第十一話 ははん、開け方なんて知りませんが何か?
魔法を覚えてから二年が経った。今日も朝日と共に目が覚める。さぁ、今日も頑張るぞ!!
先ずは、目を覚ます為に、用水路へ顔を洗いに行く。ちなみに顔を洗う時に気を付けておかないと、朝からサラさんに落とされる。顔を洗い、朝食までにはまだ時間がありそうなので、朝の準備体操をしてから部屋に戻る。ドアノブに手を掛けようとしたその時、いつもなら静かな筈の廊下から、僅かな声と、壁を叩く音が聴こえてくる。
いけないと思いつつもその音が気になり、音のする方へ進んでいく。秘密部屋の入口である回転ドアの前まで辿り着くと、はっきりと壁を叩く音と怒鳴り声が聴こえてきた。
一人で回転ドアまで来たの初めてだなぁ、と全く関係ない事を考えながら、ドアの向こうの事を考える。ここで生活してて、サラさんと領主様以外では初めての出会いだ。あの執事さんを除いてだけど。はぁ……。ドキドキしてきた。
「どちら様でしょうか?」
相手は驚いたのか、静かになってしまい、暫しの間、沈黙が続く。つい声を掛けてしまったが、うかつだったかな? 今頃になって後悔しても時すでに遅し。確か、ここの事自体が秘密じゃなかった? サラさんに怒られそうだ……。今からでも逃げようかな。
返事が無い様だし帰ろうかな、と踵を返そうとした時、相手から返事が来てしまった。
「ほ、本当に誰かいやがったのか。あのクソ親父め。ここで暮らしておいて俺様の事を知らないだと? 俺様はこのタスキン都市の領主であるヒャックの息子、ミスド様だぞ。そんなお前こそ誰だ?」
まさかの領主様のご子息様!? いつの間にここの事がバレていたんだろう。しかし、偉そうな人だ。あれ? 偉いのか。
それにしてもここを開けろってか……。
ははん、開け方なんて知りませんが何か? もし開けられたとしてもそんな事したらサラさんに殺される。出来る訳がないじゃないか。
うーん。僕の事を知ってる人ってこの屋敷にどれだけいるんだろう? 名乗ったとして、わかるのだろうか? そこまで考えてるのかな?
「僕の名前はヴァンと申します。すみませんが、開ける方法は知りません。領主様に聞いて下さい」
「ヴァンだな。おい、ヴァンとやら、知らないって事はないだろ? 二年前にお前、裏口から出てっただろ? 俺は見たんだからな。なのに何で開け方を知らないんだ? それから何回もここに来て、壁を叩いてたんだが、ずっと無視されてたんだ。だがな、それも今日までだ。遂に尻尾をだしたな」
今までそんな事知らなかったし。それって『恩恵』を授かる為に出たあの日の事だよね。まさか見られてたのか。そうは言ってもあの日だって、僕が開けた訳じゃないから知らないんだけど。そもそも、僕って閉じ込められてる状態なんだし。
それにしても、これはどうしたらいいんだろう? 勝手な事をしてこれ以上、事態を悪化させるのは怖いな。
困っていると、不意に頭をガシッと掴まれて、強制的に後ろを向かされる。
サ、サラさんがでたぞ~~~~~~~!!
そこにいたのは勿論、三国一の猛将、否、サラさんで、いつもと変わらぬ素敵な笑顔のお姉さんでした。流石サラさん、全く気配を感じなかった。あ、しかもこれまずい方の笑顔だ。
さよなら、僕。
「全く、ヴァン君はなぁにをしてるのかにゃー?? 勝手にこんなところに来て。今日は三倍かにゃ? 四倍かにゃ? 最近は夜目も利くようになってるのも知ってるんだから次の朝までだって出来るんだよ? だよ?」
何でバレてるし。朝まで訓練出来る様にするために見えるようになったんじゃありませんから。まぁ魔力の操作をしてる間に自然と出来る様になっただけなんだけど。
「勝手な事をしてすみませんでした。この状況どうしたらいいでしょう? あと、せめて二倍にしてくれませんか……?」
「な、何だって!? 五倍だなんてヴァン君やる気だねぇ。感心感心。ミスド様の事はもう大丈夫よ。今、領主様を呼んだから直ぐに来るわ」
こりゃ本当に寝かせてもらえないぞ? むしろ生きて太陽を拝めるのだろうか……。
そうこうしてる内に、領主様の声が聞こえてきた。何だか揉めてる感じもするけど、何とか収まりそうでよかった。
その後、大人しく部屋に戻り、床で正座して待っていると、サラさんと領主様が現れた。こりゃ本格的にまずい。追い出されるか……??
