第六話 説明を受けただけで何で訓練が追加されるんだ!

 暫くすると、サラさんが戻ってきた。僕は背筋を伸ばして、サラさんからの言葉を待つ。


「さぁ、それでは何を教えてほしいのかな?」


 眼鏡をクイクイさせながら聞いてくる。その動作、本当に好きですよね。段々と気分がノッてきている証拠だ。


「えっと、僕としては魔力の事が一番気になります。ギルドや冒険者も気になるんですけど、魔力って僕達にもある物なんですよね? 僕、魔力を感じた事ないんですけど……」


 クイクイしてた眼鏡がキランと輝いたように見えた。


 こ、これはサラさんやる気スイッチモード!! 突如現れるめんどくさい、あ、話が長くなるやつだ。あれ? あんまり変わってない?


「魔力ね。フフ。これは確かに大事な事よ。先ず―――」


 はいはい、要約っと。あ、ごめんなさい。えっと、サラさんの話によるとそもそも人間には魔力って無いんだって、だから今の僕が魔力を感じる事が出来ないらしい。けど、さっきは魔力が備わってるってサラさん言ってたけど……。


「気が早いよ。そこもきちんと説明するからね」


 はい、すみません。そう、最初は無いんだけど、十歳になると魔力を得る方法があるんだって。その方法とは、教会で神様から『恩恵』を授かる事なんだ。


 それでは『恩恵』とは何か? 人間の魔力に関してはここが一番重要なポイントになるそうだ。


 『恩恵』を説明するには、それを授けてくれる神様について説明する必要がある。神様とは、簡単に言うとこの世界を創造してくれた四人の事だ。


 王国、帝国で信仰されている朱神教の神様、昼を作ったとされるヒノカミ様。ヒノカミ様は、王国と帝国の全ての十歳になった子供に対し、『恩恵』という形で魔法を授けてくれる。まぁ一説によると授けられるのではなく、元々あった能力を『解放』するとも言われている。どちらが正しいのか僕にはわからないけれど、『恩恵』によって魔法を授けられる事に変わりはない。その魔法だけど基本的には火、地、風、水の四種類のどれかを授けられる。ただ、稀にその人独自の特異魔法が授けられる事があり、この特異魔法の存在が、『恩恵』なのか『解放』なのか議論される原因になってたりするらしい。


 そして、この魔法は、人によって大きく差がある。その原因は、備わっている器の持てる魔力の限界値がそれぞれ違うからだ。これは授けられた時に既に決まっているものらしく、基本的に覆る事はないそうだ。ただし、小さいからって悪いわけじゃなく、使い方次第だって事だ。逆に大きくても使い方がわからなければ宝の持ち腐れになってしまうしね。


 噂によると、まぁ噂って言ってもサラさんから聞いただけなので定かではないけど、魔力の限界値って、その人の持つ意思の強さに左右されているらしい。ようは強い精神力が大事って事らしいよ。実際に、魔力の限界値が高い人にそういう人が多いらしいので、あながち間違いではないっぽい。


 せっかくだから、精神力も鍛える為にどんどん追い詰めていこうね、これで一石二鳥だね。って最後におかしな台詞を聞いたよ。最後の台詞と、その笑顔で色々台無しです……。そんなこんなで僕の何かをガリガリけずっていっているんですけど。


 ハァ。何が「一石二鳥です」クイクイだ、この訓練クイクイマニアが。あ、いえ、何でもないんです。く、訓練楽しいなぁ。毎日楽しみだなぁ。楽しみなのでそんな目で見ないで下さい。そ、そんな、いつもの三倍!? 小声で言ったって聞こえてます。え? わざと? えぇわかってますとも。くそっ! これが精神力を鍛えるって事なのか……!


 ごほん、気を取り乱して、いや、取り直して……。次に特異魔法。これは必ずしも使える魔法になるとは限らない。ただ、授かった魔法によっては、英雄にも大罪人にもなれる程、未知数なんだって。


 たとえば、今僕が勉強する為に使っているこの紙。ちょっと前までは、こんな気軽に白い紙なんて使えなかったんだって。質が悪く、書きにくいのに高価なのがこれまでの紙の認識だったらしい。それが、ある一人の特異魔法の使い手によって常識を覆される事になる。『生成魔法』といって、望んだ物を術者の意思で変化させる事が出来る魔法だ。この術者の凄いところは、ただ白い紙を生成したのではなく、白い紙を製造する為の装置を生成した事だ。それも一度作り方がわかれば簡単量産出来る様に工夫もされている。これによって、安価で質のいい紙を購入する事が出来るようになったんだ。


 この人の功績はこれだけじゃない。ギルドであれば、身分証明書の作成装置、それを管理する装置、他のところでも様々な装置を生成しまくったらしい。そんな人に僕は一度会ってみたいと思ったけど、既に亡くなってしまっている為、本人に会う事は叶わない。死ぬ数年前には屋敷に閉じこもっていたらしく、どんな最後だったのか殆どの人が知られていない。


 こういう話を聞くと『恩恵』を授かる日が楽しみになる。どんな『恩恵』を授けてもらえるのだろうか。


 それにしても、神様って凄い存在なんだね。世界の創造……。想像も出来ないよ。創造なだけに……。


 ………………。


 あぁ、今日はいい天気だなぁ。ま、まぁ『恩恵』という形で実際に授けてくれる位なんだから、実際にも存在するんだろうな。何で『恩恵』をわざわざ僕達に授けてくれるんだろう。それもバラバラに。みんな同じだけ与えてくれてもいいと思うんだけど、そこには僕達には想像も出来ない様な理由があるんだろうね。創造な―――。


