閑話二 お、俺にそっちの気はないぞ!


 俺の名前はケルヒ、今日は『恩恵』を授かる為に教会にやってきた。今日が楽しみすぎて、全く寝れなかったぜ。


 早速『恩恵』を授かる為に、並び始めたんだが、これがまた、暇でしょうがねぇ……。


 暇でどうしようもねぇから、前の奴が下を向いたまま塞ぎ込んでやがる。せっかくの日になんてもったいない奴だ。友達いねぇのか? お、良く見れば結構な色男だな。よし、どうせ暇だし、ちょっくらい話かけてみっか。


「なんだ? そんな下なんか向いて、しけた面しやがって。せっかく『恩恵』を授けられる日なんだぜ? もっと楽しそうにしようぜ! せっかくの色男が台無しだぞ?」


 俺、思ってたより舞い上がってんのか? 自分で言ってて何だが、これじゃナンパしてるみたいだな。色男は、塞ぎ込んでいた顔を上げ、こちらへ振り向いた。


 お、こうやって真正面から見るとほんと、色男だな。かっこいいというよりか可愛いって感じだな。……てか男だよな? 人畜無害の子犬みたいで庇護欲が沸いてきそうだ。背は俺よりちょっと低いか? それにしてもこれまで太陽の光を浴びた事がないのかって位に、肌が真っ白だ。その割には身体は引き締まっている。こりゃ相当鍛えてるな。何となく話し掛けただけだったんだが、こりゃ面白そうな奴を見つけたな。


「突然何ですか? そりゃ、僕だって今日の『恩恵』は楽しみでしたけど、それ以上に凹む事だってあるんです!!」


 グハッ! なんて破壊力してやがる!! 男のくせに頬を膨らませやがって……。周りを見てみろ。俺と同じ様に何人もやられてやがる。こいつ天然だな! なんて厄介なやつだ!


 動揺してるのをバレないように謝ったら、今度は笑顔で許してくれた。こいつはかなりやべぇ! お、俺にそっちの気はないぞ! ないったらない!!


 そこからはお互いの自己紹介をしつつ、順番を待った。色男の名前はヴァン。ちょっと訳ありっぽい感じはするが、悪い奴じゃねぇな。てか隠し事とか全然出来無くてこっちが心配になってくる位だぜ。話を濁そうとしたり、俺に密かにちょっかい出そうとしてるが全然隠せてねぇ。むしろ隠す気あるのか? まぁどんな奴にも秘密の一つや二つはある。詮索はしないがこのままでヴァンは大丈夫か? どうやら成人後は王都に行くつもりらしいし、俺も王都に行くつもりだったからこういう奴と一緒に旅をするのもいいかもな。こんなに素直ないい奴はなかなかいねぇ。まぁ仲間になるかどうかは、これから授かる『恩恵』次第にもなっちまうんだけどな。


 暫くすると、ヴァンの順番が回ってきた。ガッチガチに緊張してるが大丈夫か? まぁこの『恩恵』次第で人生変わっちまうだろうし、仕方ねぇか。ヴァンを見てるとこっちまで緊張してくるぜ。


 緊張してたのも束の間、ヴァンの奴がやりやがった! 何を思ったのか、目の前の神具である水晶ではなく、神父様の水晶、あ、間違った、頭を触りやがった! いや、触るどころかペチペチ叩きだしたぞ!! あの優しそうな神父様がプルプル震えてるぞ。わざとか!? わざとなのか!?


 笑いを堪えるのに必死になっていたら、ヴァンがこっちを向いて視線で助けを求めてきた。この様子じゃわざとじゃなかったか。それにしてもそんな目で見られてもな……。謝り通すしかないだろ。


 その後、ヴァンと必死になって、神父様に謝り続けた。ここでもヴァンの破壊力炸裂! 上目遣いで目をうるうるさせて、手を祈りように胸の前に当てて謝る。


 あ、あざとい……! 最早嫌がらせだろ? これでふざけてるんじゃないってんだから大したもんだ。神父様がそれを見てひくひくさせながらも耐えてやがる。ちなみに俺には無理だった。年季が違うね、年季が。


 ようやく落ち着けたので、ヴァンがやっと水晶に触った。触れると同時に辺り一面が白く輝いた。


 おぉ! ヴァンの『恩恵』は特異魔法か! 実はこの光の色で何の魔法なのかが分かる様になっている。赤なら火、青なら水、黄なら地、緑なら風だ。そしてヴァンの様に白であれば特異魔法だ。更にこの輝きが強ければ強いほど、魔力の限界値も高くなるらしい。ヴァンの奴、相当魔力の限界値が高そうだ。