「久しぶりだな、ヴァン。私の息子がお騒がせしたようだ。どうも、二年前のあの日が原因で、ここの事に勘付いちまったらしいな。度々、壁を叩いてるところを使用人が目撃してたらしいが、口止めされちまってて、私のところまで話が届いてなかった。まぁあいつもあとちょっとで、五年程、王都へ修行に出るからもう心配もいらないだろう。名前は知られちまったみたいだが、顔は見られてないし、多分大丈夫だろう」
ふぅ……。とりあえずは大丈夫だったみたいだ。領主様が何とかまとめてくれてよかった。追い出される事も無さそうだし、このままここで頑張らせてもらえそうだ。
その後、少しだけ話をして、領主様は部屋を出て行った。最後に出て行く時、若干残念そうな顔をしていたのは気のせいだろうか。たまに覗かれてるし、謎な人だ。
残されたのはいつも通りの僕とサラさん。僕の不注意とはいえ、朝からハードだった……。
「領主様が優しくてよかったねぇ。一歩間違えたらコレよ、コレ」
親指で首を切る動作をする。冗談じゃすまないのでやめていただきたい。
けど、今回に関しては、完全に僕が悪かった。反省しなくちゃ。それにしても、まさか見られてたなんて……。王都に行くから大丈夫って言ってるけど、僕もその後から行くし。顔は見られてないけど、どんなきっかけでバレるかわからないから一応注意しとこう。今日だって、ちょっとした不注意でこんな事になってしまったんだ。気を付けておかないと王都でも出会いそうな気がする。
「まぁ、そんな事はいいから、朝食食べたら早速訓練だよ。楽しみだね」
一気に現実に戻された。全然楽しみじゃないんですけど。そんな事を思ってる内に既にサラさんの姿はない。
おかしいな? さっきまで一緒にお話をしてた筈なんだけど……。そんなに訓練が楽しみなんだろうか。僕にとっては地獄の始まりとも言える。
狂気の世界の始まりだぜぇ!!
朝食を無事食べ終え、いつもの部屋に入る。部屋に入ると朝と変わる事なく、鉄の棒が地面に刺さっている。端っこには、僕の相方鎧が飾られ、サラさんがその鎧を楽しそうに磨いている。二年もかかったけど、漸く基本的な型は覚える事が出来た。遂に鎧さんの登場なのかな。あぁ、鎧さんおかえりなさい。
「ヴァン君、やっと来たね。先ずはいつも通り裸足になって、鉄の棒の上に乗ったら、型のおさらいしとこうか」
おっと、珍しく最初は準備運動からなのか。のんびりしてると怒られるからさっさと裸足になって、鉄の棒に乗っちゃおう。
すっかり慣れてきた魔力の操作。早速足に魔力を集めてジャンプ! 親指一本で鉄の棒の上に立つ。流石に毎日やってるから慣れてきたね。よし、構え。そこからは自分で一つ一つを確かめるように型をなぞっていく。サラさんの視線が怖い。若干の緊張しながらも一通り型をなぞり終えると、案の定、鎧を投げつけられた。
ここまでは予想通りだ。だが、サラさんを甘く見てはいけない。こんな程度じゃ五倍どころかいつも通りになってしまう。たとえこれを朝までやったとしてもだ。鎧を着て足を縛られた状態で朝から晩まで泳がされたあの地獄に比べたらこんなの序の口だ……!
「それじゃ、次は鎧を着て同じ様に型をこなしていこうか」
あ、あれ? サラさんが優しい。こんな筈はない。
疑問に思いながらもさっきと同じ様に型をなぞっていく。サラさんは相変わらず、真剣な表情で僕の型を確認している。
無事、終わってしまった……。まさかこれで終わり??
その後、一旦席を外すとサラさんに言われ、休憩になってしまった。前代未聞だ。この後の事が恐ろしくなってくる。
とりあえず何もする事ないから、鎧を着たまま泳いどこうかな? 水の中にいると安心するんだよね。
結局、戻ってくるまで意外と遅くなってしまって疲れてしまい、サラさんに怒られてしまうのだった。
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