第十三話 べ、別にヴァンの為に泣いてるんじゃないんだから!
うおおおおおおおお!! 遂に十五歳になったぞ! 待ちに待った、十五歳になったんだぞーー!!
あまりの嬉しさに思わず実際に叫んでしまうところだった。今いるのはケルヒとの集合場所から少し離れた公園。王都へ行くには北門から出る鎧車に乗る必要があるので、そこが集合場所だ。
ちなみに鎧車とは、マルマジロという魔物が荷を引く車の事を指す。マルマジロの性格は大人しく、人に懐く為、赤ちゃんの時から育てられ、大きくなったら運んでもらう訳だ。特徴としては、背中がとにかく硬い。そして、危険を察知する能力が高く、察知するとその場で丸くなる。丸くなってしまうと動かなくなってしまう為、逃げる事は出来ないが、移動手段を失うリスクが低くなる。状況にもよるが、護衛がしっかりある場合、鎧車が一番リスクが低く、結果的に一番利用されているらしい。
基本的に、都市から王都への移動手段は、国営乗合便となる。理由としては、単純に危険だからである。都市部周辺は、冒険者によって間引かれているので魔物がそこまで多く出ないが、途中は定期的に魔物が襲ってくる事になる。道中も平地ばかりではなく、森に隣していたり、水の確保も大事だ。勿論、夜営もしなければいけない。夜営なんて、素人じゃとても出来ないし、この国営乗合便であれば王国からの専属護衛騎士様に加え、冒険者も多数参加している。定期的に往復を繰り返しているので冒険者にとってもいい稼ぎ口の一つにあげられている。
この他の移動手段になると、ギルドに直接依頼する形になるが、割高になってしまう為、緊急時以外、利用する人は殆どいないとの事。
さて、こんな説明をしている訳だけど、これには深い理由があるんだ。今、僕の正面には領主様とサラさんが立っているんだけど、領主様がどう見ても目が潤んでいるように見えるんだ。いきなりどうしたんですか? 今までそんな様子見せた事なかったんだけど……。
「べ、別にヴァンの為に泣いてるんじゃないんだからな! い、いなくなってせいせいしてるんだからっ!!」
……誰?
領主様が壊れてる。むしろ偽物か? 結局ミスド様との一件以降、最後まで声を掛けられる事なく、覗かれてただけだった。育ててもらったのは感謝してるんだけど、結局この人はなんだったんだ。
「ヴァン君は私が育てた」
サラさんはサラさんでキリッとした表情でそんな事を言ってるけど、どうしたの急に。
何だよ、この二人。他人のフリしていいかな??
いや、勿論僕だってテンション若干おかしいけどさ? なんたって、今日という日をどれだけ待ちわびた事か……!
まぁ、このままじゃ埒が明かないから話を進めようか。
「今までお世話になりました。二度と会う事も無いと思いますが、この御恩は一生忘れません。特にサラさん、ずっと僕の面倒を見てくれてありがとうございました。今僕がここにいられるのもサラさんのおかげです。僕にとって、サラさんは新しい母のようでした」
……恥ずかしくなってきた。サラさんも恥ずかしいのかプルプル震えている。感動してくれてるのかな?
「……そこは母じゃなくて、お姉さんでしょうが!! こんなうら若き乙女に向かって! もう、お姉さんと呼びなさい」
―――危なかった!! 間一髪避けれたけど明らかに殺しに入ってる。笑いながらやってるけど、もしこれが当たってたら、意識か命がとんでたよ。危うく出発する前に終わるところだった。
おお、ヴァンよ。死んでしまうとは情けない……。ってこれじゃ困る。
よくよく考えたら、確かに面倒見てもらったけど、それ以上に殺されそうにもなってたしね。そこまで言っちゃうとヤバそうだから黙っとくけど。
それにしてもサラさんは出会った頃と全然変わってないなぁ。確かにこれじゃお姉さんにしか見えないかも。なんか特別な秘術でもあるのだろうか。糸で引っ張るとか、『操糸魔法』で筋肉とかシワとか操作出来そうだからそれくらいはしてそうだ。
おっと、余計な事を考えているとサラさんからの殺気が……!
