第二話 光ヲモ飲ミ尽クス闇
抜け出してきた三頭が、こちらに刻一刻と迫ってくる。それに対し、僕らは二人。護衛騎士様や冒険者もきっと助けにきてくれるだろうから、無理に倒す事を考えるより、時間稼ぎをした方がいいかな……?
「ケルヒ!! 無理に倒そうとしないで、護衛騎士達が来るまで保てばいいんだから無理しないようにね!!」
「そんな悠長な事言ってないで、俺達だけで、全部倒しちまおうぜ! 俺達の初陣、派手に決めようぜ!!」
あぁーもう! ちょっとは落ち着こうよ!!
きちんと話をする前に蒼狼達がこちらまで来てしまった。こうなったら、やれる事をやるだけだ。
ふと、隣のケルヒを見ると、その姿が丸腰だったのが気になった。よく考えたら元々武器を持ってなかったな。僕と同じように体術で戦うのだろうか? そうするとバランス悪くない? 出来れば前衛とか後衛とか分かれられた方が良かったんだけどな。
「『召喚』」
ふと、ケルヒが手の平を上にして唱えると、地面に魔法陣が浮かび上がる。すると、手の平サイズの幼女がケルヒの手の上に突然現れた。
幼女がいきなり出てきた!
「ふ、驚いたか。これが俺の恩恵である『精霊魔法』だ。異界の精霊を召喚出来る。コロコロ言うからコロだ」
「コロコロ〜♪」
ケルヒに抱きついた! コロはとてもご機嫌である。
頭の理解が追いつかない……!
そんな、ま、まさかケルヒがロリコンだったなんて……。おのれ、ロリヒめ。いや、なんかしっくりこないな。うーん、ロ、ロリ、ロリヒャー。これだ! 尚、某掃除機メーカーを貶める意図はありません。誰に向かって言ってるんだ、僕。
「おい、聞こえてんぞ! 何がロリヒャーだコラ!!」
「いや、まぁ人それぞれ趣味があるからね。それでも僕らは心友だよ、ケルヒ!!」
「おい! 勝手に話を進めてるんじゃねぇ!!」
しかし、こんな幼女に戦わせるのだろうか? もし、そうならなかなかの鬼畜野郎である。
「ケルヒ、そんな幼い女の子に戦わせるつもりなの? もしそうならこれからの付き合いを考え直さなきゃいけないんだけど……」
「ちげぇよ。こいつは俺の武器になるんだ。見てろ」
そう言うといつの間にかケルヒの肩に乗っていたコロが背負っているポーチの中から一枚の葉っぱを取り出した。緑色に輝くその葉っぱはなんとも言えない、神秘的な雰囲気を醸し出していた。その葉っぱをどうするのだろうかと考えている間に、なんとコロが葉っぱを丸呑みしてしまった。
葉っぱを食べた? どういう事??
疑問に思っていると突然コロの全身が輝きだし、輝きが収まると刀へと姿を変えていた。その刀身はほぼ透明だったが、よく見るとわずかに碧色をしている。鍔には顔が龍に似た一本角の鹿が描かれており、とても神々しい気を纏っている。またケルヒにも変化があった。紫色の瞳の片方が刀と同じ碧色になっている。
「風の精霊刀『
何これ! めっちゃかっこいいんだけど!! なんかケルヒ属性盛りすぎじゃない!? 魔力が多くて、イケメンで、魔法もこんなかっこいい『精霊魔法』でおまけにロリコン!!
「だからロリコンじゃねえっての!!」
また心の声が漏れてた……。っと今はそれどころじゃない。蒼狼達がさっきの輝きに警戒して止まってたからよかったけど、もう正直余裕がない。僕もそろそろ戦闘に切り替えないと……。
……僕だって負けてられないな。これまでサラさんのもと、精一杯訓練してきたんだ。まぁその結果、ちょっと特殊な感じになっちゃったので驚くかもしれないけど。あんまり嬉しくない驚かれ方だなぁ。
ここで僕は、戦闘に移る為に心のスイッチを切り替える。僕から我へ……。
「我が心友よ。いざゆこうぞ」
「ん? ヴァン、急にどうした? なんかおかしいぞ?」
「異な事を。我はいつもどおりである。前を見よ。犬畜生が迫っておる。心してかかれ」
「お、おう」
「ふむ、犬畜生の大将がこちらに来るか。我と心友、どちらが強者であるかよくわかっておるな。面白い。我の糧となるがよい」
「俺の方がつえーし。てかもう話を聞いてないなこりゃ」
こちらに犬畜生の大将が迫ってくるが遅い。この程度、我が師と比べれば歩いているのと同義。止まってみえるわ。だが、我が心友の邪魔になってはいかん。少々離れるとするか……。
「ハハハ! ついてこい! 犬畜生の大将よ!!」
十分な距離をとったところで、コートを我が
そして我は右手を前に出す。犬畜生の大将よ、わからんか? これだけでもう終わったも同然なのだぞ?
