第13話 男たちの決起

「キャプテン! トライ、お願いしますね!」

「まかせろ、マネージャー。今年の初試合。推薦入試とはいえレギュラーを抑えて一年を出している連中に一泡蒸かせてやるさ!」

「や、……約束ですよ? あと、怪我だけは……」

「分かっている。約束だ」


 人目も憚らずボーイッシュなマネージャーと指切りしてイチャつく相手チームのキャプテン。

 スポーツ刈りで精悍な顔立ち。おまけにラグビー部キャプテンと言えば普通にモテルのだろう。

 だから仕方ない。

 他の生徒達も「相変わらずだね」とか「ラブラブだよね」などと二人のやりとりに微笑んでいる。

 だが、鋼たちはその全てをぶちこわしたくなった。

 そして極めつけが……


「おっ、入学早々デビュー戦とは、やるねー後輩くん」

「あっ、せ、先輩……あの入学式の時は……」

「オーケーオーケー、今日はエキサイティングな試合を期待してるよ!」


 あれは……


「あんたってばラグビーなんかやるんだ」

「お前は入学式の時の?」

「ふーん、まっ、セーゼイがんばれば? ヘマしたら大笑いしてやるわよ」


 これも……


「ふふ、入学式の日に通学路で迷子になっていた子が、ラグビー部期待の救世主とはね」

「せ、先生、そんな大げさな。ただ、昔ちょっとやったことあるだけで……」

「こーら、今は監督でしょ。ってなんてね。ルールもよく分からない素人監督だけどね♪」


 あれも……確か……


「知らなかったー、リョーくんがラグビーやってたなんて」

「言ってなかったっけ?」

「言ってない言ってない!」


 鋼は彼らを覚えている。


「だいちゃん! はい、勝利のおまじないのカツサンド!」

「おっ、いつもワリーな」


 鋼は震えながら呟く。「絶対に試合中に吐き出させてやる」と。


「兄さん、マウスピース忘れてるよ!」

「おー、届けてくれてありがとな!」


 忘れていた? そんな半端な気持ちで来ている者には、絶対に負けないと、心に刻む。


「今年は凄いぞ。毎年部員も少なく、ムサクルにはボロ負けしていたが、今年は既に新入部員が四人。しかも経験者が入ってくれた」

「そうですね。スーパールーキー四人衆。今年はひょっとしたら……っひょっとしたら……」

「ははは、浮かれすぎだよ、マネージャー」

「キャプテンもです」

「ああ、でも、うかれるだけじゃない。現実に変えよう。今年こそ、歴史を変えるんだ」


 次々と、鋼たちが二度と手に入れることのできない青春を繰り広げる清学高校。

 正直思った。


「ナンダアノ茶番ハ?」


 すると、


「「「「「うおおおおおお、ぶっ殺せえ! ダンシコー!」」」」」


 背後から野太い応援が響き渡った。振り返るとそこには学ランの連中。檀詩のクラスメート達が血の涙を流して俺を応援していた。


「応援に来たぞ! 日曜だけどな! だって、日曜だけどデートの予定なんてねーしさ!」

「僕は三年間、友情に生きるんだ!」

「ちくしょー! ラグビーは良く知らねえけど殺せえ!」

「一殺で、学食一回奢ってやる!」

「お願いだよー、ギャルゲーラノベ高校を滅ぼしてえ!」


 全員で肩を組んで校歌を熱唱している。

 そこに、性格の違いなど関係ない。

 チャラ男も坊主頭もオタクもガリ勉も、皆同じ。同じ男子高校の生徒。それだけでもう彼らは親友になれた気がした。


「あー、サン、ハカイ……最初はぶっ倒す程度の予定だったが、気が変わった」


 だから、鋼は男子校代表として、皆の思いをぶつけてやることにした。


「あいつら全員! 一人残らず虐殺する!」

「倒すということに反対はない」

「くははは、大賛成だ。獲物は全部俺の物だ」


 男子校の仲間の想いを背負って、鋼は目の前の理想の高校生活を打ち砕くことにした。


「おい、オメーらだけじゃないぞ」

「そうだよね。僕たちもね。もうね、どうでもね、いいんだよね」

「小学生以来の坊主になっちまった。もう、俺もあの高校ぶっ殺す以外、どうでもいいや」


 坊主にされた同期たちも、既に心を入れ替えた。

 女子に注目されたいと思っていたが、今はそんな気持ちなど既に飛んでいた。

檀詩は頷いて、両腕を広げる。


「よし、円陣組むぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


 校庭の空気が変わった。

 ビリビリとした空気に驚いた清学高校の生徒たちが一瞬で沈黙した。

 静まり返ったグラウンドで、この日のゲームキャプテンである鋼が叫ぶ。



「俺たちが出会ったのは偶然。だが、共に戦うのは運命!」



 男たちは強く肩を組む。仲間のウェアを力強く握り締める。



「この運命の日、俺たちは勝利を手に、頂点への道を歩み始める!」


「「「「「っしゃあ!」」」」」



 全員で同時に足踏みをする。



「野郎ども! お前ら結構イケてんぞ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


「女より楕円球の方がセクシーだぞ!」


「「「「「ウラァ!」」」」」


「俺らにはアリスばーちゃんがいるぞ!」


「「「「「イエーッス!」」」」」


「タックルタックル!」


「「「「「オーッし!」」」」」


「前進前進!」


「「「「「ッシャーし!」」」」」


「激しく激しく!」


「「「「「ウィー!」」」」」


「百パー百パー!」


「「「「「ウッーシ!」」」」」


「行くぞッ! 敵はハーレム高校!」


「「「「「っしゃあ!」」」」」

 

「全員まとめて~~~っ!!」


「「「「「かかってこいやああああああああああああああ!」」」」」



 男たちの魂が一つになる。

 円陣を組んだまま前へ出て、胸板同士を一点にぶつけ合う。

 叫んだ言葉は意味不明。だが、見ている者たちには熱気と迫力が十分に伝わったのだった。







――あとがき――

お世話になります。本日、私の別作品「禁断師弟でブレイクスルー」のコミカライズが更新されます。ご興味ありましたらご覧ください。

https://seiga.nicovideo.jp/comic/47196

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