第2話 高嶺の花の恋愛戦略

「朝から頭抱えて……相変わらず……」


 教室で頭抱える鋼に声をかける一人の男子生徒。鋼は顔だけ見上げて慣れたように挨拶。


「よぅ、ヒット~……お前が書く小説の通りに物事はうまくいかないものだと……思ってな」

「あのね、ご都合主義が許されるのは小説の世界までだからね」


 幼さを感じさせる童顔。長すぎず、短すぎずの黒髪。ただ、その瞳は澱んで死んだ魚のような目をしている。

 その生徒の名は、「佐塚(さつか)筆斗(ひつと)」。あだなは「ヒット」。


「ヒット、眠そうじゃねえか。昨日も更新してたのか? 『カキヨミ』で」

「あ~、ランキングが微妙に落ちかけて、感想欄でも『エタるんですか?』、『はいはいまた新作ですか』みたいなの書かれてムカついて……」

「カカカ、大変だねぇ~現役高校生ラノベ作家様は……で、新しいの……なんてタイトルだっけ? あの大喜利みたいなの」


 高校生でありながら、頭に「売れてない」が付く、現役高校生ラノベ作家である。

 鋼にとっては高校入学してからのクラスメートであり、部活以外ではよく一緒に行動をしたり、遊んだりする親しい友でもあった。


「お、大喜利言うなって……タイトルは……追放された先で最強ハーレム王国を設立した俺はかつての故郷の奴らに復讐する。国が滅んだから俺の国に住ませてくださいなんてお願いしてももう遅い。お―――――」

「あ、もういいや」

「いや、最後まで聞いてね? リアルで自分の書いてる小説のタイトルを読み上げるって結構恥ずかしいのに勇気出したんだから、それを台無しにしないで欲しいからね」

「まぁ、いいじゃん。それが売れてるんだろ? いよ、ヒット様!」

「やめて! 爆死連続で俺の精神結構ヤバいからね? そろそろそのあだ名が重荷になってきているぐらいだからね? あと、この学校では俺がラノベ作家ってのは、内緒って言ったでしょ?」

「なんでだよ、いーじゃん別に。すげーんだし」

「なんかはずかしぃ!」


 部活も違えば、元々の趣味も違う二人。

 異色と言っても過言ではない、体育会系の男とインドア派の男。

 だが、彼らは普通に友達だった。

 いや、彼らだけではない……


「お~い、ダンシコ~、ヒット~、見ろよ。昨日面白い動画見つけてよぉ」

「なになにー? 僕にも見せてくださいよ~」

「まったく君たちは朝から勉強に関係ないパンツが見えそうで見えないじゃないかこの動画!」

「うほ、こ、これはけしからないんだな! ぶひ!」

「なんだ貴様ら……何の談義だ。この俺にも見せるがよい」

「うぇーい、おっはよーす! んで、なになにーなんのはなしーうぇいうぇーい!」


 この学校の「一部の男子」たちはそれぞれの価値観を持ちながらも全員が友であった。

 それは、元々同じ学校に入学し、同じ時間を過ごした元男子校の生徒たち。

 その様子を隣の席で本を読みながらも聞き耳立てているエルザは頭を悩ました。


(ほら……男の子同士で話し合うとこんなに饒舌で楽しそうで……彼、コミュニケーションが苦手ってわけではないのよね……そして何よりも多趣味というか……スポーツマンでありながらも、ライトノベルとか、ゲームとか、動画とかそういうものを趣味に持っている人たちとも仲良さそう……)


 自分と話をするときは口数も少なく、笑顔もあまりない鋼。

 どうして自分にはこうなのか?


(……まさか……だ、男子校だったがゆえの……お、女の子に興味なくて、む、むしろ……)


 読んでいる本の内容など頭に入らないどころかページがまったく進んでいない。

 

「そーいや、ダンシコー。さっき俺が渡した洋モノな……まぢ、神だから。親父の秘蔵なんだけど、出ている女優がマジヤバい!」

「お? どんなの?」

「長いブロンドのスーパーボディ! お前、好きだろ? ブロンド。大事なことなので二回言った」

「ッ、ば、か、おい!」


 鋼は慌てて友人の口を塞いでチラッと横目でエルザを見る。

 だが、エルザは聞こえていない……フリをして、目は本に向けつつ、心の中では小躍りしていた。


(女性に興味、ちゃんとあるのよね! しかも……長いブロンドが好き……ブラボーだわ! ママ譲りのこの髪でよかったわ! 自慢ではないけど、スタイルも同級生の中では自信あるわ! セクシーだと言われたことだってあるのだから!)


 更に本を持つ手に力が入りながらエルザは……



(でも、ブロンドが出て……しかもヨウモノってことは洋画よね? なんの映画? それならタイトルを調べたらその女優が参考になるし、なんなら私もその映画を見て……それよ! それだわ! ブラボーだわ、セクシーなうえに、賢いわ、エルザ! それなら何かの拍子で話題を共有して語り合うことができるわ! さあ? どんなタイトルなの?)


「日本語版のタイトルもウケるぜ。『緊急痴態宣言ファックダウン』だってよ」


(緊急地帯? 事態? 宣言? ファ? 聞き間違い? ロックダウンのことかしら? あとでトイレに行ってすぐに調べないと。そして女優も……ちゃんと映画を見て彼と話をするきっかけを……)


 

 エルザは心の中でそう決意し、そしてすぐにでもトイレに立とうとした。

 思い立ったらすぐ行動しなければならない乙女であった。

 そしてそれはエルザだけではない。



「でも、ダンシコーの最近の推しは青髪ツンデレ少女でしょ? ほら、このラノベに出てくるこの子……」


「はは、ま~、それはそれというか……」


(ッ!? え? あ、青髪? え? ブロンドではダメ? え? ツンデレって……たしか、好きな人に、『全然好きじゃないんだから勘違いしないでよ』とか言うアレよね?)



 エルザが立ち上がろうとした瞬間、新たな情報に驚き耳を再び傾けた所で……



「あ、あの! らら、ラノベの話でしょうか? さ、佐塚くん! あ、しかもそれはスペースアイドルフェスティバルの本ですね!」


「「「「ッッ!!??」」」」



 男たちの輪の外で、一人の少女が勇気を出してヒットに声をかけた。

 突然女子に話しかけられ、彼らは自分でないというのに全員がビクッと肩を震わせて一斉に振り返る。

 するとそこにいたのは……



「え……あ……せ、せーとかいちょう……さん」


「そ、そのような肩書で呼ばないでください! クラスメートなのですから、私のことは東堂院(とうどういん)雪菜(ゆきな)と呼んで下さい!」



 エルザ同様のチートスペックを誇る高嶺の花であった。






――あとがき――

お世話になります。引き続き頑張りますので、応援よろしくお願いします。

下記「★」でご評価いただけましたら、私も小躍りします。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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