「『
我が右手から特異魔法『掃除機魔法』が発動される。この魔法は我に相応しく、生物以外の全てを飲み込む事が可能である。真に遺憾ながら、この犬畜生の大将を飲み込む事は不可能だが、我の前に跪かせる事は可能だ。圧力を上げてこちらまで引きずり込む。
「抵抗しても無駄だ。その程度の力で抗える訳がなかろう。王の前にひれ伏すがいい」
「グルルルルルルルルルルッ!!」
「おすわり。頭が高いぞ」
『
さて、こちらは終わったが、我が心友はどうだろうか?
「てりゃあああああああああ!!」
ほぉ? さすがは我が心友といったところか。見事に二匹の犬畜生をさばいておるわ。あの『風麟刀』と言ったか、珍妙な刀が振られる度に見えない刃となって犬畜生共に襲いかかっておる。なんとか避けているようだが、あの様子ではじきに終わるであろうな。
ふむ。これなら我の助けは不要だな。それでこそ我が心友よ。我の片腕に相応しい。
さてはて、我の役目も終わりだな。それでは、疲れたところであとの事はもう一人の我に任せるとしようぞ。
「ふ、心友よ。また戦で相見えるとしようぞ」
我から僕へ……。
……ふぅ。スイッチが切り替わった。いつもながらとても疲れた……。
主に精神的に。
は、恥ずかしいよぉ! 何であんな喋り方なんだろ。ケルヒもびっくりしてたもんね。初めてのときは僕もビックリしたもん。穴があったら入りたい。けどまぁ、見られたのもケルヒだけだし(多分)、傷口は浅いぞ僕!
まぁ、この事はどっちでもいい事にしよう。ちょうどケルヒの方も終わったみたいだし。
そんなケルヒは、こちらに手を振りながら向かってきた。
「おう! おつかれさん!!」
「うん。お疲れ様!」
ケルヒが手を挙げるので僕も手を挙げ、ハイタッチする。
おぉ、何か仲間って感じがしていいなぁ。嬉しくなってくる。
「それにしてもヴァンが倒した狼は、でけぇな。これを一人でやったのか? すげぇじゃねぇか。そういや、さっきのヴァンって何かおかしくなかったか? まるで別人のみてぇな……」
そこについては聞かないでほしい。闇が深いのだ。危険が危ない(錯乱)。まぁ大体サラさんが悪いんだけど……。
「ちょ、ちょっとね。」
「まぁいいか。それで、俺の『精霊魔法』も大したもんだったろ?」
「うん! すごくかっこよかった!!」
「だとよ、コロ。良かったな」
そう言うといつの間にか元に戻っていたコロがケルヒの頬に嬉しそうに抱きついた。
「やっぱりロリコ……」
「だからちげえっての!! 勘違いすんな!!」
「だって魔法ってイメージなんだよ!? そんな可愛らしい子をイメージして召喚したって事はケルヒはやっぱり……!」
「やっぱりって何だコラ! ヴァンこそおかしかったじゃねぇか!!」
「いや、あれはねぇ。訓練の副作用で……。話すと後戻り出来なくなるよ?」
「何だ? おかしな薬でもやったってか?」
「そ、それは違うよ!? そんな事する訳ないじゃんか!!」
ただ適度な運動をしただけです(白目)。
「いや、それなら話せる筈だ! 話せねぇって事は何かおかしな事でもやったんだろ! さぁ吐け!!」
ジリジリと詰め寄ってくる。
「やだなぁ、アハハ。そんな訳ないじゃんか」
ふぅ、やけに汗が出る。実際のところおかしな薬なんてもちろんやってない。ただ訓練を思い出すだけでもこの汗である。完全にトラウマになっているのだ。ここで更に口にすると当時を思い出して動けなくなりそうだ。
そのまま言っても信じてもらえなさそうだしなぁ。どうしよう……。
思わずポケットに手を入れて汗を拭く為の布を探す。確かサラさんがそれ用の布を入れてくれたのでコートに入れてあったはず……。
おっと、右のポケットにあった。それを取り出して汗を拭く。
やれやれだぜ……。ん? どうしたのケルヒ? ポカーンとしてるけど……。
「その手に持ってるのって何だ?」
「何言ってるの? 汗拭き用の布にきまっ……!?」
何でここに入っている!? サラさんの黒パンティー! 裏ポケットにあった筈じゃ!?
裏ポケットを確認しても入ってなかった。くそ!! また嵌められた!!
「ち、違うんだ!! これは罠で……!!」
「こりゃきちんと話し合いしなきゃいけねぇ案件だな。覚悟しろよ?」
「そ、そんなぁ……」
締まらない終わりになっちゃったなぁ……。ハァ……。
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