サラさんが言うには僕を助ける為に生まれたんだから悪いものじゃないと思うよってさ。いやいや、原因サラさんですけどね? まぁけど、戦闘中恥ずかしい以外は悪い事ないし、もう割り切っているからいいんだ。ただ、問題はこれを言って信じてもらえるかって事だよね。まぁこればっかりはケルヒ次第かなぁ。
ちなみに僕が決して戦えない訳ではない。むしろ魔法だけなら僕の方が得意な位だ。もう一人の僕の方が大雑把なせいか、制御が甘いみたい。今回みたいな力技でいいならもう一人の僕の方がいいけど、僕が戦った方がいい場合もあると思う。僕にしか使えない技もあるしね。まぁ、逆にもう一人の僕しか使えない技もあるけど。こればっかりは適材適所でやっていこう。
はぁ、疲れたなぁ。まだ魔物の襲撃の謎とかもあるけど、ケルヒも完全に寝てるし、僕も考えるのは後にして少し寝とこう。おやすみ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます