第18話 服装
入学一年後には夢の共学となったムサクル。
その夢は理想でギャップがあった。
しかし、それでも予想もしなかったイベントが唐突にやってきた。
ダンシコーは共学になって以来、これほど頭を悩ませることは無かった。
「ヤバい! 俺、私服はポロシャツと綿パンぐらいしかないぞ!?」
強豪のラグビー部所属のダンシコーの一週間はほとんど部活。
一年のスケジュールの大半が、制服、ジャージ、練習着、ユニフォーム。
そのため、私服というものがほとんどない。
それでも、たまのオフのシーズンなど、クラスの友達たちと一緒に遊びに行ったりすることはあるが、基本的に服装を意識しない。
シンプルなポロシャツと綿パンやハーフパンツぐらいしかない。
しかし、今日はそういうわけにはいかない。
「無理だよな……だって……白河エルザだぞ? 校内どころかそこいらの芸能人なんかよりもずっと美人だし……多分オシャレなんだろうな……そんな奴と横に並ぶのに……」
心の中で憧れていた白河エルザと二人で買い物に行くことになってしまった。
目的は、入院した恩師である天王寺アリスへの見舞のお菓子を買いに行くこと。
正直、ダンシコーはそこら辺の百貨店でテキトーなモノを買うだけしか考えてなかったのだが、どういうわけか「一緒に行きましょう」とエルザに言われてしまい、気付けば初めて二人で学校の外で会うという奇跡のようなイベントを迎えてしまった。
「……でも、あんま気合入れ過ぎんのも……別にデートってわけじゃ……無いよな? あいつは随分とアッサリ『一緒に行こう』とか行ってたし、共学女子にとっては男子と二人だからってデートとかそういうことじゃないのかもな……そういや、前も仲の良い男女二人が帰ってるだけで『あいつら付き合ってんの?』って話になって、男と女が二人いるだけで付き合ってると思うのは恋愛経験のない男子校生の発想みたいなことを……ヒットが書いてるラノベにあったな……」
向こうは全く意識していないだろう。少しは意識してくれていたらとは心のどこかではあった。
しかし……
「たとえば……俺がメチャクチャにカッコつけて行ったとして……向こうがスウェットみたいな格好で着て『うわ、こいつたかがお土産買いに行くのに、何気合入れてんの? え? まさかデートだって思ってるの? うわ、これだから男子校は勘違いを……』みたいなこと思われたら嫌だし……」
期待しすぎると、向こうがその気が全くなかった時のギャップや、それを向こうに悟られたときの方がダメージでかいと、ダンシコーはマイナスなことを考え出した。
「くそ……服装に『気合入れてんなー』って思われないように、尚且つ少しカッコいいみたいな……どうしよう……ラグビーのグローブでも付けるか? 指先が出てカッコいいし……親父のサングラスでも……いや、そうだ! 中学の修学旅行のとき、アクセサリーショップで2000円した……このシルバーの十字架ネックレスでもつけるか! シルバーカッコいいし! なんか、渋谷とかで歩いてても……あれ? でも、これだと襟付きのポロシャツ着るとネックレスが見えない……服の外に出せねえ……ポロシャツじゃなくてTシャツに? いや、Tシャツは……そうだ! この陰陽マークのTシャツとアクセサリーを組み合わせれば―――」
考えがまとまらなかった。
そして、色々と試行錯誤した結果……
ダンシコー:というわけで、この写真の格好でどうだろうか?
花京院翼:ダセー! ちょ……マジやめろ!
エロコンダクター:ちゅーに~( ´艸`)
教祖:え? ボクはカッコいいと思うんだけど……最近のアニメでモテるキャラはそんなやつだよ?
ヒット:いやいや、現実ではイタイ奴だと思う……大学デビュー失敗パターン。俺も自分の服を選ぶとそうなると思うけど、人がそういうの着てるの見ると分かるわ。
サンガ:ジャージでいいと思う
ハカイ:タンクトップでいけ!
山田五郎:っていうか、白河とデートとか死ね
矢沢:是非とも陰陽マークのTシャツとシルバーアクセとグローブ装備で行って欲しい。白河さんの反応見たい
三上くん:気合入れないデートならユニシロをシンプルに着ればいい。清潔感もあるし。装備はやめろ
一同:それだッ!!!!
ムサクル仲間たちにメッセージで相談し、笑われ、イジラレ、嫉妬され、結局は原点回帰のポロシャツと綿パンでシンプルにという結果になった。
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