 暫くすると、輝きが収まり、辺りがシーンとなる。これだけ輝けば、周りの連中もびっくりして固まっちまうわな。しかも特異魔法ときたら誰でも神父様の言葉の次を待っちまうのも仕方ない。勿論、俺もその内容が、気になっている。


 …………。


 ちっとも話し出さないな。本来ならとっくに神父様から話があってもいい筈なんだが……。


 二人共、異様な雰囲気を醸し出し、周りもこの雰囲気に押されて、黙ってしまった。


 まぁいつまでも黙っている訳にもいかねぇわな。シスターを通して、魔法を伝えてきた。いやいや、シスターを通してって、どんだけ神父様話すのが嫌なんだ? 前代未聞だぜ……。


 ヴァンが詰め寄ろうとしたので慌てて止める。


 うお! 力あるな。こっちも全力で止めないととてもじゃないが止められそうにないぜ。


 何とかヴァンを宥め、横にどかす。まだ俺の順番じゃないのに何でこんなに疲れてるんだ……。


 ふぅ。漸く俺の番だ。待つ間暇で仕方なかったのに、今じゃやっと俺の番になった気分だ。


 結果をいえば、俺もヴァンと同じ特異魔法だった。『精霊魔法』って魔法で、魔力の限界値もヴァンより上だった。やったぜ。こんなに振り回されて、俺だけ大した事無かったら情けなさすぎていられなかったぜ……。


 何とか『恩恵』も授かったし、用事も済んだのでさっさと外に出る。それなりに長い時間並んでたので、時間がもうお昼近くだ。それでもまだまだ並んでる人数が減るどころか増えている気さえする。まぁ年に一度の事だしな。


 並んでいる奴らを眺めていたんだが、ふと、背後から嫌な気配を感じて、慌てて振り返った。すると、ヴァンが人差し指を俺の肩辺りに当てようとしていた。何となく嫌な感じがしたから咄嗟に避ける。


 な、何だ? 俺も驚いたが、避けられたヴァンはもっと驚いていた。それにしてもヴァンの奴、動きもはやいな。結構危なかったぜ。


 事情を聞いてみると、どうやらサラっていう奴がヴァンに余計な事を吹き込んだらしい。全く、唾を付けるってどんな発想でそうなるんだよ。こりゃ、他にも余罪がありそうだから注意した方がいいな。ヴァンの先生らしいが、ただの先生って訳じゃなさそうだな。まぁどうしてこんな事をさせたのかはわからねぇし、こんな事を疑いもせずにやっちまうヴァンもやべぇ。この先が心配になってくるぞ。


 フッ、それにしてもこんな会ったばっかの奴の心配なんて、俺らしくねぇな。まぁ変わった奴であるのは間違いないが……。まぁあれだな。俺はきっとヴァンの奴が気に入っちまったって事だな。


 ……そういや、ヴァンも仲間を探してるんだよな。


 よし、決めたぞ! 俺がヴァンの仲間になろう。心配だからってのもあるが、それだけじゃねぇ。むしろそんな理由で仲間になんかなるなんて、ヴァンに失礼だ。


 理由は単純だ。先ず、今日見ていた限りで、魔力の限界値が俺の次に高かった。しかも同じ特異魔法の使い手で、確か『掃除機魔法』だったか? どんな魔法かはわからねぇが、そのサラって先生が何とかモノにしてくるだろうよ。それに魔法を抜きにしたってあの身体の鍛え方は普通じゃねぇ。俺も相当鍛えてきたつもりだったが、俺より小さいヴァンが俺と変わらない位の力があった。さっきだって相当のはやさだったし、ヴァンも俺に負けない位、鍛えてきた証拠だな。これだけ鍛えていた奴は、さっき見ていた限りじゃ他にいなさそうだったし、お互いの条件もそれ程悪くなさそうだ。それこそさっき言ってた唾を付けとけって位だな!


 無事、仲間になる事を了承してくれた。勢いで言った手前、断られなくてよかったぜ。それにしても何だか気合が入ってきたな! 成人まであと五年か。ヴァンなら必ず今以上に強くなってくるだろうな。俺も負けちゃいられねぇ。


 よーし! 頑張っぞ!!


――――――――――――――――


 第一章まで読んでいただき、ありがとうございました。次話より、第二章に舞台は移り変わります。


 サラさんみたいなメイドが欲しい! ヴァン、ケルヒにもっと頑張れ! 活躍しろ! もっとヒロインを出せ! と思っていただき、少しでも応援してもいいかな? って思っていただけましたら、☆評価、フォローをよろしくお願いします! 励みにさせていただきます。


 引き続き、『掃除機魔法が全てを吸い尽くす!!』をよろしくお願いします。

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