話を逸らそう。それに比べると、領主様はなんというかナイスミドル。誰かに似てる気がするんだけど誰だろう。あと、告白返事待ちみたいなチラチラした視線やめてもらえませんか? ちょっと厳しいです。
「えっと……。領主様もお元気で」
崩れたーーーーーーー!! 領主様ダウン!! これは触れないにしよう。そうしよう。ちょっと面倒な人になってるよ。領主様の威厳はどこにいったんだ? イメージが崩れていく。
「あ、そうだ! ヴァン君に旅立ちのプレゼントがあるの。目を閉じて、手を前に出して」
サラさんが領主様をスルーして話を始める。流石サラさん、慣れてるね。丁度気まずかったし、ここはサラさんの話にのろう。プレゼントと聞いて断る理由もないし、何よりサラさんからもらえるのも素直に嬉しい。
何をくれるのかな? 素直に目を閉じて手を前に出す。
「はい、どーぞ♡」
……ん? これは何か布っぽい? 目を開けてみると黒いレースのブラが僕の右手にあった。
「ぶるああああああああああああああああああああああああああああ!!」
とりあえず地面に投げつける。油断してたらこのざまだよ!! こんな時まで何してるんですか。バカですか。いや、バカですね、この人!!
てへっとした顔して恥ずかしがったフリしても無駄ですから! そして隣の領主様も脱ごうとしないで下さい! 渡されたってどうすればいいですか!!
……ハァ。一気に疲れてしまった。溜息をついていると、肩を叩かれる。顔を上げると、そこにあったのは黒の指貫グローブだった。これが本当のプレゼントだったんだね。同じ黒でも雲泥の差だったよ。最初からこっちを渡してくれたら感動してたのに……。
「私の魔力を込めた糸で編んだ指貫グローブだよ。作るのに苦労したんだから、大事にしてよね。ちなみに今着てる服も全部同じように編んだやつだからね。愛を込めて頑張りすぎたから、鎧に負けない位、頑丈になったよ。剣も槍も通らない程の耐久性
だけど、絶対に守ってくれる訳じゃないから、油断しちゃダメよ。せっかくだからさ早速付けて見せてよ。あ、そういえば訓練でも使ってた鎧もあるけど、あれもいる?」
「そっちは結構です!!!!!!」
油断も隙もありゃしないよ。速攻で断って、指貫グローブを嵌めてみる。
うん、ぴったりだ。服もそうだったけど、何でこんなにぴったりに出来るんだろう? 性能も凄いらしいし、やっぱりサラさんはただ者じゃない。ただ、何でコートも含めて全部黒で統一されてるんだろう?
「それは
大変だ! 変態だ!!
本当サラさんらしすぎて困る。けど、それも今日までなんだね……。
その後、少し世間話をしていたが、あまり遅くなってしまうと他の人を待たせてしまうかもしれない。いや、むしろもう待たせちゃってるかも。名残惜しいけど、そろそろお別れしよう……。
「そろそろ名残り惜しいところですが……、行きますね!」
「身体には気を付けるんだよ?」
「べ、別に帰って来なくたって寂しくなんかないんだからね! たまには帰ってきて、顔を見せて欲しいだなんて思ってないんだからね!!」
……結局最後まで締まらないなぁ。
集合場所まで全力で走って行く。真っすぐなので迷う事はないけど、多少は遠いし、思った以上に話が長引いてしまったので、魔力も使って急ごう!!
魔力を足につれ、どんどん加速していく。よく考えたら初めて全力で走った気がする。何だか楽しくなってきた……!
周りの人達がポカーンとした表情でこちらを見ている気がする。どうかしたのだろうか? 一瞬しか見えないからよくわからない。
あっという間に集合場所に辿り着いた。やはり、既に多くの人が待っていて、その中には、勿論。僕の友達であり、仲間でもある、心友ケルヒの姿もあった。目の前まで全力ダッシュだ!!
「おーーーい! ケルヒーーーーー!! ハァハァ、お待たせ」
「お、おう。久しぶりだな。随分と張り切ってるな。てっきり魔物が来たかと思ったぜ。周りを見てみろ。びっくりして固まってるぞ」
「え? え? あ、ご、ごめんなさい!! けどさ、今日は出発の日だよ! 落ち着けって言われても無理だよ!」
「まぁ、そりゃそうか。俺も楽しみで寝れなかったしな。そろそろ出発するだろうから鎧車に乗ろうぜ。積もる話は出発してからな。これからよろしく頼むぜ、相棒」
「うん! こちらこそよそしくね、心友!!」
なぜか向けられたジト目を無視して鎧車に乗ると、そこには既に何組かの人達が乗っていた。全員が僕達に視線を向けてくるので若干居心地が悪い。特に女性からの視線が熱い。何でそんなにこっちを見てくるんだろう。
慣れない視線にオロオロしているとケルヒが他の人から見えにくい入り口側の端っこに座るように勧めてくれた。流石イケメン、やはり出来る男は違う。
視線を出来るだけ気にしないようにして、暫くじっと待っていると鎧車が動き出した。どうやら出発の時間のようだ。
あぁ……ドキドキしてきた! 本当に出発するんだね。隣にはケルヒがいて……。仲間っていいな。サラさんの言う通りだ。
領主様、サラさん、本当にありがとうございました。僕、頑張るよ!!
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