 特に、特異魔法。これは読んで字のごとく、異質な魔法だ。内容によっては、人生そのものが大きく変わってしまう事になってしまう。これがまだいい人にだけ授かればいいんだけど、もし、悪い人に授けられたら……。お母さんと暮らしていた時だって悪い人はたくさんいた。そんな悪い人達の力になってしまっていたとしたらと思うと恐ろしくなってしまう。


 まぁそこはどんなに考えたって仕方がない、次の疑問に移るとしよう。色々な意味で精神的に切り替えないと本当に、本当によろしくない。訓練の事とか、訓練の事とか、そう訓練の事とか。あぁ……。昼食を食べてからが憂鬱だ。


 余計な事を考えつつも話はどんどん次へと進んでいく。今度は他の国の『恩恵』以外の話だ。『恩恵』はあくまで王国と帝国でのみ授けられる。信仰している神様が違うからね。では他の国ではどうしているのか。その答えは、それぞれの国が『恩恵』と違ったものを授けられているらしい。他国になると情報交換もしっかりされていない為、何が授けられているのかはわからないが、どんな国で、どんな神様がいるのかだけはわかっている。


 先ず、王国の東側にある国がトゥーシバ国。大地を作ったとされる碧神教の神様が信仰されていて、チノカミ様と呼ばれている。


 次に、王国の北側にある国がニタチ魔国。夜を作ったとされる黒神教の神様が信仰されていて、ツキノカミ様と呼ばれている。


 最後に、王国の西側にある国がダイスン獣国。海を作ったとされる白神教の紙様が信仰されていて、ミタマノカミ様と呼ばれている。


 そして先程勉強したばかりの王国、帝国のヒノカミ様を含めた四神がこの世界を作った神様達と言われている。


 更に、それぞれ従属神がいて、チノカミ様には『青龍』、ヒノカミ様には『朱雀』、ツキノカミ様には『玄武』ミタマノカミ様には『白虎』がそれぞれ守るように存在している。


 王国、帝国を含めて、わかっている国はこの五つだ。海の向こうまではわからないけどね。ひょっとすると海の向こうにはたくさんの国があるのかもしれないし、ないかもしれない。ただ、海は危険で、調査する事自体、リスクが高い。現状だと今の国を発展させる事が優先なので当分調査される事は無いらしい。


 魔力から始まり、自国、他国と歴史、地理について簡単に説明出来たらしいので次に移る。


 次は、ギルドについてだ。今まで触れた感じだと、国が運営していて、『冒険者』と呼ばれる人達が魔物を間引いているって事はわかっている。大事な事だからサラさんも優先的に話す訳で、その証拠に今もサラさんの眼鏡は輝いている。勿論、クイクイも忘れない。


 先ず、ギルドとは、王国、帝国の二国間で運営されている、国の雇用機関である。何だかスケールが大きいね。日雇いから定職まで、そこらの店番から大商会の店番まで、幅広く人材派遣をしている。先程の『冒険者』もその雇用の一つとして存在しているらしい。


 ギルドは二つに分かれていて、魔物の間引き、護衛等戦闘に関する事であれば冒険者。商業に関する事であれば商業者。冒険者は、ギルドを通して、護衛、警備、魔物の討伐といった戦闘に関する部門の全般を指している。商業者は、冒険者が取ってきた、魔物の取引、職業案内、起業等、商業に関する部門の全般を指している。


 僕がどちらを選ぶかはまだわからないけど、成人するまでにはある程度方向性を決めておかないといけないかな……。冒険者になって戦う。かっこよさそうで人気ありそうだけど、戦うって事はそれだけで危ない事だ。実際に一番人気の職業ってギルド職員らしいし。なんたって、国の機関の職員! 安定感ありそうだし、やりがいもありそう。まぁその分、仕事量も大変な仕事らしいけど。サラさんは何でこんな事まで知ってるんだろうね? 


 そんなギルドだけど、十歳から登録する事が出来る。身分証明書にもなり、必ず登録しなければいけない訳ではないらしいけど、仕事に就くのにほぼ必要になるから取らない理由がないよね。就職先の殆どがギルドに登録されてるらしいし、職業訓練や、起業する際の補助なんかも色々あるんだって。タスキンにもギルドはあるらしいけど、僕の場合は王都に行ってから登録になるって言われた。まぁどちらにせよ、『恩恵』次第で就職先が変わりそうだし、今はどんな状況になっても困らないように勉強と訓練に励むしかないよね。


 気持ちを引き締めていると、サラさんが眼鏡をサッと外した。やる気スイッチモードが解除されたようだ。窓から外を見てみると、すっかり日が高くなっているので、そろそろ昼食の時間になるのかな。今日の勉強は終わりなので、紙とペンを片付ける。これで昼食が終わったらその後は訓練だ。訓練だ。そう、訓練だ。生きて帰れるかな? あぁ、よく考えたら普通に帰ってこれた日の方が少ないや。とりあえず、今日の昼食の内容でも考えて現実逃避しちゃおう……。

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