ラブコメ初心者な元男子校生の共学ライフ~高嶺の花たちは苦戦の果てにポンコツ化する
アニッキーブラッザー
第1話 ダンシコーと高嶺の花
「あー、あぢー、今日は素っ裸で授業受けるか」
冬に比べれば春でも充分暑い。運動をすれば尚更だ。
部活の朝練を終えたその男は、流れる汗をタオルで拭きながら、教室へと向かっていた。
「よう、ダンシコー。秘蔵の洋モノ、持ってきたぜ。ホレッ、返却はいつでもいいぜ」
「ダンシコーくん。昨日言ってたエロゲー、持ってきたよ!」
その男は何の遠慮も羞恥もなく、朝礼前の校舎を下着姿でうろついていた。
男の名は檀詩鋼(だんしこう)。友人の間では『ダンシコー』と呼ばれていた。
私立に通う高校二年生で、県下でも有名なラグビー部に所属していた。
特別身長が大きいわけではないが、部活で鍛え抜かれた筋肉、そして堂々とした姿勢が身長以上にその男を大きく見せていた。
「ほっほーう。朝練で疲れきった俺を漲らせてくれるじゃないの」
その男をよく知った友人からすれば、男ならではの恒例な会話。
しかし、他人から見れば、凶悪な顔をした筋肉質でパンツ一丁の男が、成人向けDVDや二次元キャラがパッケージに描かれたゲームを抱えてニヤニヤしているという恐ろしい光景にしか見えなかった。
だから、そんな状態のまま教室に行けば、当然騒ぎになる。
『『…………』』
檀詩鋼はクラスの女子と目が合い、悲鳴を上げられた。
「キャアァァッ! へ、変態!」
「信じらんない、何でパンツしか穿いてないの!」
「しかも堂々とエッチなもの持ってるし……いやー、最低よ!」
そう、この状況はどう考えても変態とか言われても仕方ないだろう。
「うわっ、マジかよあいつ。汗まみれのパンツだけで登校とか……」
「しかもエロいもんの中に、なんかキャラクターの……なんか、アキバっぽい二次元とかいうの? そういうのも混ざってんだけどさ、あいつって顔は怖いけどああいう奴か?」
「引くわー」
女子からだけではない。一部の男子からも軽蔑の眼差し。だが、常識的には当たり前だ。
そして、檀詩鋼も今更自分が失態を犯していたことに気づいた。
「あー、そーいやー、そうだった……共学になってたんだった……」
一人で納得する檀詩鋼。先程までのテンションが一気に冷め、ペタペタと裸足で教室のタイルの上を歩いていた。
「ダンシくん」
檀詩鋼が自分の席にたどり着き、座ろうとすると、隣に座っていた女生徒が言葉を発した。
「学生同士でもセクハラになるわよ。そして汗の臭いを一秒でも早く取りなさい」
分厚く難しそうな本を眺めながら、そう告げる美少女。
輝くブロンドをポニーテールにまとめ、純粋な日本人とは異なるエメラルドの瞳。
女子の中では背も高くスラッとしていて、足も長く、どこか大人っぽい雰囲気を醸し出している。
そしてその透き通るような白い肌と細い腕は、傷と日焼けと汗まみれの檀詩鋼とは対極の世界の存在だ。
「もう一度言うわ。汗の匂いを取りなさい。t'as compris?」
彼女が本から顔を上げて檀詩鋼を見る。その瞳は引き込まれそうな美しさで、檀詩鋼は思わず見惚れそうになるが、それを悟られないようにすぐ視線を外してしまった。
「あ~……わ、悪かったな……えっと……しら……しらか……わ……」
「白河エルザよ……いい加減憶えてもらわないと寂しいわね……ラグビーでコンタクトのし過ぎで記憶が飛んでいるのかしら?」
「す……すまん……」
「じょ、冗談だからそんな真面目に捉えないで……」
緊張しながら少ない言葉で謝罪する檀詩鋼に彼女は不安そうに溜息を吐き、再び本に視線を戻しながら、言葉を返す。
「でもね、もうここは男子校ではないわ。あなたたちからすれば、統合された私たち『キョーガク』が急に来るようになって、生活や習慣を変えなければならなくなって気にくわないかもしれないけど……女子の目も気にして欲しいの」
「あ~……べつに、気にくわないなんて思ってないから……あと、俺が悪かったよ……」
私立・清栖(きよす)総合高等学校は、今年から誕生した。
誕生と言っても、統合されて生まれた高校である。
一つは、元男子校の『武蔵来栖高等学校』。
通称『ムサクル』。
「べ、別にね、私は謝ってほしいわけではなくて……怒ってるわけでもないの……」
「ああ……べつに……」
もう一つが、女子の比率が男子に対して八対二と非常に多いものの一応は共学校となっていた、『清学(せいがく)高校』。そこから『キヨガク→キョーガク』となり、通称『キョーガク』。
これは少子化に伴って男女の比率が同じになった共学で生きる元・男子校生たちのラブコメである。
「……………………」
「……………………」
そして無言になる二人。
檀詩鋼を始め、元・武蔵来栖高校の生徒たちは、共学になると聞いたときは、最初は全校生徒で神に感謝したいほどの喜びだった。
しかし、いざ共学になってしまうと、これまで男子校で許されていたものが許されなくなり、どこか窮屈な生活が待ち受けていたのだった。
だが、心の中では……
(やべえ、今日も話しちまった……学園最強クラスのチートスペック、頭良し、顔良し、スタイル良し、家柄良し、フランス人とのハーフってなんだよそれ! 反則、美人可愛すぎ! っていうか、名前覚えてないわけないだろォ! なんか名前を呼ぶのも緊張するというか……くそぉ、どうして俺は……女子ってどう接すればいいんだっけ? あれだけ共学に焦がれてたのに!)
こんな感じ。
一方で……
(うそ……戦う男の情熱的な汗の匂い……本当は……すき……でも、嗅いだら顔が緩んでしまうもの……逞しい筋肉……腹筋も素敵……友達と笑い合う時に見せるちょっと子供っぽいところも……でも、私ちょっとエラそうだったかしら? 嫌われてしまったかしら?)
こっちもこんな感じ。
そして……
(でも、今日はいっぱい話ができたぜ! 嬉しくてニヤケそうになるのも耐えられたと思うし……やっぱ、女子と話をしている最中にデレっとしたり、ベラベラとナンパ野郎のように話をすると逆に嫌われそうだし……必要なことだけ伝えるクール系のキャラの方がきっとウケがいいはず……)
(今日も全然話ができなかったわ。全然笑ってもくれないし、口数も少ない……彼が男友達と話をしているときはあんなに明るく楽しそうなのに……私とは目も合わせてくれない……脈……全然ないのかしら?)
こんな感じのことを各々心の中で思っていたのだった。
――あとがき――
初めまして、よろしくお願いします。
ラブコメジャンルの物語を書くのは初めてですが、頑張ります。
また、面白いと思っていただけましたら下記の「★」でご評価頂けましたらとても嬉しいです。モチベーションに繋がりますので。
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